蟹味噌文学 2018年2月分

先月は身に余る高評価を頂戴し、恐縮しきりです。2月分もお楽しみ下されば幸いです。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

馴染みの中華料理店に足を向けない日々が続いた。ある日店の前を通りがかったら、冷蔵庫や流し台が店内から駐車場に並べられ、次々にトラックに載せられていった。ふと気がつくと、一匹の野良猫が私の足元にいた。私が心の中で店に無沙汰を詫びると、猫は気だるそうに伸びをした。 #蟹味噌文学

2018-02-02 16:59:06
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

作家を、とりわけアマチュア作家を支えるのは孤独か仲間か。そんな哲学を内に抱えて仲間内の宴会に参加した。多いに楽しんだ。一同の会話が途切れた時、誰かが、天使が通ったといった。その一瞬に閃きを感じ、孤独な自分の思いつきが仲間の中を通った。帰ったら早速書き始めねば。 #蟹味噌文学

2018-02-02 17:05:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

厨房には不必要な音が一切ない。……客は20人ほどだが、三分に一回はチャーハンと味噌ラーメンの注文が入っている。 「こらっ! オウムを厨房に入れちゃ駄目って前にも言ったでしょ!」  そんな叱責のあと、厨房から、鳥籠を持った子供が口を尖らせながら出てきた。 #蟹味噌文学

2018-02-04 11:57:50
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

8人がけの席を1人じめして食事をしていると、団体客が入ってきた。他は満席だったので、店から相席を頼まれた。承諾すると、団体客は次々に礼を述べて席についた。私の食事が先に済むと、勘定は相席客達が出してくれた。私自身、20人がかりできた団体客の最後の1人だったのだが。 #蟹味噌文学

2018-02-04 12:18:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

街中でどこからか有線放送が流れてきた。昔好きだった人が良く歌っていた曲。自然と口ずさんでいた。目の前の喫茶店のドアが突然開いてその人が現れた。と思ったら子供だった。少し遅れてその人が現れた。その時には、私は戸口を通り越していた。心なしか歌声が大きくなってしまった。 #蟹味噌文学

2018-02-05 20:48:54
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

期待の取引が不調に終わり、私の評価は地に落ちた。今までちやほやしていた連中は手のひらを返すように消え、新人にも無視される状態になった。だがくじけない。精神的な意味合いだけではない。もうすぐ皆も私と不幸を分かち合う。地下駐車場に夜通しかけて爆弾をしかけておいた。 #蟹味噌文学

2018-02-06 19:29:21
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

いつまでたっても数字は上がらなかった。スポンサーも愛想を尽かした。落ち目の研究所には誰も見学にこない。生き物の電気で家庭の電力を賄うのがそんなに荒唐無稽なのか。だが、遂に私は閃いた。コンピューターと発電器官の合体を。その直後、研究所を雷が直撃し、全ては焼け落ちた。 #蟹味噌文学

2018-02-07 18:22:31
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

回転寿司を楽しんでいる内に、メニューにノドグロがあると知った。私がまだ小さかった頃、よく祖母が買って一緒に食べた。頼もうかなと思ったものの、思い出をそっとしておきたくなって止めた。寿司を乗せた回転ベルトはずっと止まらない。祖母の思い出のように。 #蟹味噌文学

2018-02-09 20:47:48
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

人体に永久機関を埋め込んで不老不死を成し遂げる。動物実験では成功した。まさに今、私は自分自身にその手術を施そうとしている。手術はロボットが行うので間違えるはずがない。全身麻酔を吸い込んだ時、ロボットが宣言した。 「これから博士を永久に犬として生存させる手術をします」 #蟹味噌文学

2018-02-09 20:55:17
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

庭のバラが咲いた。世話をしているのは私の母だ。老後の生き甲斐にしたいといつも口にしている。それから暫くして、メジロやスズメが庭に現れるようになった。虫も増えたが愛嬌だろう。締め括りに野良猫が居着いた。これだけいれば寂しくなかろう。ぼつぼつ遺産を頂くか。 #蟹味噌文学

2018-02-11 20:08:19
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

長年暖めてきた志を、やっと実行できた。一人暮らし。もう家族に気を遣わなくて良いかと思うとほっとする。犯罪にだけは会わないよう、治安の良い場所を選んでおいた。実家から持ち出したパソコンをセットすると、早速メールが。今度の依頼は恐喝か。引っ越し以来の初仕事だな。 #蟹味噌文学

2018-02-11 20:16:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

明日が不安だ。自殺したくはないのに明日にきてほしくもない。何故なら、今日はそれなりに安定して満足だからだ。そんな風に考えていたら、誰かと目が合った。 「この地球人の生体標本、よくできてるよなあ」 「だろう? 動かないようにして家ごとケースに入れるのにコツがいるんだ」 #蟹味噌文学

2018-02-12 19:23:40
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

負けてばかりの人生だった。気がつくと公園から公園に移り住む日々。ある晩、似たような奴を見かけた。何故か腹だたしくなった。向こうも似たような気持ちのようだ。殴り合いがいつの間にか殺し合いになり、そいつは死んだ。お陰でやっと死ぬまで国が面倒を見てくれる。塀の中で。 #蟹味噌文学

2018-02-14 19:11:02
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

バレンタインデーか。そんなものに憧れた時期もあった。髪と共にどこかへ消えた。一度も結婚せず、人畜無害な生活をして、終点が四畳半アパートになりそうだ。孤独死でもしたら後始末が大変だろう。自分の左足を調理しながら、残りの始末の仕方を考えるのはいい気晴らしになった。 #蟹味噌文学

2018-02-14 19:19:07
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

海の近くに家があるので、波の音が聞こえてくる晩がある。今夜もそうしていると、風が強いせいか家がぐらぐら揺れ始めた。潮の香りが強くなり、土台ごと家が動いたような気がする。実際には、身体から渦が吹き出して海の一部になっていた。ああ、皆こうして海に返るのか。 #蟹味噌文学

2018-02-15 17:52:52
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

深酒をしたせいで猛烈に喉が渇いた。しかし、どの蛇口をひねっても水が出ない。水道代は払っているのに。冷蔵庫も空だ。自販機もコンビニも近所にない。仕方ないから公園に行った。金属用のゴツいカッターを持った女がいた。自分が荒らした別荘で酒を飲むな、とこっぴどく叱られた。 #蟹味噌文学

2018-02-16 22:07:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

風が吹き寄せて、散歩中の私は梅の香りにまとわりつかれた。市販品の梅干しと違い、良くも悪くも荒っぽい力強さのある香りだった。場違いにも、子供の頃に食べた駄菓子を思い出し、なにかを積極的に欲しがる気持ちを思い出した。また風が吹いた。私は手近な梅の木に引き寄せられた。 #蟹味噌文学

2018-02-18 15:29:14
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

テニスコートで練習に打ち込む若者がいる。一心不乱で清々しい。私はといえば、車の座席を後ろに倒して寝そべっている。ようやくスマホが鳴った。起き上がってドアを開けると、テニスの青年が練習を止めた。そして、アタッシュケースを下げた背広ネクタイの男を二人で前後に挟んだ。 #蟹味噌文学

2018-02-18 15:33:10
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

何度目かのダイエットを経て、元に戻った。リバウンドとの長い戦いに疲れきっている。そんな自分を奮い起たせるために、アイドルタレントの画像をいくつか検索した。何人かは食べ物の宣伝で出ていたが、どうでもいい。一番格好いい奴の事務所に爆弾を送ろう。ライバルが一人減る。 #蟹味噌文学

2018-02-20 21:36:35
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

運動したあと、心地よい疲労よりどんよりした痛みを感じるようになった。愚痴ばかり述べても仕方ないが事実は事実だ。しかし、身体を動かさないでいると余計に不健康な気がする。ある日、突然気づいた。痛むまで運動しなくても良いと。早速全身の細胞に伝えよう。今日から無期休暇だ。 #蟹味噌文学

2018-02-20 21:41:21
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

どんな生き物もいつかは死ぬ。速さをある程度調節するのは可能だ。私はあらゆる養生術を研究し、人生の終盤を十年は伸ばしたと自負している。本も出版して大ヒットした。売上は臓器売買ビジネスに投資した。あとは、私のファンがこぞって健康な臓器を売ってくれるように導くだけだ。 #蟹味噌文学

2018-02-21 19:04:10
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

いつもあいつは寝落ちするが、この前一緒に映画を見ようといわれたので付き合ったら、ちゃんと起きていた。こっちはあいつの横顔が気になって映画どころじゃなかった。想いを打ち明けようとした日、あいつは寝たきりになった。起きた時に備えて、一人でもう一回同じ映画を観ておこう。 #蟹味噌文学

2018-02-22 18:02:20
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

頭が痛い。病気なのに寝て治すこともできない。黙って耐える内に、段々わかってきた。私の脳から新しくもう一つの脳が生まれつつある。だから、頭蓋骨が膨れ上がってきた。もう限界だと思った直後、口から新しい私が生まれてきた。産声を上げる前に締め殺した。ようやく頭痛が消えた。 #蟹味噌文学

2018-02-23 19:00:07
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

パスタを食べたあと、付け合わせの蟹の殻に専用スプーンを入れて肉をかき出した。やり始めると夢中になり、事実旨い。ただ、蟹味噌はパスタソースに混ざっているので改めて口に入れることはできなかった。心いくまで堪能したあと顔を上げると、冷めたチキンソテーが私を睨んでいた。 #蟹味噌文学

2018-02-24 15:09:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

最初は冗談のつもりで女装していた。ある日、大の親友にとても可愛いといわれた。頭の中でなにかが目覚め、親友に気に入ってもらえるよう精進に励んだ。持ち前の敢闘精神を貫いた時、遂に親友は想いを打ち明けた。即ち鏡の中で、私とそっくりな人間が私に愛を囁きかけた。 #蟹味噌文学

2018-02-25 23:47:33