フォビドゥンフォレスト6話「フォビドゥンフレイム」#8 「焦熱する痛み③」

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新しく公開しました #3「救出」 - フォビドゥンフォレスト - カクヨム kakuyomu.jp/works/11773540… ツイッター版最新話は今日(土曜)夜に更新します

2018-03-17 02:09:02
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フォビドゥンフォレスト6話「フォビドゥンフレイム」#7 「焦熱する痛み②」 - Togetter togetter.com/li/1208398 @togetter_jpさんから

2018-03-14 02:10:36
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(前回のあらすじ:片桐は昔見た光景を思い出していた。幼い瑠梨の身体に熱した焼き印を押し当てる……それは鳥姫の巫女の力を維持するための儀式だった。そのような苦痛を伴うとも知らず、瑠梨に羨ましいとまで言ってしまった少年は、その場から逃げ出してしまった。)

2018-03-19 00:11:50
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フォビドゥンフォレスト6話「フォビドゥンフレイム」 #8 「焦熱する痛み③」

2018-03-19 00:22:36
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「ハァッ……!ハァ……ハァッッ!」 片桐は焚き火の前に座り、火造り箸を握る。両脇には水の入ったバケツと工具箱。近所の工場で知り合いの大人に適当に理由をつけて借りたものだ。 座っているのは森の中の岩場の一角、開けた場所の中心。草も少なく川も近い。焚き火には適した場所だ。 1

2018-03-19 00:25:42
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「ハァ……!ハァ……ッ!!」 息を荒げ、汗を掻いているのは熱さのためばかりではない。震える右手を開いた左手で叩き、握りしめる。震えが落ち着くと火造り箸を握って先を開き、平らな石の上に置いた鉄釘を掴む。 長さ数センチのただの鉄釘を、重量物かのごとくゆっくりと持ち上げる。 2

2018-03-19 00:32:52
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鉄釘を焚き火に入れて離す。釘の色が変わるまで待ち、更に数秒。再び箸を焚き火に入れ、鉄釘をしっかりと掴む。顔の高さまで持ち上げて見ると、釘は赤黒く変色している。当然だが見るからに熱そうだ。思わず目を逸らすと、箸を掴む手に汗が滲んでいるのが目立った。 (くそっ!) 心中で舌打ちする。 3

2018-03-19 00:38:22
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この汗は単に熱いからという訳ではない。自分でよく分かる。だからこそ腹が立つ。取り落とすと厄介だ。右手をそのままにハンカチで拭う。手の内側も拭うべきだが、一度離したら再び握り治せる自信はなかった。 「……ちっ!」 内側を拭う代わりに握る力を強める。 4

2018-03-19 00:41:08
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釘を左腕に近づけていく。瑠梨と同じ背中か腹にしたかったが、目測を誤って釘を刺しでもしたら事だ。何も自殺がしたいわけではない。直前まで近づけて初めて袖を捲り忘れていたことに気付く。これも自分の覚悟のなさの現れか?三度悪態をつき、拳の底で袖を捲る。 5

2018-03-19 00:48:03
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姿勢を整え、儀式を再開する。出来たところで神の力が宿るわけではない。それは分かっている。ただの自己満足だ。贖罪と呼ぶのも烏滸がましい。……こういった小難しい表現はまだ分からずとも、自分の行為の意味は分かる。つまり無意味な愚行だ。それでもせずにはいられなかった。 6

2018-03-19 00:53:19
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「スゥーーッ……フーーッ……!!」 然程大きくもない鉄釘一本を、たった数十センチの距離動かす。 それだけの動作に一分以上掛かった。それだけ掛けてまだ釘と腕の間には数センチの距離がある。震える右手は既に重量物の入った袋を数十分間ぶら下げ続けたかのような疲労感を感じる。 7

2018-03-19 01:00:04
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このままでは疲れで釘を取り落としそうだ。意を決する。 (1、2の……) 声に出さない。そこまでしなければ儀式が出来ない、と認めるようだったからだ。 (3!) 箸を腕に押し付ける。 「うわあああぁっっ!!」 反射的に箸を大きく離し、身体も大きく後ろに仰け反る。 8

2018-03-19 01:07:05
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「痛っ……ハァハァッ……!?」 呼吸を整えて火傷の痕を見る。ケロイド状に醜く爛れた様を想像して見つめた左腕には、虫刺されじみた小さな跡があるだけだった。 「あ……?」 この分では釘ではなく、箸の先端だけ触れたのかも知れない。思えば接触の瞬間は目を閉じた上に逸してしまっていた。 9

2018-03-19 01:18:55
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「こん畜生がぁあああっっ!!!」 火造り箸を逆手に持って釘を掴み直すと立ち上がり、親の仇を刺すかのような勢いで焚き火に突き刺した。火造り箸は箸と言う名だが先端はペンチ状になっている。逆手で持てなくはない。繊細な作業はできなくなるが、今は問題ない。 10

2018-03-19 01:24:01
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「ふん!!」 釘を勢いよく取り出し、左腕に振り下ろす。釘の向きは横にしてあるが、それでも突き刺さりそうな勢いだった。 「熱っ!」 寸前で狙いが逸れ、腕を掠める。或いは自分で体を動かしてしまったか? 「オラァッ!」 狙い直し腕に叩きつける。更に握りの上から顎で抑える。 11

2018-03-19 01:27:23
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左腕が焦熱する。熱いと思ったのは一瞬、痛みしか感じない。当時の彼の人生経験の範囲では彫刻刀で手の平を深く切った痛みが最も近かった。傷口が第二の心臓になったように脈打つのを感じるあの痛みだ。 「づっ…うぅ……あぁっ!!?」 耐えきれず姿勢が崩れる。今度は釘は離さなかった。 12

2018-03-19 01:33:05
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火傷は想像した釘の形そのままではなかった。釘の形は両端だけで途中で途切れ、中心部は箸の跡が残るだけだった。この程度であの痛みか。しかも押し当てていたのは恐らく数秒。瑠梨の時は十秒か二十秒は当て続けていた。 「っの野郎……!」 13

2018-03-19 01:37:53
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臆病な身体を押さえつける必要がある。左腕を平石の上に乗せることを思いつき、身体を横にする。だが釘が冷めていることに気付き、立ち上がって釘を熱し直してから再び横になる。 「行くぞ……!」 自分の体に言い聞かせ、再び釘を押し当てに行く。 14

2018-03-19 01:42:34
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……試みること数回、一度に焼き続けていられたのはせいぜい十秒が限度だった。体が反射的に逃げてしまう。火傷の跡は増えたが、彼の目には猫にでも引っ掻きまくられた程度の情けない様子にしか見えなかった。 (俺だって瑠梨と同じようにやれば……) そこまで考えて更に自己嫌悪が押し寄せる。 15

2018-03-19 01:46:53
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瑠梨は確かに刻印を自分でやっていた訳ではないが、逃げずに手すりを掴んでいたのは本人の意志と力だ。同じ条件で自分に出来るのだろうか? 「くそっ!!」 改めて釘を熱する。今度は掴みやすく太い五寸釘に変えた。焚き火から取り出して腕に近づける。だいぶ抵抗は薄れた。これで……!! 16

2018-03-19 01:50:18
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「何を……やってるの……っ!!」 全身に大量の水を浴びせられた。衝撃に釘を取り落とす。 バケツの水をかけたのは息を切らせた様子の円だった。巫女服を濡らすのは今跳ね返った水だけのせいでは無さそうだ。遅れて瑠梨の父、更に遅れて自分の母も駆け付けた。皆で片桐を探していたらしい。 17

2018-03-19 01:56:06
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瑠梨の父と円に頭を下げられた片桐の母が逆に恐縮して、片桐の頭を叩く。慌てた円が火傷を冷ますべく、バケツを川に持っていこうとして瑠梨の父に止められる。彼に連れられて片桐少年は川の水に両腕を曝す。逆手を焚き火に近づけた時だろうか、右の袖口が焦げ、手の平にも多少の火傷があった。 18

2018-03-19 02:04:05
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(何をやってんだよ……俺は……) 傷口と共に頭も冷えていく。これでは間接的に瑠梨に迷惑を掛けただけだ。あの儀式は明らかにまだ途中だった。後は手当をするだけだっだと説明は受けたが、最悪、儀式を一からやり直す可能性もありえただろう。 19

2018-03-19 02:08:09
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下手をすれば、自分のせいで瑠梨がもう一度痛みを負う可能性だってあったのだ。痛みを共有し共に背負うどころではない。これではただの……ただの……! 「落ち着きなさい」 衝動に駆られる少年の肩を、少女の父がそっと叩いた。 「私も、君の少しは気持ちが分かるつもりだ」 20

2018-03-19 02:11:36
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振り返って見上げたその表情は、労りと辛さに満ちていた。同時に目の前の少年を通して何処か遠くを見ているようでもあった。 21

2018-03-19 02:15:01