ポッシブル・ドミネイション #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「何をやる」「そうだな……昔取った杵柄みたいなものだが……遠隔治療ときた。ちょっとキツイかもな。いや、こっちの話」シルバーキーは謎めいて呟いた。「タキ=サンが "喰らって" いるのなら、割って入って、その影響を断ち切ってやるんだ」「そうか」「見つけた。行くぞ」星の一つが強く輝いた◆

2018-03-24 22:33:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆シルバーキーはこめかみに指を当て、もう一方の手でマスラダの肩を押さえた。「お前は俺についてくればいい。息を吸うぞ」シルバーキーが促した。マスラダの視界を0と1のノイズが覆う……!◆

2018-03-24 22:33:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01010000100瞬き程度の時間、マスラダは廃イクラ工場でUNIXデッキの前に佇む赤黒のニンジャを幻視した。それが己の姿だとわかった時には、既に彼は亜光速めいた星の流れとなり、0と1のデジタル信号のチューブに摩擦の火花を散らしながら加速していた。銀を内包する灰色の灯が彼を先導した。 1

2018-03-24 22:40:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トンネルめいたこのチューブは、灰色の灯が散らすデジタル光によって形成されていた。シルバーキーがリアルタイムに生み出す道なのだ。(よそ見するなよ)シルバーキーのwhisper信号が飛んだ。(コースを外れたら拾い上げるのは困難だ。少なくとも、探しているうちに俺のロウソクが全部消えちまうな)2

2018-03-24 22:45:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(わかっている)(あれはヴォイドサーファーだ。気にする必要はない)視界の端で、ハレー彗星めいた小さな粒が方向を変えた。追われている。デジタルノイズの巨人がそれを捕らえようとする。(で、追いかけている奴は、コトダマ空間の危険な狩人で……)(やめろ。気が散る) 3

2018-03-24 22:48:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01001001...「そうだ。いいぞ。ウォッシュするんだ」「アーン……」「こうすると気持ちいいの?」「マジで最高だぜ。本当……スッゲ……」タキは双子めいてそっくりのサキュバスに挟まれ、恍惚と呟いた。「今のオレは完全にグラントリノだ!」「素敵!」「ゾクゾクしちゃう」「そうだろう!」  4

2018-03-24 22:53:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ooOOooOooタスケテ……タスケテクレ……遠くで聞こえる声は、タキがとても良く知っている声……タキが誰よりも良く知っている筈の声だった。しかしタキは電子泡まみれになりながら最高の気分になっており、そんな声に耳傾ける暇はなかった。「アッ……ヤバいって。そんなところまで?」「勿論!」 5

2018-03-24 22:57:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

OOooOoOOOヤメロ!目を覚まooOOoOオレはOOoooOOo「こんな事をタダでしてくれるなんてなァ!」「そうよ、タダ、タダ」「貴方はずっと気持ちよくなっていればいいの」「アイツに任せちゃいなよ」OooOoOヤメロOooOOO弱々しい影がガス・スタンド敷地に触れようとして、すり抜ける。 6

2018-03-24 23:00:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイツ大丈夫かな?名前何だっけ……確か……」タキは考えようとした。「確か、タキとかいう……」「誰、それ?」サキュバスは腿で腕を挟みながら見上げた。「それ、私より重要?」「どうなの?ねえ」もう一人のサキュバスがタキの耳に舌を根元まで入れて囁いた。タキは快楽に震えた。「全然!」7

2018-03-24 23:03:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうでしょ?」「ヤッター!」タキは遠い空に霞む表示を見る。「ンンン……UNIXをロックしています……この画面表示を消すには5000オムロ……振り込んで……?」「そう、そう」「かわいそうよね、タキ=サン」「かわいそうだなあ。ははは!」 8

2018-03-24 23:06:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんですかこれは!」遠くで聞き覚えのある女の声がした。「急にモニタにこんなものが……タキ=サンが何らかの攻撃を受けているに違いない……!タキ=サン!?」OOoOoOOOオレだ!コトブキ!この状態OOoOOO外の世界の物事に興味はない。タキはフル回転する。物理世界の千倍は強烈な刺激だ。 9

2018-03-24 23:10:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スケベ」「スケベ」「スケベ」「スケベ」。ガス・スタンドを取り囲む地平線が赤い壁になり、外部の微かな声を完全に遮断した。そこにはカタカナで「スケベ」と書かれている。スケベはギラギラと明滅し、巨大なカタカナ一文字一文字を作り出す。「ドミネイター」。スケベドミネイター。10

2018-03-24 23:13:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはや「タキ」の影すら見えなかった。なにか忘れてきたのでは、という自覚すら、消えて失せた。スケベドミネイター。2030年代に開発されたヴィンテージ・ウイルス。開発者のベルーカ・スケベは既にこの世にない。ただこの悪意だけが秘められ、隠されてきた。サキュバスの秘密の小箱の中に。 11

2018-03-24 23:16:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキの意識は何らかのジツによって既にUNIXデッキの中に縛られていた。人間の自我が凶悪な電子ウイルスに晒されればどうなるのか。もはやタキは重篤自我科患者よりもなお絶望的な状況下におかれ、ネオサイタマの地下室でデッキに突っ伏した物理肉体の脳波は、たった今フラットラインした。 12

2018-03-24 23:21:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それじゃ、じっくり探させてもらおうか」サキュバスが言った。「え?」素晴らしく電子泡にまみれた哀れな男は訝しんだ。「探すって、何を?」「決まってるだろ」サキュバスは答えた。「お前らのすべてだよ」「待ってくれ。まだオレは出し切ってないんだ……」「アワレだな」サキュバスは冷たい。 13

2018-03-24 23:23:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「待ってくれ」タキは裸で中古車のボンネットに大の字に縛られた己を発見した。「このあと、オレはどうすれば」「知らないよ」サキュバスはクスクス笑った。二人だったのが、いつの間にか、一人だ。「お前なんて、脳の特定部位に過ぎないんだ。ただの残りッカスだよ」「オレが……カス……」 14

2018-03-24 23:26:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「過冬のシステムに入り込もうとするからには、それなりの動機があるわけだ、オマエにも」サキュバスは言った。その手には給油ノズル。「別にオマエに質問はしない。こいつを耳に突っ込んで、全部吸い取る。最後に一番気持ちよくしてやるからな」「ヤメロ」「さあて」サキュバスはタキの耳に! 15

2018-03-24 23:30:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤメローッ!AAAAAARGH!」タキは痙攣!サキュバスは粛々とコマンド実行!「アッハハハハハ!アッハハハハハ!」「AAAAAARGH!」「アッハハハハハ!アッハハハハハ!」「AAAAAAAARGH!」「アッハハハハハハ……」「Wasshoi!」16

2018-03-24 23:32:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAAAASH!決断的シャウトを伴い、赤黒の攻撃的アカウントが突入してきた!「スケベドミネイター:システム解放には5000オムロ必要です」と書かれた赤い壁は、蹂躙された大聖堂のステンドグラスめいて粉々に砕け、飛び散った。「グワーッ!?」サキュバスはトビゲリを受けて吹き飛んだ! 17

2018-03-24 23:34:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サキュバスはガス・スタンド敷地内を四方八方にバウンドし、01ノイズを飛び散らせて転がった。「ドーモ。サキュバス=サン」赤黒の攻撃的アカウントはojigiコマンドで先手を打った。「ニンジャスレイヤーです。既に貴様のアカウント名は明らかだ!」「グワーッ!」 18

2018-03-24 23:38:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サキュバスは身悶えし、01ノイズの風と化して散ってゆく。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「ひとまずほっておけ!コイツを蘇生させる必要がある」シルバーキーがボンネットに縛られたタキを解放しながら叫んだ。「非常にまずい状況だ。物理時間でどの程度フラットラインしているか……」 19

2018-03-24 23:40:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「拷問か」「そうだな。電子的な……クソッ、俺が直接助けられれば話は早いんだが」と、シルバーキー。ニンジャスレイヤーはチョップを振り上げた。「構わん。おれがやる」「いけるか?」「イヤーッ!」タキの心臓にヒーリング・チョップを見舞う!「アバーッ!」 20

2018-03-24 23:43:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その瞬間、敷地から締め出されていた巨大なタキの主自我が大きく揺り動かされ、ボンネット上のタキは01拡散消滅して、ばかげたガス・スタンドの幻影も消え去った。タキは銀の浜辺にうつ伏せに倒れていた。マスラダが彼を揺さぶり、砂を吐かせた。「ゲボッ……お、お前か。お、お、遅せェぞ……」 21

2018-03-24 23:47:50