部族化シリーズ 5話~部族化ほど楽しい暮らしはないという話~

物語は佳境へと入り始める……
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帽子男 @alkali_acid

はいヨタ話を始めるべ…

2018-02-16 21:40:10
帽子男 @alkali_acid

部族化ほど楽しい暮らしはない。

2018-02-16 21:40:41
帽子男 @alkali_acid

部族化ほど楽しい暮らしはない。みんなずっと若くて健康、森には食べ物があふれ、狩りがいのある手強い獣もいる。どの氏にいても色気たっぷりの共有妻を好き放題抱きまくれる。最近は一つの氏(うじ)に二人かそれ以上の妻がいるぐらい女の供給も増えてきた。

2018-02-16 21:43:00
帽子男 @alkali_acid

部族化。 機械文明崩壊後に始まった動き。 環境に適応した新人類は、旧人類の叡智と引き換えに強大な肉体と精神を手にし、生活の変革に踏み切った。多くのものが選んだのが、かつて存在したに違いないと想像する伝統社会を、ごくいびつに模した「部族」という形態だった。

2018-02-16 21:49:01
帽子男 @alkali_acid

文明崩壊前に各地に息づいていた本来の部族とはまったくかけ離れ、より不完全で不安定な共同体だったが、若々しく瑞々しい勢いに溢れ、絶えず流転する状況のなかで、幸福と繁栄を得ようと試行錯誤を重ねていた。

2018-02-16 21:50:33
帽子男 @alkali_acid

部族となった新人類はまだ、旧人類と共通する精神をとどめていたが、半神のごとき強靭さ故に残酷で勝手でもあった。年老いも病みもせぬ体に宿る心は、挫折や失敗による屈託を抱かず、どこまでも野放図。 永遠の子供ともいえる存在で、無邪気に親である旧人類から多くを奪った。

2018-02-16 21:54:45
帽子男 @alkali_acid

旧人類は子である新人類を恨み、憎んだ。 だが大いなる自然は、部族に微笑みかけていた。知性化動物や、新たに出現した大型生物などいくつかの競争相手と戦いながらも、着実に勢力を増しつつあり、我が世の春を謳歌していたのだ。 少なくともこれまでは。

2018-02-16 22:03:13
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「キャッホー!親方のロボよりはやーい!」 「当たり前さ!機械なんか勝負になるか!」 「すっげー!木があんな小さい!」 飛行獣に乗った少年と少女が空を駆ける。 天を遊び場とし、風を玩具とし、太陽と雲を友として。

2018-02-16 22:04:35
帽子男 @alkali_acid

はるか眼下の地上をゆっくり中型獣が闊歩している。小山のような背には刺青を帯びたほぼ裸の娘が胡坐をかいて瞑想にふけっているようだった。 「ヒメ姉だ!おーいヒメ姉」 飛行獣がななめに滑空し、乗り手である少年が呼びかける。 年上の同族はまぶたを開いて、ゆるやかに腕を振り返した。

2018-02-16 22:06:52
帽子男 @alkali_acid

ここは密林部族の勢力圏。しかも新たな生態系が極相、つまり最終段階に達した地域。とある女が持ち出した大胆な提案によって、危険な獣を飼い馴らす試みが進んでいる場所である。 少年や少女は、いわば牧童のつとめを引き受けているのだ。

2018-02-16 22:10:13
帽子男 @alkali_acid

ヒメと呼ばれた娘、飛行獣を操っていた少年ヒコ、さらに部族の外から来た二人、シメとカイを交えた四人は集まって昼餉をとる。まわりでは獣がおとなしくしている。 「すげえな。中型獣まで馴らすなんてさ」 「まだこいつ一匹だけだ。小型獣よりは簡単だってヒメ姉が」 「草食いだからだ」

2018-02-16 22:11:55
帽子男 @alkali_acid

ヒメは乳房の下を掻きながら弟のおしゃべりを訂正する。 「中型とか小型とか、いい加減すぎる。あいつらは種類がもっと多い。草食いの広鼻は気性がおとなしい。ヒコの飛行獣は肉食で荒っぽいのになついた方が不思議だ」 「胞から見つけたからさ。俺の血も味あわせた」

2018-02-16 22:14:11
帽子男 @alkali_acid

なにやら色々こつを話してくれるが部外者であるカイやシメにはよく分からない。 「いいよ。部族の大人もちゃんと聞いてくれない。氏長はすぐ分かったみたいだけど長く話し相手になってくれないし、ユミとカオルコぐらいかな」 「ユミ?カオルコ?」 「氏の共有妻だよ。カイやシメと同じで外から来た」

2018-02-16 22:16:26
帽子男 @alkali_acid

「へー!」 「ユミさんかー…さすがだな」 「どっちも強くて賢くて、すごい人気なんだ。よその氏が交姦したがってうるさいよ。でもユミはほかの氏の妻や乳母が連れてっちゃって、男達はさわらせてもらえないことだってあるって」

2018-02-16 22:19:07
帽子男 @alkali_acid

「なんで?」 「ユミは妻や乳母を狩りに誘うんだ。女だけの氏みたいのを作って、どっかいっちゃう。何日も帰ってこないこともある…それで戻ってきたらほかの部族の男…っていっても俺達より小さいのを連れて帰ってきたりする。やりたい放題さ」

2018-02-16 22:21:32
帽子男 @alkali_acid

「いいなー…俺もはやくユミさんみたいに」 「カイならなれるよ」 「えーカイはシメちゃんと一緒がいい!」 「シメもユミさんみたいになればいいだろ」 「もっとかわいいのがいいなあ…」 「ユミさんはかわいいだろ!」 わめく客達をよそに、中型獣使いのヒメは汁気ある果実をかじりながら横になる。

2018-02-16 22:23:53
帽子男 @alkali_acid

「ヒメも共有妻なの?」 「あたしは違う」 姉がぼそっと答えると、弟が補う。 「そうなんだ。ヒメ姉ったら強い子産みそうなくせに」 カイとシメは別々に首を傾げる。 「いいの?」 「そんなもんか?」

2018-02-16 22:25:59
帽子男 @alkali_acid

中型獣使いはめんどくさそうに答える。 「ユミが良いってさ」 「氏長も良いって」 飛行獣乗りも和す。 「あんたの氏長はユミの言いなりだから同じことだ」 「そうじゃないよ。氏長は良いと思ったことだけ良いって言う」 「同じだろ」 「うーん」 カイとシメはまた分からん顔になる。

2018-02-16 22:27:40
帽子男 @alkali_acid

「あたしは子を産むとか男とか女とか興味ない。獣馴らしを引き受けたのもひとりでいられるからだ」 「シメここにいたらじゃま?」 おそるおそる長髪の子が尋ねる。 「たまの客はいいよ」 あっさりした返事。短髪の子が問う。 「ひとりで退屈しねえ?」 「そんなにしない」

2018-02-16 22:29:48
帽子男 @alkali_acid

ヒメは立ち上がる。 「森は面白いもんがいっぱいるからね。雨季になったらきれいなもんが見られるよ。案内してやる」 小さな客二人は大喜び。 「え!見たい!」 「俺も!」 「またおいで。今日はあたし、こいつを水浴びさせてやんなきゃいけないからね」

2018-02-16 22:31:47
帽子男 @alkali_acid

地響きをさせながら中型獣が主とともに行ってしまうと、ヒコはほうっと溜息をつく。 「ヒメ姉。いい女だろ。あれで母の腹が同じじゃなきゃ俺の共有妻にしたい」 「だめなの?」 「めんどくせえんだな」 「…ユミは良いって言うかも…カオルコが言ってたけど、俺達は…なんだっけ」

2018-02-16 22:33:54
帽子男 @alkali_acid

「血筋よりも…転生した情報が強いんだ…だから母の腹が同じでも、共有妻にしてさわりはないはずだって。赤子は皆強く生まれてくるって」 「じゃあいいじゃん」 「ヒメのこと好き?」 「…でも、ヒメ姉は、共有妻とかどうでもいいんだ。あれ強がりとかじゃなくて、ほんとどうでもいいんだ」

2018-02-16 22:36:31
帽子男 @alkali_acid

「どうでもいいならヒコの願い聞いてくれるかもしれないじゃん」 「うんうん」 「うーん…でも…うちの氏、共有妻二人もいるし…三人は…それに氏長が抱いたら、いくらヒメ姉だってきっと氏長に夢中になっちゃうよ」 「そういうもんなのか?」 「そんなにかっこいい?」 「あの人は特別だ」

2018-02-16 22:38:19
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 密林部族で最強の氏長キョウマは、最近連れ帰った海洋部族の若者スンシンを屈させるのにかかりきりだった。精魂を傾ける、度を越した身の入れようと言っていい。共有妻のユミとカオルコが身重で無茶をさせられないせいもあったが、強い男を抱くという新たな試みに興が乗ったせいもある。

2018-02-16 22:40:55
帽子男 @alkali_acid

もう幾度貪り合ったか分からないが、交尾は必ず決闘から入る。前戯のようなものだ。 二人の取り決め。腕っぷしで勝った方の願いを聞く。 これまでは氏長の全勝で、毎度血まみれの体をそのまま寝床に引きずり込んだ。とはいえひやりとする一瞬もなくはなかった。

2018-02-16 22:44:44
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