ラスト・ガール・スタンディング #1

【怪奇?死んだと思ったら生きていた!】もはや非常事態宣言レベルの年間自殺者数を抱える我が国において、またしても悲痛な事件である。キョート・リパブリックのとある進学校で校舎屋上から飛び降り自殺をはかったXXが、下で掃除をしていたYYにぶつかったのである。なんたるいたましい偶然!
2011-04-08 17:40:49
二人の高校生は頭蓋骨と脳幹に損傷を負い、もはやいかなるサイバネティクスを用いても蘇生は不可能と思われた。だがしかし、ボンズが病院に到着した時、二人は同時に意識を取り戻し、翌日には揃って退院したというのだ。なんたる奇跡!だがしかし、こんな痛ましい事態を引き起こさぬ為には政権交代だ。
2011-04-08 17:45:19
彼女ヤモト・コキは流水に浸されたような奇妙な時間感覚にとらわれ、目の前で起こっている出来事をまるでスローモーションのように認識していた。二人の男が奥でクラスメートのアサリを押さえつけ、制服を剥ぎ取っている。ヤモトは壁際で尻餅をついている。左頬を殴られて口の中を切り、出血している。
2011-04-08 18:05:02
アサリに乱暴しているのが二人。倉庫の出入り口に立って外を見張っているのが一人。全部で三人だ。皆、体格がよく、一人はオチムシャ・ヘアーだ。ヤモトの思考は乱れる。前後の記憶が曖昧だ。ここはどこ?何故こうなった?アサリは必死で抵抗するが、馬乗りになった男は容赦無くその顔を殴る。
2011-04-08 18:09:56
助けなきゃ。助ける?どうやって?助けられるとも。どうやって?アタイは何でもできる。どうやって?アタイの力。シ・ニンジャの力。さあ使え。私の力。存分に使え。さあ使え。どうやって?考える必要なんて無い。さあ。これでさようならだ。今から私はアタイだ。さあ。サヨナラ。
2011-04-08 18:14:31
左頬の痛みが引いて行く。ヤモトは暖かい力の流れが下腹部から全身へ流れて行く感覚を味わう。快い、だが同時に、ぞっとする感覚を。ヤモトは立ち上がろうとする。びっくりするほど体は軽い……
2011-04-08 18:16:56
ヤモトはアサリを見下ろすオチムシャ・ヘアー男の背後へ跳んだ。回転の勢いを乗せた肘打ちがそいつのコメカミに叩き込まれると、反対側のコメカミが風船のように裂け割れ、砕けた頭蓋骨や脳漿が噴出した!「アバババババ、アババババーッ!」
2011-04-08 18:21:43
ヤモトは己の力に戦慄した。なんだ?これは?アサリにのしかかってパンツを下ろしていた男がヤモトを見る。「……え?」「イヤーッ!」「アバーッ!」ヤモトの蹴りが男の首を直撃、引きちぎれてふきとび、べシャリと音を立てて壁の染みとなる!「アイエエエエ!」アサリが絶叫した。
2011-04-08 19:40:05
「スッゾコラー!」騒ぎに気づいたもう一人が殺到する。状況をよくわかっていないのか、ヤモトを脅そうと、得物のバタフライナイフを取り出し突きつける。「ザッケンナコラー!」鼻先をかすめる刃をヤモトは人差し指と中指で挟み、受け止めた。「な……なんだ?こいつ?」もがくが、ナイフは動かない。
2011-04-08 19:43:28
「イヤーッ!」ヤモトはもう一方の腕で、男の肘を打った。「グワーッ!?」男の腕はあらぬ方向へ折れ曲がり、肘骨が飛び出す!ヤモトは男の手からバタフライナイフを奪い取ると、男の鼻面を斜めに切り下ろす!「イヤーッ!」「グワーッ!」切り上げる!「イヤーッ!」「グワーッ!」
2011-04-08 19:47:11
「イヤーッ!」切り下ろす!切り上げる!切り下ろす!切り上げる!「アバババババ、アババババ、アバババババ、アババババーッ!」
2011-04-08 19:48:26
顔面を細切れにされた男はショック死して仰向けに引っくり返った。ヤモトはバタフライナイフを振り回した。カシャン!カシャン、カシャン!カシャン!まるで扱い方をずっと昔から知っていたかのようだ。噴き出すアドレナリンにおののく。酸鼻な血の匂い。これをアタイがやったのだ……!
2011-04-08 19:54:55
「ヤ、ヤモト=サン?」アサリがよろめきながら立ち上がった。殴られて顔を腫らし、服も破られている。ヤモトはアサリを力強く抱きしめる。「ドーモ、アサリ=サン。もう大丈夫。帰ろう」「ヤ……ヤモト=サンは大丈夫?」「大丈夫。ところで、ここはどこ?」
2011-04-08 19:59:08
こうしてヤモト・コキは転校二日目にして下校中に激しく負傷し、二週間の入通院を余儀なくされた。ネオサイタマのマッポー的治安状況を鑑みれば、学級委員のアサリともども、命拾いしただけでも僥倖とされた。
2011-04-08 20:41:43
強姦殺人目的のヨタモノに襲われたところへ別のシリアルキラーが乱入し、二人は命からがら逃げ出した。マッポにはそのように捉えられている。
2011-04-08 20:42:32
ヤモトは一人で黙々と朝食のヒジキ・トーストを食べ、着替えると、装甲仕様のバスに乗ってハイスクールへ向かう。バスの装甲はものものしい。治安のよくない区域を通るので、投石や火炎瓶に備える必要があるのだ。
2011-04-08 20:55:49
車内で一番後ろの座席に座るのは、同じハイスクールの制服を着た男子生徒だ。アフロヘアーでティアドロップ・サングラスをかけている。異様ななりである。無言でじっと見てくるその男子生徒へ視線を合わせないように、ヤモトは外の景色に集中する。
2011-04-08 21:22:22
「ヤモト=サン!」停留所で乗り込んできたアサリが声をかける。口元にあざが残り、憔悴しているが、つとめて明るく振る舞っている。「オハヨウゴザイマス。ヤモト=サン、もう大丈夫?」「ドーモ、アサリ=サン」ヤモトは笑顔を向けた。「あなたこそ」「私、今日からなの」「アタイもだよ」
2011-04-08 21:28:31
ヤモトはアサリを嬉しく思った。アフロヘアーの注視を意識せずにすむのは有難い。なによりヤモトはアサリのことが好きだった。学級委員の義務感もあろうが、転校したばかりのヤモトにつとめて親切にしてくれている。繁華街にも連れ出して……それが二週間前の酷い事件の原因にもなってしまった訳だが。
2011-04-08 21:33:05
極限の状況を共有したことで、ヤモトとアサリのつながりはより強くなったに違いない。ユウジョウ!つとめて他愛の無い会話をしばらく交わしたのち、「アサリ=サン」ヤモトは耳打ちした。「何?」「一番後ろの席のあれ、誰だかわかる……」アサリはアフロヘアーを見やり、ぎょっとして「知らない!」
2011-04-08 22:47:57