燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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壱子 @1co_xxxx

■燭へしが旅行するお話 □朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行います □朝凪さんが長谷部視点、私が光忠視点で話は進みます □設定は、社会人の燭へしが付き合って初めての泊まり旅をする以外はノープランです。話の中で決まっていきます ※以下リプツリーにお話は続きます pic.twitter.com/6ebBL3H5IW

2018-02-23 22:15:06
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朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「ねえ長谷部くん。春告草って見たことあるかい?」 「はるつげぐさ?」 隣を歩く光忠の問い掛けに目線を上げる。 「いや、多分見たことない。あいにく花には詳しくないんだ」 「じゃあこれは?」 美しく長い指が、深夜の駅構内の観光ポスターを指した。 「梅だろ?」 「そう。別名、春告草」 「ほう」

2018-02-23 22:25:54
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx そんな雅な別名があるとは知らなかった。光忠は雑学が豊富だ。こいつと話すのは面白いし安らぐ。だから一緒にいることを選んだのだ。 「素敵な名前だよね。まだまだ寒いけど、春はすぐそこまで来てるって思わせてくれる」 「お前は花が好きなのか?」 「花自体より、花で季節を感じるのが好きかな」

2018-02-23 22:26:40
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 派手な顔の男だが中身は意外と素朴なのかもしれない。俺はまだこいつの深い部分をよく知らない。 なおも目と足をそこに留め続ける光忠を、やや硬めの声で促す。 「光忠、終電が」 「そうだった」 俺たちはいつも別々の電車で別々の家に帰る。別れ際はいつも、どんな顔をしていれば良いのか少し困る。

2018-02-23 22:27:34
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「さっきの梅なんだけどさ」 先に電車に乗り込んだ光忠が、じきに発車するというのにドア前で口を開いた。 「君と見に行けたらいいなって、ちょっと思ったんだ。その……つまり」 光忠が言い澱む。訝しがりながら目を合わせると、その表情は少し緊張して見えた。 「近々、泊まり掛けで出かけない?」

2018-02-23 22:28:38
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「えっ」 「……はじめての、ふたりたびをしてみない?」 発車のベルが鳴った。熟考の間もなく俺と光忠の間の扉が閉まりかけ――。 「行く!!」 公衆の面前ということも忘れ、叫ぶようにして答えた。ガラス越しの笑顔が弾けた。 こうして、先日恋人同士となった俺たちの初めての二人旅が決まった。→

2018-02-23 22:31:11
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march パタン。 と目の前のドアが閉まる。 “またね”と窓越しに唇を動かして長谷部くんに手を振ってやる。それに合わせて小さく手を振り返してくれる恋人が可愛い。 電車が動き出すとほぼ同時に反対側の線路に電車が入ってきた。トントンと窓を爪で軽く叩き、電車が来たことを伝える。

2018-02-24 19:20:36
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 長谷部くんが電車に乗り込もうとするのを駅のホームから離れ始めた電車の中から確認し、僕は空いている座席へと腰を下ろした。

2018-02-24 19:21:23
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march (長谷部くんと旅行かあ……) 先の恋人との会話を思い出し、頰が綻ぶ。 彼は何が好きであっただろうかとスマホをタップし情報サイトを眺める。ご飯、行き先、宿泊先。話し合いたいことも、準備しておきたいことも沢山ある。

2018-02-24 19:22:04
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 楽しみだと画面に指を滑らせているとピコンと通知のポップアップが画面上部に表示された。 僕は表示されたポップアップに触れ、直ぐ様返事を打ち込んだ。→

2018-02-24 19:22:27
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx (光忠と旅行か……) 光忠に促されあたふたと乗り込んだ最終電車。光忠とは反対方向へ動き出したこの電車は、吊革に掴まったままうとうとしている者、上機嫌な酔っぱらいなどでひしめき合っていた。扉にもたれ掛かる形でしばしぼんやりする。いつのまにか火照っていた頬に、ガラスの冷たさが心地よい。

2018-02-27 17:56:05
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 付き合うまでも付き合ってからも、光忠とのデートは何度かこなしてきた。映画を観る、カフェで感想を語らう、通りや公園を散策する、小洒落たバーに飲みに行く、結局物足りなくて最後は色気なくラーメンで締める、など。 ――そう、色気。俺たちは今まで、いわゆる色っぽい展開になったことがなかった。

2018-02-27 17:56:44
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 互いの家に泊まったことはある。だが、その時はまだ互いに緊張していて、普段よりハイピッチで缶チューハイを呷った結果、気づいたときには二人とも床で雑魚寝していた。 俺としては正直ほっとした。そういうことに及ぶ覚悟がまだできていなかったのだ。 (そんな俺たちが、泊まり掛けで旅行に……?)

2018-02-27 17:57:34
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 再び頬が熱を帯び始めたのをぶんぶんと頭を振って散らす。 (いや、他意はないかもしれない。純粋に旅行がしたいだけだろう) とはいえ、恋人同士での初めての旅行。俺の妄想はどんどん膨らみ、半ばパニックに陥り出した。 そうだ、早速光忠に連絡しよう!決めるべきことがたくさんあるじゃないか!

2018-02-27 18:00:00
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx イメージするんだ。光忠は何が好きなのか。食事の好みは。行きたい所は。泊まりたい所は。……だめだ、情報が足りない。手早くスマホの画面をタップする。 『まずは作戦会議といこうじゃないか』 メッセージ送信直後、なんだこの色気のない文面はぁぁ!とガラス窓に頭を打ち付けたい衝動に駆られた。→

2018-02-27 18:05:54
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 『まずは作戦会議といこうじゃないか』 スマホの画面に表示される恋人の返事。電車の閉まりかけたドアの向こうで長谷部くんが頷く姿を思い出しながら、其れを噛み締めるようにスマホを握り締めた手に力が入る。 ──先ずは何から決めたものか。 以前デートに出掛けた際、しっかりとエスコートしたいと

2018-03-02 23:53:49
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 思った僕は、長谷部くんに内緒でレストランを予約しサプライズを仕掛けたことがある。僕はてっきり喜んでくれるものだと思っていたのに、長谷部くんに怒られてしまった。「俺もお前と一緒に決めたかったのに」と。以来、僕は彼と一緒に計画を立てることを楽しむようにしている。

2018-03-02 23:54:49
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 一緒に計画を立てていると得られるものも沢山あった。長谷部くんが甘いものを好いていることを知れたのも其の恩恵である。 (まあ、ちょっとしたサプライズくらいはしたって怒られないよねえ……) 僕はデートプランをメモしていたページを閉じてスマホをスーツのポケットにしまう。

2018-03-02 23:55:19
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 脇に抱えていたビジネスバッグから薄型のノートパソコンを取り出して起動させる。事前にストックしていたデータをパワーポイントへと落とし込み、推したいポイントを打ち込んでいく。 簡単な資料が出来上がった頃には自宅の最寄り駅にまもなく到着するとの放送が流れていた。

2018-03-02 23:55:40
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 其れをメールに添付し、長谷部くんに送りつける。 『良いね!僕のオススメは此処なんだけど、どうかな?』→

2018-03-02 23:55:53
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「なんってことだ……」 光忠が作った資料を自宅で開いた瞬間、そんな言葉が口をついて出た。なんだこの気合いの入りようは。あいつめ、さっきはふと思い付いたとばかりに誘ったくせに、本当は前々から計画していたな。 負けたくない。闘争心に火が着いた。早速地図検索サイトとExcelを立ち上げる。

2018-03-05 18:32:28
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 提案された旅行先、悪くない。見所や名物の情報をいくつか挙げて、「どれが好き?」「ここは僕がこだわりたい、この分野は君の方が詳しいかな」と互いの意見をすり合わせようとする姿勢も好ましい。 実は以前、何もかも光忠が計画したデートがあったのだが、次からはやめろと声を荒げてしまったのだ。

2018-03-05 18:33:55
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx お客様扱いされているのがどうにも居心地が悪くて。もてなそうだなんて考えてほしくない。あいつとは対等でいたいのだ。 光忠の情報を基に各所の地図を統合し、距離と交通手段を算出して、回る順番もざっくりと決めた。各所の滞在時間、予算。情報や理論で身を固めていくうちに心が落ち着いてきた。

2018-03-05 18:34:59
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx (俺だってあいつを喜ばせるためにこれくらいのことはできるんだ!) 最終チェックを行い、光忠に返信をする。気付いたときには二時を回っていた。目と頭が重いわけだ。シャワーを浴び、就寝前にもう一度メールボックスを確認するが、当然返信はない。少し不安だ。 (……俺は、空回ってはいないだろうか)

2018-03-05 21:28:34
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 一緒に相談して決めたいと言ったのは自分のくせに、いざ提案し返してみると、光忠の反応が気になって落ち着かない。今日はもう返事は来ないだろうから寝る他ないが、俺の頭は旅行のことでいっぱいだった。 (服装はどうするか……春物のコートではまだ肌寒いだろうか) 布団の中でも悩みの種は尽きない。

2018-03-05 21:30:12
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