子どもたちは変わらない

時代の変化とともに変わっていくように見える子どもたち。しかし変わったのは子どもではなく大人なのだ。
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shinshinohara @ShinShinohara

ある日「不法家宅侵入」事件が発覚した。塾生の様子がおかしいと思っていたら、そのうちの一人のお母さんが「実は」と相談してきてようやく判明。実に塾生の11人がその事件に関わっていることが分かった。塾生以外も関わっていたが、とりあえず実情を明らかにするため、全員に集まってもらうことに。

2018-02-03 21:29:31
shinshinohara @ShinShinohara

話を総合すると、次のことが判明。近隣の駄菓子屋さんが高齢のため店じまいをすることに。「子どもたちに支えてもらったから」ということで、店にある商品は自由に持っていってよいと老夫婦は子どもたちに告げた。だから子どもたちはそれまで以上に足しげく駄菓子屋に通っていた。

2018-02-03 21:31:53
shinshinohara @ShinShinohara

ある日、老夫婦も誰も店にいないのにシャッターが少し開いていた。「おっちゃーん、おばちゃーん」声をかけても返事がない。店のものは持っていってよいと言われていたから持っていった。そのうち、いつ行っても誰もいないものだから、子どもたちは秘密基地にし始め大暴れ。

2018-02-03 21:34:15
shinshinohara @ShinShinohara

子どもたちがすっかりそこを自分達の秘密基地にして安心しきっていたところに、老夫婦の息子なるものが現れ、一網打尽。名前や住所を言わされ、その後、次のような脅しがそれぞれの親になされた。「これは不法家宅侵入です。家財も破壊され無茶苦茶。一人当たり50万円賠償しなさい。」

2018-02-03 21:37:12
shinshinohara @ShinShinohara

その男は次のように付け加えるのを忘れなかった。「お子さんの経歴に傷をつけたくないでしょう?賠償しないなら警察に訴えますから。」その脅しに恐怖し、親子で動揺が広がっていた。塾生の様子がおかしかったのはそのせいだった。それにしても、この事件に関わった子どもの大半が塾生という面白さ。

2018-02-03 21:39:58
shinshinohara @ShinShinohara

親御さんたちは釈然としない思いながらも、子どもの将来を考えて50万円を支払うしかないか、と考えていた人たちも多かった。他方、子どものしたことで、しかも駄菓子屋の大したものも残っていなかった状態で一人50万は非常識。でも不法行為したのは我が子だし・・・整理がつかず、惑乱していた。

2018-02-03 21:42:49
shinshinohara @ShinShinohara

私たちは「子どものしたことは、よほどの危害を加えたのでない限り、菓子折一つ持って謝る程度、実害分相当の弁償が関の山、店の品物全部を引っくるめても50万にならないのに一人50万というのは法外、足下を見ているだけ。そんな要求に応じる必要なし」と言った。

2018-02-03 21:45:52
shinshinohara @ShinShinohara

なんと、相手は幼稚園の理事長だということが発覚。代理人として裁判所に行き、「子どもたちがしたことを謝るのは当然。しかし50万もの賠償を一人一人に要求するという行為、教育者としてどういうことか」と伝えた。親御さんたちは子どもと一緒に菓子折持って謝りに。それで決着。

2018-02-03 21:53:23
shinshinohara @ShinShinohara

すでに相手は、50万円を支払わなかった親子を裁判所に訴えていたので、警察と裁判所に32回通う羽目になったが、事情を説明すればどちらの担当者も理解を示してくれた。菓子折一つで謝罪すればすむ話、それ以上要求する方がおかしいという常識的な決着を見た。

2018-02-03 21:55:38
shinshinohara @ShinShinohara

しかし実は、私たちに代理人を頼まなかった親御さんたちが数組いて、こっそり50万円を相手に支払っていた。そちらは訴えられずに済んだは済んだわけだが、こちらはあとがよろしくなかった。子どもたちが「何かやらかしても金で解決できる」と「学習」してしまい、素行が改まることはなかった。

2018-02-03 21:58:12
shinshinohara @ShinShinohara

警察に訴えられた子どもたちは、裁判所などに出頭するなかで「もうコリゴリ」となったのだろう。「なあ、テレビでやってるみたいに裁判官がズラリと並んでいて、被告席に立つんか?」と心底ビビっていた。実際には小さな部屋で着席して話し合うだけなのだが。

2018-02-03 22:00:07
shinshinohara @ShinShinohara

まあ、警察と裁判所にお世話になる子が大勢通っているので「不良塾」と呼ばれていた。塾生たちは「男塾」と呼んでいた。その後もいろいろ事件を起こし、実に様々なことを子どもたちから学んだ。一つ言えることは、子どもは時代が変わっても変わるものではない。大人が変わるのだ。

2018-02-03 22:02:45
shinshinohara @ShinShinohara

その事件を起こした学年の2歳上の親までは「社会常識」を共有していた。ゴールデンウィークに塾生を泊まりがけの山に連れていったのだが、出発前によろしく、戻ってきたらありがとうございました、と全員の親が挨拶に来た。しかしその下の学年からおかしくなった。

2018-02-03 22:06:38
shinshinohara @ShinShinohara

「金を払ってるだろ」という態度をとる親が現れた。それまではお金のことはさておき、子どもが世話になるなら人間として挨拶をするのは当たり前だとどの親もみんな考えていた。ところが、その学年からは「塾をやめたら困るにはそっちだろ」と足下を見ようとする親が現れた。呆れた。

2018-02-03 22:09:12
shinshinohara @ShinShinohara

さらにその翌年の学年が「不法家宅侵入」事件を起こしたわけだが、日本人が長らく維持してきたはずの「社会常識」がついに崩壊し始めたことを感じた。「子どものやらかしたことはよほどのことでない限り、親子できちんと謝るのを前提に、菓子折一つ」が常識だったのに、それが分からなくなった。

2018-02-03 22:11:20
shinshinohara @ShinShinohara

50万円を払った親は「非常に痛いけど、子どものために金を支払う親の姿を見れば子どもはこれを機会に変わってくれると思う」と言っていた。私たちは「違う」と言った。むしろ、親自身が頭を下げるより金を払った方が気分的に楽、という点を子どもに見透かされるからやめなさい、と言ったのだが。

2018-02-03 22:14:27
shinshinohara @ShinShinohara

金を払って済まそうとするより、菓子折一つ持って親が平身低頭謝り、必要とあれば警察にも裁判所にも足を運ぶ方が、親もたまらんが何より子どもにはたまらない。中学生にもなって親に対処してもらわなければならないことが辛くて仕方ないのだ。50万支払った親はそこがわかっていなかった。

2018-02-03 22:16:34
shinshinohara @ShinShinohara

時はバブルの余韻冷めやらぬ頃。みな、お金はどうにかなった時代だった。50万円は、支払えなくもない絶妙な金額設定だったと言える。でも、子どものしたこと、そして経緯を考え合わせれば、老夫婦が「持っていって」と言っていたのだから、金銭を支払う必要は一切なかった。

2018-02-03 22:18:58
shinshinohara @ShinShinohara

この事件は、バブルを境に日本人がよくも悪くも共有してきた「社会常識」が音を立てて急速に崩れ始めていることを示していた。だがこの事件のお陰で確信が持てた。「子どもが変わった」のではない。大人が変わったのだ。子どもはいつの時代も変わりはしないのだ。

2018-02-03 22:20:45
shinshinohara @ShinShinohara

ゴミを道に捨てては「これは仕事を与えているのだ」と言い、自転車のカギをわざとつけたまま放置して盗ませておいて、親に新しいものを買ってもらおうとする子どもたちが現れたのもこの頃。バブルは「人への敬意」を失わせ、すべてを金の力で解決させようという人間を多数生んでしまった。

2018-02-03 22:34:14
shinshinohara @ShinShinohara

しかし、阪神大震災が起きたとき、あれほど魔性にとりつかれたように問題を起こしてばかりだった子どもたちが、ピタリと変わった。自分達にできることを考えた。子どもたちは何も変わっていなかった。彼らに妙なモデルを示していた大人がいけなかったのだ。

2018-02-03 22:36:16
shinshinohara @ShinShinohara

駅前で義援金を募ったとき、電車通学する子どもたちはものすごく気にしながら学校に向かった。帰ってきたとき、まだ募金を募っている私たちを見て走り出した。そしてゼイゼイ言いながら貯金箱の中身を全部入れてくれた。子どもは通りかかると必ずありったけ入れてくれた。大泣きしてしまった。

2018-02-03 22:41:35
shinshinohara @ShinShinohara

女性も必ず募金してくれた。日雇いのおっちゃんも「えー!さっきもしたとこやねんけど、あったかなあ、ちょっと待ってや」と言いながら小銭をジャラジャラ入れてくれた。しかし、一緒に義援金を募っていた子どもが言った。「ネクタイを締めている人はちっとも入れてくれないね。」そうか。

2018-02-03 22:44:16
shinshinohara @ShinShinohara

「ネクタイを締めた大人たち」が歪んでいることに気がついた。その人たちは冷笑的な笑みを浮かべながら通りすぎた。女性も子どもたちも「自分にできることはないか」必死に探している中で、妙に冷静な、いや、冷酷で残酷な笑みを浮かべた当時の男性は、何を考えていたのだろう。

2018-02-03 22:46:53
shinshinohara @ShinShinohara

義援金で購入した救援物資を神戸に運ぶ道中、被災地で段ボール紙に「僕にできることはありませんか」と大書して歩いていた子どもがいた。涙が吹き出た。ああ、子どもたちは何も変わっていない。阪神大震災で子どもたちは「戻った」。「戻れなかった」のは大人たちだったのだ。

2018-02-03 22:49:52