貴女はそれでも許してくれる【短編SS】

童話に興味を持ったプテル(停止中) @manabuAschesama

とうとうジュゼが来たな。創聖殺しの罪を犯した奴を本当に仲間に迎え入れていいのか。皆が困惑している。私だってそうだ。というか私は懐疑的だな…。 でも、それでもきっと最後には正しい心を取り戻してくれると信じている者達もいる。それは甘さではない。強く優しく迎え入れようとする者達のお話…

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その日、私はジーンとピーターと一緒に御伽図書館をブラブラと歩いてたんだ。他愛も無い話をしていたら偶然、大聖殿が女性と話しているのを見かけた。 「大聖のダンナが女性と話してるなんて珍しいな。どんな関係だ…？」 「馬鹿。とはいえ大聖殿があんなに熱心に話してる…たしかに珍しいな」

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「あの人ラ・ファータだな」 「知ってるのかピーター」 「俺は記憶力が良いからな。あのジュゼの事を見守ってる妖精(ファータ)だよ」 「…ツッコみたいがまあ良い。しかしあのジュゼの身内か」 「ジュゼってたしか、こないだ禁書討伐の指令が出てたあの人形だよな…」 「そんな人と大聖殿が何を…？」

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「もう私には止める術がありません…」 「何を仰るか、ラ・ファータ殿。貴殿があの娘を見捨ててしまっては、誰が彼奴を救ってやれるのです。何卒、何卒…」 「頭をお上げください大聖様！仏である貴方がそんな…！」 「ジュゼを救ってやれるかは貴殿にかかっているか。我も助力致す。どうか…」

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「大聖のダンナがあんなに頼み込んで…」 「ああ、しかもあの凶暴で凶悪なジュゼを庇っている。何故だ…？」 「聞いてみようぜ。おーい大聖！」 「あっピーター馬鹿お前！」 「むっ…ピーター、ジーン、アシェンプテルまで」 「も、申し訳ない…出て行きにくい雰囲気だったものだから…」

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「ああ、キャストの皆さんですね。存じております」 「なあ大聖。なんでジュゼの事庇うんだ？」 「おいピーター失礼だろ！」 「でもそうだろ？アイツ、創聖を殺したような悪い奴なんだろ？」 「…！」 そうだ。ピーターの質問はぶしつけだったが、それでも紛れも無い事実だった。

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「大聖殿、私も気になる。あのジュゼに情状酌量の余地は無い。何故そんな奴に肩入れする」 「…説明せねばなるまい。ラ・ファータ殿、話して宜しいか」 「私は構いませんよ。大聖様」 「…あの童は、昔の我とよく似ているのだ」 「昔ってアレか？美猴みたく斉天大聖として暴れ回ってた頃か？」

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「我も彼奴と同じ也。若気の至りで散々迷惑をかけてきた。中には許されぬ罪も有った」 「でも大聖のダンナはいいヤツだろ。こうして心入れ替えて立派な仏様に…」 「我は未だ己を更生したとは思っておらぬ。それ程の罪を重ねてきた。だがそれでもそう見えるのならば、それは『赦された』からだ」

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「ゆるされた…？」 「愚鈍なる我を見捨てる事なく見守ってくださった者がたしかに居たのだ。ラ・ファータ殿、貴殿は我が恩師、太白金星に似ておられる」 「タイハクキンセイ…？三蔵法師じゃねえのか？」 「太白金星は孫悟空が三蔵法師に会う前、天界でお世話になった人の名前だな(童話解説モード)」

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「孫悟空が牛魔王達と大暴れしていた時、玉帝は討伐命令を出した。しかしこの太白金星は力で押さえつけるのを良しとせず、役職を与えて部下にしようと進言したのだ。もっとも孫悟空達はその地位が低過ぎるのに納得できず離反。とうとう御釈迦様に封印されてしまうのだが」 「…耳の痛い昔話である」

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「あの方は我に居場所を作ってくれた。にも関わらず当時の我はその思いを踏み躙ってしまった。今でも悔いている。我は御心深き御釈迦様のとりなしで玄奘と出会えたが、彼奴には味方がもうおらぬ」 「大聖様…お気持ちは分かりました。でも私はジュゼと話した次の日に裏切られたのですよ」 「それは…」

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「かつて私は瀕死のジュゼと出会い、彼女の介抱をしました。彼女は己の行いを涙して反省し、家に帰ると約束してくれました。その次の日に…あの子は創聖を殺害した」 これは後でマスターに聞いた事だが、原典のピノッキオも仙女と出会って家に帰ると約束するも、結局キツネに騙され帰らなかったそうだ

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「私はあの子の気持ちを受け入れ、あの子はそれに応えてくれたと思っていた。でもそれは間違いだったのですよ」 「むう……」 「私は子供の涙に騙されてしまった馬鹿な妖精なのです。何故あの時、コロリと信じてしまったのか…」 「……。」 「なあ。少しいいか？それは…違うと思う」 「ピーター？」

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「俺さ、夢中になると何でも忘れちまうんだ。それで…よくウェンディに怒られた。気を付けなきゃって思うけど、いっつも忘れて、この前も言ったのにって何度も怒られて…。でもウェンディを困らせたいわけじゃなくて、その…だから…」 「何だよ。何が言いてえんだ？」 「まあ待てジーン。聞いてやれ」

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「だからだな！そのジュゼってヤツは騙したくて嘘をついたんじゃねえと俺は思うんだ！本当は反省してたけど、馬鹿だからすぐ忘れちまっただけなんだって！そう言いたかったんだよ！ だから…俺もなんつーか、そのジュゼってヤツを見捨ててほしくない…と思う」 「ピーター。随分珍しい事を言うな」

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「うるせえな。ただ…ラ・ファータはウェンディと似てる。俺達を何度も怒っても、最後には許してくれるところとか。 だから…きっと見捨てられたらジュゼは悲しむ。それにラ・ファータにはウェンディと似たままでいてほしいって思って…だから言わずにはいられなかったんだよ」 「…ありがとう」

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「なんだ偉いじゃないかピーター。お前が他人の気持ちを慮るなんて。母親は優しくあってほしいって事を言いたいんだな」 「やめろアシェン！馬鹿にしやがって！俺もう行くからな！」 「ああ待てよ。これでも褒めたつもりだったのだが…」 「だな。立派な事言うじゃねえかアイツ。…俺も話いいか？」

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「あるところにな、父親が死んで以来ずっと不貞腐れて、母親の気も知らず悪党とつるんでた悪ガキがいた。そいつは見知らぬ地に遊びに行こうってアフリカの悪い魔法使いにそそのかされホイホイついていったんだ」 「その話はお前の…」 「悪党の言葉って、何であんなに魅力的に聞こえるんだろうな…？」

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「そいつは崩れた洞窟で飢え死にしかけてたところを、見つけたランプから出てきた魔人に助けてもらって家に帰れたんだ。そんな救いようのない馬鹿な息子を、攻めもせず泣いて出迎えてくれた人がたった一人いたんだ。それが俺のお袋だ」 「それは…素敵なお母さんですね」 「少しアンタに似てるかもな」

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「俺も大聖のダンナと同じで自分が更生したなんて思ってない。でも自分なりに償いをしようとして、今ではそれなりに有名な商人やってる」 「苦労したんだな」 「全部お袋のお陰だよ。俺を許してくれたお袋のな。もし家に帰って尚、ドラ息子として追い出されてたら今頃どうなってたか…」

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「大聖のダンナとピーターのお陰で色々と思い出せた。俺も何となくラ・ファータさんにはまだジュゼの事を見捨ててほしくねえわ。そうだ。なんなら俺がアイツのダチになってやるよ。もしアイツがここに来て悪い事しようとしてたなら、ダチとして引き止めてやるぜ」 「まあ…素敵なお兄さんですね」

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「なっ！アシェンもそう思うだろ！」 「ええ…。私は割と『悪い奴は報いを受けろ』的な考えなのだが…」 「…。」 「…。」 「お前…そこは場の空気を読めよ。これだから本当は怖いグリム童話は」 「何とでも言え。私は煌めく断罪の剣だからな。心無い悪党を見過ごす事はできない。だが…」 pic.twitter.com/xGycKaPEoV

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「だが…もう一度やり直したいとジュゼがそう願うのならば、そのチャンスは与えるべきだと思う。それが」 「アシェン…！だってさ、大聖のダンナ」 「うむ。ラ・ファータ殿、改めて頼もう。罪を放免にしろとは言わぬ。いずれ償わせる。故にジュゼが戻ってきた暁には、もう一度機会を…」

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「無論、彼奴は既に許されぬ事をした。その償いはいずれさせよう」 「ヤツが『もう戻っては来れない』と判断した時は私が冷酷なる裁きを下す」 「でもよ、アイツが正しい道に戻ってくるために俺達も協力する！だから！あの子の拠り所になってやってくれ！」 「…ありがとうございます。皆さん」