部族化シリーズ 2話~宇宙から来たシーメールはかわいくて強いという話~

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帽子男 @alkali_acid

親方!空から男の娘…いやシーメールが!

2018-02-13 23:04:22
帽子男 @alkali_acid

空から男の娘…いやシーメールが落ちてくる。大気圏突入機に入って。 パラシュートの機能を果たすらしきエネルギーフィールドが展開するが不完全で、人間の居住区のそばに轟音とともに衝突する。 男の娘、いやシーメールは無事か…あの衝撃では…

2018-02-13 23:05:50
帽子男 @alkali_acid

親方とその助手は近づく。 プシュー、音を立てて開く宇宙機。 おお!見よ!男の娘、いやシーメールは無事だ!まだ幼児だが!じゃあなんでシーメールかどうか分かるんだよ!そうですねこの時点では分かりません。 でも桃から生まれた桃太郎が桃太郎だって読者には分かるみたいのがあるじゃん。それ。

2018-02-13 23:08:08
帽子男 @alkali_acid

「…うーん。なぜ空からこんなものが」 「どうする、親方」 「どうって…とりあえず病院で検査を受けさせるよね」 普通の対応。そんな訳でシーメールちゃんは病院に入り、色々検査を受けてなんも人間と変わらんと分かる。宇宙機はすごい技術でできている。宇宙シーメール技術で。シュメールちゃうで。

2018-02-13 23:10:12
帽子男 @alkali_acid

シーメールちゃん。長いのでシメちゃんはすくすくと育つ。 親方は引き取ろうと申し出るが、そんなむさい男に子供任せられるはずないんだよなあ。追い出され、ちゃんと偉い学者さんとかが研究しながら育てる。宇宙から来たシーメールやけん。鍵のかかるガラス張りの部屋でな。 「あー退屈」

2018-02-13 23:11:43
帽子男 @alkali_acid

シメちゃんも育ってくるとそういう籠の鳥の暮らしが嫌になってくる。 「きれーな服は着れるしー、玩具もいっぱいもらえるけどー。でもシメはおそとがみたーい。親方のとこ遊びにいきたーい!かっこいい男の人と恋したーい!かわいいってちやほやされたーい!」

2018-02-13 23:13:19
帽子男 @alkali_acid

ところで、シメちゃんには不思議な力がある。宇宙(スペース)シーメールパワーと呼ぼう。略してスペシメ光線が出せる。光線と言っても目には見えないが、なんかそういうのが出る。 ビビビビビ。鍵に浴びせるとがちゃっと開く。 「やったー!シメ天才!!」 お外に出る。 「あ、君どこへ」 ビビビ

2018-02-13 23:14:54
帽子男 @alkali_acid

スペシメ光線を打って子守りをくらくらさせると、すたこら逃げる。 居住区はわいわいがやがや。楽しそう。でも遊んでいるとすぐ捕まっちゃう。 「えーと親方がいるのはー…なんだっけ。港のあるとこ!」 港いきの牛車(ぎっしゃ)が出るのはどこでしょう。どこでしょう。

2018-02-13 23:16:41
帽子男 @alkali_acid

「そこのおーじさん。シメに教えて。港のあるところにいく車はどれー?」 「ん?ああ、それならあの輸送隊だよ。でもお前さん見ない顔だね」 ビビビ。スペシメ光線がさえる。 「ふふふ潜り込んじゃうのだ」 潜り込んじゃう。シメちゃん行動力ある。

2018-02-13 23:18:00
帽子男 @alkali_acid

シメちゃんが荷物のあいだに潜り込んでいると、牛車は動き出す。 「なーんかこのへん荷物が変だな…よけいなもん積んでないか?」 と誰かがやってくる。 またビビビビか?でもシメちゃんはおなかが減ってもう光線が出ない。

2018-02-13 23:19:15
帽子男 @alkali_acid

「あうー…シメおなかへったー」 「わ!なんだよお前!なんでここにいんだよ」 生意気そうな短髪の子供が荷物をどけてシメちゃんを見つける。同い年ぐらいかなー? 「ううシメおなかへったー」 「ただ乗り!」 「おなかへったー」 シメちゃんの上目遣い。光線より効く、場合もある。

2018-02-13 23:21:02
帽子男 @alkali_acid

子供はむうっとにらんでから、鼻を鳴らす。 「ったく。しょうがねえな。ほら。俺の昼飯半分やるよ」 効いた?かどうかは分からないけど危機回避。 「お前どっから来たの」 「えーおうちー」 「家出?」 「親方のとこに遊びにいくの」 「親方…ひょっとしてがらくた屋の親方?」 「そー、かな?」

2018-02-13 23:22:20
帽子男 @alkali_acid

「親方、また海に出ちまってしばらく戻らないって聞いてたけど」 「えー…シメ親方と会いたい…でも会えないならかっこいい男の人と恋したーい。ちやほやされたーい」 「ばーっかじゃねえの」 「あなたはされたくないの?」 子供はぷんすか。 「されたい訳あるか」

2018-02-13 23:23:41
帽子男 @alkali_acid

子供はそうだなあ、カイとかそんな名前。 「俺はカイ、お前はシメ?」 「シメちゃんでーす」 「おんなおんなしてんなー」 「えへへー?かわいい?」 「べーっつに」 「えー…カイは輸送隊のひと?」 「そーだよ。実習中」

2018-02-13 23:25:12
帽子男 @alkali_acid

牛車はのろのろのろのろ進んでいく。 「とにかく隠れてろよ。とくに休憩中は大人にばれねーようにな」 「わかったー。まあシメちゃんの光線でビビビなんだけどー」 「はあ?いいからほら、荷物のあいだに!」 「んむー!」

2018-02-13 23:26:10
帽子男 @alkali_acid

何度か休憩するが見つからないで済む。皆外ばかり警戒していてただ乗りなんか恐れてない。そもそも道中がかんまり危険なのでわざわざ乗って来るやつもいない。 「ねーいつつくのー」 「まだ半分もいってねーよ。動力つきの車ならはやいけど、悪いもんを引き寄せちまうからな」 「わるいもん?」

2018-02-13 23:27:26
帽子男 @alkali_acid

「学校で習わなかったのかよ。小型獣とか中型獣とか…あと飛行獣とかだよ」 「えーならったよー。異世界転生体群のことでしょー?」 「うん…それ」 「へへへシメちゃんも知ってますよーだ。でも大丈夫カイが襲われたらビビビで守ってあげるね」 「ばーかチビのくせに」 「むー!」

2018-02-13 23:29:02
帽子男 @alkali_acid

旧連邦道路という劣化の激しい幹線を通って、三日ほど経ったろうか。 カイはなんとか野営中もシメちゃんを隠しとおし、とぼしい食糧を分け合い、ようやく中間地点に、崩れた道路に橋がかけてある。 すぐそばまで迫る密林を切り開いて荷物の集積所のようなものも設けてある。 「ついたー?」 「まだ」

2018-02-13 23:31:11
帽子男 @alkali_acid

輸送隊は集積所に荷物を加える。 何人かの女達が残る。腰の曲がった老婆もいる。 「あれなに?」 「へん。ありゃー部族化したがってる女だよ」 「部族化ってー?」 「…学校で習ったろ。人間じゃなくなるんだよ」 「ああ、後適応!知ってる。でも頭の中変わっちゃうんでしょ」

2018-02-13 23:32:37
帽子男 @alkali_acid

「でも部族化すれば、すぐ死んだり病気になったりしねーし、また若くなれるんだってうわさだ…あんなばあさんまでなれるかわかんねーけど」 「えー…」 まだ年端もゆかぬ二人にはその価値は理解できない。 「カイもなりたい?」 「強くなって狩りってのはやってみてーな!」

2018-02-13 23:35:21
帽子男 @alkali_acid

「強くなるの?狩りするの?」 「そーだよ!部族は槍とか弓だけで大型獣だって倒しちまうんだぞ!」 「えーすごい」 「学校で習っただろ」 「転生後生態系の頂点に位置するんでしょ?」 「それ」 「シメちゃんもなれるかなー部族…狩りはしなくていいけどー…」 「なれるんじゃね?」

2018-02-13 23:36:54
帽子男 @alkali_acid

カイは訳知り顔で言う。 「ふつう部族の女は外へ出てこねえんだけど、最近、女だけで狩するやつらがいるんだってさ。頭のユミってのは、もともとは居住区の人間で、あとから部族化したんだ!怖くって、きれいで、まるで人型の獣みたいだって」 「すてき…でもシメちゃんはもっとかわいくなりたい」

2018-02-13 23:38:52
帽子男 @alkali_acid

輸送隊の面々がそれぞれ位置につく。 「あ、出発だ。隠れてろよ!」 「うん!またあとでねカイ」 牛車の列が動き出す。 密林に跋扈する部族への供物と生贄の女達を後に残して。 しばらくは平穏な旅が続いたが、やがて災いが追い付く。 数頭の小型獣が道路に迷い出て、牛車にかかってくる。

2018-02-13 23:41:37
帽子男 @alkali_acid

消音装置つきの銃で防衛団が応戦するが、一部は守りを破って輜重にたどりつく。 「うわああ!!」 カイはどうにか逃れようと、御者台に座って駄畜を御そうとするが、そろって恐慌を来しており、めちゃくちゃに走り出す。 シメが荷物のあいだから飛び出す。 「悪いもんはこうだー!」 ビビビビビ。

2018-02-13 23:44:22
帽子男 @alkali_acid

小型獣はショックを受けたようすで背を向けて逃げていく。 「わああああ!!止まらねえ」 「もー牛さんたちー!えーい!」 ビビビビビ。駄畜はあっというまにぼんやりして架空の草をもしゃもしゃし始める。 「シメ…おまえ…」 「へへん。カイのことはシメちゃんが守るから」 「ちぇっ…ありがと」

2018-02-13 23:45:46
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