金子昌雄中佐変死事件

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数学史研究者 @redqueenbee1

金子昌雄中佐変死事件とは? 外交伝書使としてソ連派遣中の金子昌雄中佐が変死した一件を指す。 同行者柴田進の証言から事件を再構成してみよう

2018-03-18 08:05:49
数学史研究者 @redqueenbee1

浜松教導飛行師団司令部勤務の柴田進は,1944年10 月末参謀本部から秘密偵察のためモスクワ行きの内命を受けた.戦務の段階を見て19 年末から関係兵用地誌やソ連航空の任務勉強をはじめ,昭和20 年の正月を迎えてはじめて参謀本部と外務省に赴いて細部の指示を受け本格的な準備研究に入った

2018-03-18 08:15:03
数学史研究者 @redqueenbee1

1945年2月末,参謀本部から出頭命令があり,同行の金子昌雄中佐とともに参謀本部・外務省から伝書使としてソ連に行くように指令を受け,本格的な諸準備に入った.任務は,伝書使とシベリア鉄道及び沿線のソ連軍の動静特に兵力輸送状況,ソ連空軍の配置・機種・兵力・訓練状況等の偵察。

2018-03-18 08:16:22
数学史研究者 @redqueenbee1

航空将校の柴田と歩兵将校の金子は周到に協議を重ね,携行文書の宰領は共同責任で安全を期し,偵察の主担当を地上と航空に分掌することとし,重要任務の完遂を誓い合った.

2018-03-18 08:17:01
数学史研究者 @redqueenbee1

金子のモスクワ派遣は、偶然が重なっていた。ラバウルから帰国した小山公利参謀は、同期の林三郎中佐に伝書使としてソ連赴任を要請されたが,小山は内地の空気に浸りたく断った。この為に林は恒石重嗣中佐を派遣しようと考えた。小山から一件を聞いた金子が行きたいと申し出たため,小山は林に金子を

2018-03-18 08:26:08
数学史研究者 @redqueenbee1

紹介したという. 金子は参謀本部通信課暗号班長、フォン・マッケンゼン将軍を尊敬し、子供に真剣と命名しようとして家族に止められたという逸話があり、酒が飲めなかったという人物

2018-03-18 08:28:20
数学史研究者 @redqueenbee1

1945年3月20日,金子・柴田は外交伝書使として満洲に渡った.その後,関東軍司令部・哈爾濱日本総領事館・哈爾濱特務機関などと業務連絡の上,満洲里駅からアトポールへ,ザバイカル鉄道でチタへ向かった.

2018-03-18 08:29:10
数学史研究者 @redqueenbee1

1945年4月1日,金子・柴田は,満州国総領事館員の出迎えを受けてチタ領事館に仮泊した. 4月2日,金子・柴田は,チタ総領事を通してソ連外交部にモスクワ行きのシベリア鉄道一等ワゴンの指定を要請した.

2018-03-18 08:31:41
数学史研究者 @redqueenbee1

4月20日,チタ領事館総領事は,金子・柴田の搭乗するモスクワ行きのシベリア鉄道一等ワゴンの指定を,ソ連外交部から受領した. 4月21日,金子・柴田は,指定されたモスクワ行きのシベリア鉄道一等ワゴンに搭乗した.

2018-03-18 08:32:42
数学史研究者 @redqueenbee1

4月29日20時やや前,二人を乗せたシベリア鉄道はジマーを過ぎた.窓外が見えなくなったため,その日の偵察を終え,柴田は金子と持参のポートワインで天皇誕生日の万歳を祝おうと乾杯した.この際,乗務員の男と制服の女士官・ゾーヤ少佐が,「祝いに来た,乾杯しよう」と持参している瓶を開詮した.

2018-03-18 08:33:58
数学史研究者 @redqueenbee1

柴田は舌打ちしながら応接したが,ゾーヤ少佐は盛んに酒を勧め,その高圧的で執拗な態度に柴田は警戒心が湧いたという.ゾーヤ少佐は,無理やりワインの杯に注いだので,口に少し含んだところ,舌が焼けるような,口の中が燃えるような感覚があり,毒物と直感した.

2018-03-18 08:34:47
数学史研究者 @redqueenbee1

柴田はハンカチで口を拭くように装って吐き出したが,喉が焼け,意識混濁の状況に陥った.この間,金子がうつ伏せになった様子は見た.柴田が意識を快復したところ,金子の姿がない.「金崎(金子の偽名)はどこに行った」,とワゴン内を怒鳴りながら探した.「別室で休ませて手当てしているが

2018-03-18 08:35:24
数学史研究者 @redqueenbee1

会わせられない」と乗務員は繰り返すだけである.柴田は携行文書が気になり,乗務員を腕力でワゴン外に押しやり,ドアを施錠したが,乗務員が別なところから入ってきて,金子は死んだと伝えた.毒殺だと直感した柴田は,怒髪天をつく思いで「金崎を見せろ」と怒号したが,乗務員に制止された.

2018-03-18 08:35:56
数学史研究者 @redqueenbee1

大使館に電報を打とうとしたが,既に知らせたと言われた.

2018-03-18 08:36:12
数学史研究者 @redqueenbee1

駐ソ大使館書記官法眼晋作の回想 4月30日3時(現地時間),「極東部長ジューコフが門脇参事官の来訪を求め,日本の伝書使一名がシベリア鉄道列車の車中で頓死したが,残りの一名は車中で乱暴狼藉を働くので,不本意ではあったが車室のベッドに縛りつけてある,列車は翌日の夕刻ヤロスラワリに着くので,

2018-03-18 08:38:21
数学史研究者 @redqueenbee1

誰か貴館員に出迎えてもらい,無事モスクワまで連れ帰ってもらいたい,と申し出た.なお,ソ連の列車法によって,列車中の死者は次の駅で降ろして土葬をする規定だという」. 4月30日朝(現地時間),法眼晋作は「朝出勤すると,私は大使からヤロスラワリ行きを命ぜられた.そこでロシア語に

2018-03-18 08:39:16
数学史研究者 @redqueenbee1

堪能な高橋壮一君と医務官の西村軍医を連れて,モスクワの北北東,汽車で約八時間の距離にあるヤロスラワリに出張し,駅長室で一夜を明かして,クーリエの到着を待ち構えた」

2018-03-18 08:39:29
数学史研究者 @redqueenbee1

5月1日,法眼はヤロスラワリ駅でクーリエと会った. 「車室に入ると,日本酒の臭いがぷんぷんしている.生き残りの伝書使が一升瓶を投げ回った結果らしい.私が,迎えに来たから安心して下さい,一緒にモスクワまで,と諭し,車中で対座して話しながら,他方,高橋をして他のコンパートメントでの

2018-03-18 08:41:17
数学史研究者 @redqueenbee1

聞き込みを,西村軍医には生き残りからの話と状況によって死亡原因の究明に努めさせた.事件の粗筋はこうだった.伝書使二人は,ハルピンで恒例のように食料やモスクワの同僚への土産物等を調達の上,チタを過ぎるころ天長節を迎えた.そこで,近くのコンパートメントの旅客を自室に招じ入れ,

2018-03-18 08:41:35
数学史研究者 @redqueenbee1

お祝いのためとして盛んな酒宴を催したらしい.二人とも大いに酩酊して熟睡した後,翌朝目を覚ますと,一人が死んでいたというのだ.残った一人は,これは計られたかと考えて,威力を示す為に暴れ回った,と.死んだ人は暗号電報専門の参謀で,肺病が悪いので健康良好でなくとも務まる任務に回されたと

2018-03-18 08:42:00
数学史研究者 @redqueenbee1

いう.西村軍医の判断では,肺病持ちが泥酔して熟睡する場合,ややもすれば吐血し,それをさらに吸引して,それが咽喉で凝結して窒息死することがある,これはまさにそのケースだった,との見解であった.私から見れば,隣のコンパートメントの乗客は伝書使監視の役目をもっているかも知れぬ.機密文書

2018-03-18 08:42:21
数学史研究者 @redqueenbee1

(この場合は外,陸,海の暗号のコードを持参していた)を携行している伝書使が自分の部屋に怪しげな旅客を生じ入れることは,まさに職務違反と言わねばならぬ.その一人が死亡したのであるから,その理由如何に拘らず生き残りはさらに注意をし,部屋を閉じてモスクワ着までは静かにしておらねばならぬ

2018-03-18 08:42:49
数学史研究者 @redqueenbee1

威力を示す必要ありなどとは許すべからざる,また伝書使の何たるかを解さぬ蛮行と言わねばならぬ.モスクワに帰着後,数回にわたって本人(陸軍の参謀)を調べたが,その陳述はだいたい前述の通りであり,自らの行動をもっぱら正当化する努力に終始していた感がある.その間,陸軍武官のほうからは,

2018-03-18 08:43:11
数学史研究者 @redqueenbee1

伝書使携行の電信コードを念入りに調べたが,ソ連側に見られた形跡はないとの申し出だったに反し,海軍武官のほうからは,やはり調べられた痕跡がありますね,と正反対の証言があった.ソ連側が暗号を調べたにせよ調べぬにせよ,怪しい場合はすべてのコードを廃棄せねばならぬのは当然である.ソ連側は

2018-03-18 08:43:32
数学史研究者 @redqueenbee1

計画的に伝書使を欺き,その携行極秘書類をコピーする意図はなくても,当方が隙を見せれば,これにつけ込む態勢は常にできていると見なければなるまい.ソ連とはそれほど危険な国である.この伝書使がそういった隙を十分見せたことは,前述のところで明白である.そこで担当官としての私は,一部始終を

2018-03-18 08:43:54