マンガ編集者・荻野謙太郎による「マンガのお金の歴史」

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荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

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荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

原稿が上がるのを待ってる間に、やろうやろうと思って先延ばしにしていた「マンガのお金の歴史」の話をしてみようかな。

2018-02-23 04:10:12
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

まず前史としての赤本や貸本の時代。この頃は単行本印税なし。またページいくらの原稿料ではなく、ページ数を大雑把に見て一本いくらの買い切りでした。 1947年の手塚治虫『新寶島』が3,000円 1953年の藤子不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』が30,000円 1956年の赤塚不二夫『嵐をこえて』が25,000円

2018-02-23 04:17:50
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

赤塚不二夫のデビュー当時の仕事(化学薬品工場での肉体労働)の給料が月給12,000円。なお赤塚を貸本に誘ったつげ義春は一冊35,000円くらいもらっていた模様。

2018-02-23 04:25:09
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

その後週刊漫画誌が続々創刊してマンガは「雑誌で読むもの」になります。ところで、1967年に赤塚不二夫が興味深い発言をしているので引用しましょう。

2018-02-23 04:39:17
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

赤塚不二夫「僕は、漫画が上手くいけばいいの。一週間経ったら、読者から忘れられる。そんな仕事を命がけでやる。それは作家の誇りです」(武居俊樹『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』) amazon.co.jp/%E8%B5%A4%E5%A…

2018-02-23 04:42:18
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

この時代マンガは読み捨てにされるもので、単行本にまとめられることは想定していませんでした。単行本が無いということは単行本印税が無いということであり、マンガ家は原稿料だけで食べていました。また、当然ながらマンガ誌は単行本の売上を必要とせず、雑誌の売上だけで元が取れていました。

2018-02-23 04:52:55
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

ちなみに上の赤塚の発言は小学館が『おそ松くん』の単行本を出してくれないことに対する嫌味だったりするのですがw お相手である週刊少年サンデーの編集長はこのような発言をしております。

2018-02-23 04:55:50
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

「一セット二万円弱の百科事典が、何十万セットも売れる。漫画のコミックスは、手がかかるのに利が薄い。だから小学館は、一冊百円くらいの定価の漫画のコミックスには力を入れないっていうんでしょ」(武居俊樹『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』) amazon.co.jp/%E8%B5%A4%E5%A…

2018-02-23 05:00:56
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

「マンガのコミックスは、手がかかるのに利が薄い」ですって!!! 今の若い子は理解に苦しむと思いますが、家庭教育の関心が高まっていた高度成長期の日本では、応接間に百科事典を飾るのが流行っていたのです。ちなみにこの百科事典ブームの頃の大卒初任給は16,000円くらいだったらしいです。

2018-02-23 05:11:31
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

そんなわけで当時マンガの単行本は「旨味が薄い」と思われておりました。小学館や講談社は自社では単行本を出さず、なぜか秋田書店や青林堂などの他社が権利を取得して単行本を刊行しておりました。状況が変わるきっかけになったのは70年代初頭の大手誌の部数減と有名な『オイルショック』です。

2018-02-23 05:28:10
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

トイレットペーパーの買い占め騒動で有名なオイルショックですが、これが深刻な紙不足と印刷用紙価格の高騰を招きます。この時採られた主な対策は ①雑誌のページ数減 ②雑誌の値上げ(ただしこれはどの雑誌も極力避けようとした) ③連載作品の単行本化 ④マンガ家の原稿料据え置き が上げられます。

2018-02-23 06:21:40
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

雑誌の赤を補うため始めたマンガ単行本の刊行ですが、これが予想を遥かに超えて売れることがわかり。さらにオイルショックを抜けてからは雑誌の販売部数も伸び続けたため、 「雑誌や単行本の価格据え置き」 「ついでに作家の原稿料も据え置き」 「徹底した薄利多売」 で利益を上げるようになります。

2018-02-23 06:34:35
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

1960年代までは大手マンガ誌の原稿料は物価に比して高く「月刊誌に連載をもてば車が買える。週刊連載をもてば家が建つ」と言われていたらしいのですが、オイルショック以降原稿料は物価と連動しないようになります。それでもマンガ家が食べていけたのは、単行本の売れ行きが右肩上がりだったからです。

2018-02-23 06:41:35
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

ちなみに。単行本のカバーイラストや本文描き下ろしなどに原稿料が支払われない(ことが多い)業界慣例は、これまで書いてきたようなマンガを取り巻く経緯が元になっていると思われます。

2018-02-23 06:58:08
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

マンガとは「雑誌に掲載し、雑誌で読まれるために発注しているもの」であり「単行本はあくまで余禄」にすぎず「雑誌に載った時点で役目を終えたはずの作品をまとめてやっている」のだから、足りない分はタダで描けという理屈です。なんという雑誌至上主義!

2018-02-23 07:02:03
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

さて。数字が伸び続けているからなんとかなっていた薄利多売体制ですが、1995年のジャンプ653万部、そして1996年の出版市場規模2兆6563億円をピークにして出版不況が始まります。去年の出版市場規模は1兆3700億円。ほぼ半減しました。

2018-02-23 07:30:32
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

上記のように日本のマンガは雑誌・単行本・原稿料を限界まで抑えて単行本で回収するモデルです。ではここ10年位のマンガ家の懐事情はどうなったかと言いますと、いろいろな人の話を聞いた感じ原稿料の相場は1000円ほど下落。印税も10%払わない所が増えている模様です。鬼か。 note.mu/shuho_sato/n/n…

2018-02-23 07:51:01
荻野謙太郎(マンガ編集者) @gouranga_

雑なところが多いですが、細かいことを書き出すときりがないので、今回はこのへんで。お読みいただきありがとうございました!

2018-02-23 08:18:48