体内で火薬を爆発させて膀胱結石や尿管結石を砕く「微小発破砕石術」とは

まとめました
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遠藤 @enco2001

昼の、体内で火薬を爆発させて結石を粉砕する手術の話を再ツイート

2018-03-01 23:08:47

遠藤 @enco2001

1970年代、膀胱結石は切開手術のほか対処のしようがなかった。切り開いて石を取り出す。当然人体への負担は重かった。できれば開腹なしで結石を取り除きたい。そこでソ連から最新の医療機器が導入された。電気火花粉砕式。体内(膀胱)に数十アンペアの直流電流を流し、飛び散る火花で石を砕く!

2018-03-01 23:09:27
遠藤 @enco2001

当たり前だがとんでもなく乱暴な、危険な方式だった。 この装置を見学した竹内康人(のち鹿児島大学工学部教授)が「こんな危ないことをやるならまだ爆薬の方がましじゃないか」と同行した渡辺泱(のち京都府立医科大学教授)に冗談を言ったことでさらに発想の飛躍した、「微小発破砕石術」が誕生する

2018-03-01 23:09:46
遠藤 @enco2001

「微小発破砕石術」、それは尿道を通して膀胱に火薬を送り込み、膀胱結石を爆破しようという奇抜な手法だった。 ……素人目には電気火花とどっちがマシかよくわからないが火薬量を調節できるだけ安全性が高いのだろう。電流はそんな細かな調節きかないだろうし

2018-03-01 23:10:25
遠藤 @enco2001

いや、膀胱に直流電流流して火花散らせるのも大概だけど、尿道から膀胱に火薬の入った筒入れて、結石に押し付けて爆破するのもあんまりかわらんのでは。

2018-03-01 23:10:53
遠藤 @enco2001

それはさておき、1976年に渡辺が京都府立医科大に移ってから研究は本格的にスタートする。「金が稼げる研究」かつ「金の掛からない研究」としてアピール、その後10年で各方面から1億円近くの研究費を確保できたらしい。通商産業省科学技術研究所や細谷火工株式会社が協力した

2018-03-01 23:13:52
遠藤 @enco2001

とはいえ爆薬の研究からはじまって臓器と結石の強度や臓器の損傷など全く新規に研究しなければならず、問題は山積みだった。結石自体は砕けやすい特性があるので人体への影響を考えなければ粉砕自体は容易、ではどのように人体に影響せずに結石だけを火薬の爆発で砕けるのか

2018-03-01 23:15:04
遠藤 @enco2001

爆発のエネルギーは衝撃波として伝わり、結石に当たるともろにエネルギーが吸収され粉砕する。一方臓器や筋肉は水と同じく、衝撃波が素通りしてしまってほぼ損傷がないと見込まれ、実際その通りだったらしい。起爆薬としてアジ化鉛を用いたが鉛の毒性もまた、すぐに排出されて人体に影響はなかった。

2018-03-01 23:17:03
遠藤 @enco2001

衝撃波の挙動については1950年代の原子爆弾の衝撃波の理論が、アジ化鉛の爆発に全く同様に適用できることが判明した さらに実際に膀胱結石の表面にアジ化鉛の粉末をペレット状に固めたもの、「張り付け発破」の要領で爆発させた。直径2cm程度の結石であれば爆薬量5mgで破砕できることがわかった

2018-03-01 23:18:28
遠藤 @enco2001

結石の硬度や大きさによっては5mgの爆薬では威力不足の可能性もあったが、まさか増量するわけにも行かず、その際には複数回試行する(つまり石が砕けるまで膀胱内で何度も爆発させる!)ことになった。

2018-03-01 23:18:51
遠藤 @enco2001

さらにそれまでの張り付け発破ではなく、ドリルであけた孔に粉砕器を挿入して発破する穿孔発破方式が新たに採用され、より確実に結石を粉砕できるようになったという。ここまで豚や人工モデルで実験していたが、さすがに渡辺も臨床に持ち込むにはまだ気がひけていたらしい。

2018-03-01 23:19:48
遠藤 @enco2001

ところが1980年、研究成果を知った中国の泌尿器科医が論文に従って爆薬を製造、膀胱結石破砕の臨床応用に成功してしまった。たちまち世界中の脚光を浴び、NHKをはじめとしたいくつものテレビ局が特集番組を組んだという。完全に出し抜かれてしまった。

2018-03-01 23:20:06
遠藤 @enco2001

ただこの「前例」のおかげもあり臨床実験の許可はすんなりと降り、1981年に京都府立医科大学において日本で初めての臨床実験が行われた。1988年までに張り付け形式で69件、穿孔発破形式で62件の膀胱結石の臨床実験が行われ、全例において粉砕に成功した。

2018-03-01 23:20:32
遠藤 @enco2001

臨床実験において最大の結石は重量305gで、渡辺によれば「このような巨大膀胱結石に対しては,今でも最も侵襲の小さい最良の治療法だと思っている」という。

2018-03-01 23:20:51
遠藤 @enco2001

さらに渡辺ら研究チームは対処が困難な尿管結石の発破粉砕に挑んだ。腎臓から膀胱につながる尿管は大変細く、尿管結石の発生率は膀胱結石よりはるかに高い。水をたくさん飲み、運動して揺らし、自然に膀胱に落ちるのを待つほかは尿管の切開でしか治療法がなかった。しかもその手術も難易度が高かった

2018-03-01 23:21:45
遠藤 @enco2001

当たり前だが尿管は膀胱よりはるかに細く、爆破で傷つける可能性が高い。研究チームは最終的に、ピンハンマー方式を開発する。内部にピンや炸薬を備えた筒を結石に押し当て、点火薬で駆動薬に着火、爆発したガスでピンを押し出し、尿管結石を粉砕する。

2018-03-01 23:22:30
遠藤 @enco2001

ピンハンマー方式も臨床実験が行われた(85年7月から88年10月までに58件)。うち33件が成功し、成功率は57%。下部の尿管では結石を良好に砕けたが、上部や腎臓にあってはうまくいかなかったという

2018-03-01 23:23:07
遠藤 @enco2001

体内で火薬を爆破させて、という時点で相当なアレさだけど、先端に火薬の入ったカテーテルを尿道から膀胱や尿路に通し、爆発させられた患者はかなりの恐怖だったんじゃなかろうか。膀胱結石も尿管結石も、尿道からカテーテルを挿入して石に接近、密着して爆破させる手法自体は同じです

2018-03-01 23:24:36
遠藤 @enco2001

渡辺らの研究は結論的には失敗だった。まず良好な成果を挙げられた膀胱結石がすでに罹患率の低い、過去の病気であったこと。さらに同時期に開発・実用化されたESWLに競合できなかったこと。なにより「人体と火薬を組み合わせるという最初の発想そのものに、やはり無理があった」と渡辺は回想している。

2018-03-01 23:24:57
遠藤 @enco2001

84年から日本でも体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が始まり、より患者の負担が小さい(心理的にも身体的にも金銭的にも)ため瞬く間に普及。そりゃまあ「尿道から火薬をねじ込んで尿管内で爆発させます」と「横になって腰に衝撃波をあてて石を砕きます」とでは患者がどちらを選ぶか明白ですね

2018-03-01 23:29:19
遠藤 @enco2001

現代ではこのESWLが尿管結石治療の主な治療法になっていて、程度により他に経尿道的尿路結石除去術(TUL)が行われるとのこと。これは尿道経由で「尿管鏡」という細い内視鏡を挿入、モニターで確認しつつレーザー、圧縮空気、電気水圧といった方法で粉砕するという。

2018-03-01 23:34:30
遠藤 @enco2001

ESWLよりもTULのほうが圧倒的に効果的らしいんですが、前者が無麻酔・外来治療可能(医療機関による)なのに対して後者は麻酔・入院必須ということで患者への負担が大きく、ESWLのメリットが無視できません。そのため泌尿器科のwebサイトではESWLをまず上げているところが目立ちます。

2018-03-01 23:37:37
遠藤 @enco2001

まあ、「ちんこに内視鏡入れるよ」と言われれればだいたいの男性はビビりますから当然ですね(その上で爆破していた「微小発破砕石術」とは一体……)

2018-03-01 23:38:51