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萃香鬼ノ城紀行

岡山の鬼ノ城に行ったときに考えた、伊吹萃香の現代紀行っぽいお話です。 あんまり紀行になってませんが。
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銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
かつてこの国に、鬼がいた。 人々に畏れられ、敬われ、祀ろわぬ者たちの頂点として君臨した古来よりの力の象徴。横道を厭い、卑怯を嫌い、ただあるがまま、成すがままに鬼であろうとした者たちがいた。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
古くは平安の世に大江の山を根城に京の都を暴れ回り、辟邪の武、源頼光に討たれて後は幻想の郷に居城を移し、天狗に河童にあまたの妖怪を統べて、三角の同朋と共に君臨した鬼がいた。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
彼らがもともと何であったのか。知る者はいない。当の彼らもそんなことは忘れてしまった。ただ、人は彼らを鬼と呼び、彼らはその力をもって人に相対した。それがなによりも、彼らの生き方であった。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
そんな不羈奔放の古豪の在り様も今は昔、紆余曲折を経た今は、暇さえあれば酒に酔い、日がな一日博麗神社の縁側で寝ころび酒精を干しては蕩けた表情を浮かべるのが、騒がしき百万鬼夜行、伊吹萃香の日常である。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
そんな彼女の姿が幻想郷からふらりと消えたのは、木枯らしも吹き去り、雪がチラつき始める或る年の歳の瀬であった。 酔いの向くまま気の向くまま、酔いどれ鬼が行方を眩ますのは今に始まったことではなかったが、さて怪訝に思った妖怪の賢者が方々に式を巡らせて探しても、その姿は容易に見つからぬ。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
里の飲み屋の二階、地底の旧地獄街道、天界の宴会の園、片腕有角の仙人の庵。いずこを求めても、伊吹の鬼は見出すことはできず、賢者が怪訝に眉を潜めていたその時。 幻想郷の要たる大結界もなんのその。茫洋たる霧に身を変じた萃香は、幻想と現を隔てる網目をすり抜けて現世に降り立っていた。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
今や科学万能の人の時代。妖の住まう闇はそこかしこから駆逐され、路傍の片隅にわずかにひっそりと残るのみ。 牛角虎縞、金棒抱えた赤銅肌の巨躯ともなればもはや隠れることも叶わぬだろうが、疎密を自在にする伊吹の童子には人の目に映らぬほどに己を薄くすることなど造作もない。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
萃角の鬼がかつて妖怪の山の四天王を辞し、風赴くままに歩いた折に、こうして外界を歩いたこともある。いかに強固なる博麗大結界といえども、己を限りなく薄く引き伸ばし、疎に近づけることのできる萃香にはすり抜けることは容易かった。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
かくて伊吹の鬼は京の都の空を一跳び、大江の山をはるか超え、風のごとく西へ、西へ。わずか一刻もかからずに、旅路の道行を踏破した。 目指す先は吉備国。出雲と並ぶ古代の王国にして、鉄と巨石がつくる猛き王朝が建っていた地。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
不羈奔放の古豪が霧に紛れ降り立ったは、吉備国総社。その北に臨む古き城であった。 今を遡ること千と七百年。萃香が大江山に居を構え、同胞たちと都を争った時代から、さらに遡ること七百年の昔。いまだこの国の皇が定かならず、伝承と神話が混交し、歴史と不可分であった時代。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
この地には、強大なる鬼と、それを討たんとした英雄の物語があった。 鬼の名は吉備冠者温羅。鬼ノ城に居を構え、自在に空を飛び、大酒を食らい、見上げるほどの巨躯を誇り、巨岩を遥か麓まで投げ飛ばす怪力を誇った、これ以上ないほどに鬼らしき鬼。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
英雄の名は吉備津彦命。御肇國天皇(はつくにしらすすめらみこと/崇神天皇)の命を受け、犬飼武、楽々森彦、留玉臣の三臣を連れ、鬼の征伐に訪れた四道将軍のひとり。 ――すなわち、桃から生まれた桃太郎である。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
いまは内陸にある鬼ノ城だが、こうして山頂より見渡せば四方は平野の中に、ポツリポツリと小高い山が並び。なるほど、かつては打ち寄せる波間に浮かぶ島であり、山陽を結ぶ街道を見下ろす拠点であったと思われた。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
観光地として広めているらしいが、交通手段も限られているせいか人気は疎ら。見咎められることもないだろうと本身を露わにする。 肩の上に張り出した大きな角をふるい、うんと背伸びを一つ。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
桃太郎さん 桃太郎さん   お腰につけた黍団子 一つわたしに下さいな。  やりましょう、やりましょう、  これから鬼の征伐に、ついて行くならやりましょう。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
かつての鬼の居城は、人の手によって再建されていた。 吉備津彦との戦いの後、この城は人間のものとなり、幾多の戦乱を超えてきたという。それもはるか昔のことで、萃香がこの世に生を受けたころには、温羅と吉備津彦の戦いはとうの昔に伝説の中のものであった。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
当時を再現し築き直された石垣は、幅一丈(3m)、高さ五丈(15m)にも及ぶ巨大なもの。朱と白に彩られた盾を並べ、海を見下ろす物見の櫓に、かつての鬼の栄華と、英雄との戦いに想いを馳せ伊吹の鬼は嘆息する。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
「温羅の大将、私は正直、あんたたちが羨ましいよ」  それは。平安の世に残された鬼達を率い、大江山に君臨した酒呑童子が、鬼の正道を枉げてでも一人隠し続けた本心の吐露であった。  石と鉄がつくる、遥か古代の城を見上げ、伊吹の鬼は息を吐く。  白く、長く、どこまでも。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
「たぶん、私たちは遅く生まれすぎたんだ」  あの時代。  萃香が大江山で同朋たちとともに、怪力乱神を誇ったあの時代。世は末法に乱れ、人々は互いに争い、陰謀をめぐらし暗殺の刃をふるい、ひたすらに骨肉を相食んだ。 「あの頃には、人間はもう鬼なんか必要としちゃいなかった」
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
正々堂々、勝つか負けるか。  人と鬼とが真っ向向き合い、死力の限りを尽くし戦うことができたのは、もう、ずっとずっと昔のこと。大江山の中では最古参だった萃香とて、おぼろげながらに伝え聞く程度のものでしかなかった。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
それでも。生まれの違いから。行いの違いから。人に排斥され、鬼と恐れられた者たちは、最後の楽園を求めて集ったのだ。 英雄と呼ばれる人間と、華々しく力を競い戦える場を求めて、あの大江山に。古くは鬼の祖、土熊の居城、飛鳥の世にあっては三鬼と麻呂古親王の熾烈な争いとして知られた古戦場。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
集い萃まった鬼たちは、みな小さく、知恵もなく、角も短かな者ばかり。 鬼とは呼べぬ半端もの。ただ、人ではないだけだった。 星熊、虎熊、金熊、大熊、そして茨木。 四天王に副将大将と並び恐れられても。 萃香は知っていた。もう、人間が鬼と堂々相対する時代は、とうに過ぎ去ってしまったのだと。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
「華扇あたりは勘付いてたろうなあ。勇儀は……どうだろうな、あいつも単純なようで、悩むやつだしな」 それでも。一縷の望みを捨てきれずに。集う鬼たちが大江山に陣を築き、都を襲い姫を攫い、伊吹の酒呑の名が天下にとどろくようになって。 ついに人々はその討伐を叫ぶようになったのである。
銅折葉@12/14東方久遠境・別府 @domioriha
大江山の鬼たちは、ついぞ戦をしなかった。 戦というものを知らなかった。 それは彼らの慢心であり、鬼たらんとしていた心根によるものともいえる。鬼とは思うままに暴れるものであり、群れ力を束ね城を築いて軍をかまえるものではないと、半端な性根の上で傲岸にも誰も彼もが思っていたのだ。
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