junsugawaraさんによる「今朝のウイグル語」まとめ

junsugawaraさん(東京外国語大学で「現代ウイグル語」の授業をされている方のようです)がツイートしている「今朝のウイグル語」をまとめました。
1
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補遺2):そしてウイグル語詳解辞典によればghelwirよりelgekは穴が小さいと明記してあるから、おそらく穴の大きさはötkeme > ghelwir > elgekと判断される、のでしょうか。さてこういう見方は成り立つのでありましょうか。

2011-03-31 06:35:02
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補遺3):なお"elgek"は1982年刊行の维汉词典では"eglek"とされています。実はカシュガル市内にeglekchiという地名も現存しており、たぶん"eglek"が古くから通用してきた形だと思うのですが、なんでまた"elgek"に改められたんでしょうね。

2011-03-31 06:41:47
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:ötne alem(jahan)とは借り物の世界、かと思いきや、さにあらず。「因果応報」つまり良い行いには良い結果が、悪い行いには悪い結果がついて回るというすぐれて仏教的?な常識を言い表した言葉です。なおötneは「借財(借り物)」の意味です。

2011-04-01 06:22:41
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(悪のり):借り物の世界、というフレーズはハン・スーインが『慕情』で香港のことを言った「借り物の場所、借り物の時間」を思い出させますね。もっとも香港が返還された今となっては「何のことやら」と思う若い人もいるでしょうが。コロニアル・香港を象徴する明言のひとつかと。

2011-04-01 06:28:16
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(悪のりついで):かつての香港の姿を切り取った名著としては山口文憲さんの『香港 旅の雑学ノート』を推薦したく思います。http://amzn.to/gS7jy8 都市を扱った本にはそれぞれ「これ」という名著がありますが、これもその一冊ですね。

2011-04-01 06:33:46
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:諺。ötüki yirtiq törge chiqalmas, yéngi yirtiq ash yéyelmes 「長靴が破れた者は土間から上がれず、袖が破れた者は料理に手が出せない」長靴が破れ、は日本ならさしずめ「靴下に穴が」という感じでしょうか。

2011-04-02 05:52:56
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):長靴(ötük)は膝丈の深さの革製のブーツを指し、この上にkalachという足部分を覆う浅いオーバーシューズを履きます。土間から上がりこむ際にはkalachのみ脱ぐわけですが、長靴が破れ、は実質的には靴下に穴が開いているのと大差ない光景なのかもしれません

2011-04-02 05:55:57
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:chasa(<charsu <chaharsu)は「十字路」の意。カシュガル旧市街東側、そしてヤルカンド旧市に地名が存在しています。特に後者は確かドイツ人探検家アドルフ・シュラーギントワイトがワリー・ハーンの命により処刑された(1857)場所の筈。

2011-04-03 06:19:13
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):ワリー・ハーンについてはhttp://bit.ly/fkex1Y 参照。あのアーファーク廟(アパク・ホジャ廟、香妃墓)被葬者一族に連なる人物です。

2011-04-03 06:25:24
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:özgichilikは「特色」や「独自性」の意。ところでイスラーム世界や中央アジアからウイグル人とその文化を照らした場合、そのözgichilikがどこにあるのか、はかなり興味深い問題ではないかと私は思います。これをちゃんと真面目に考えた人はいるのでしょうか。

2011-04-04 08:35:20
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:iqrarは一般に「自白;自供」や「承認」の意味で用いられるけれども、歴史的にはイスラーム法廷文書の要となる文言「聖法にかなった陳述(iqrar-i shar'i)」で多用されます。これを1人称で陳述するのが中央アジア文書(ペルシャ語も当然)等とも通じるマナー。

2011-04-05 07:21:33
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:pachaqは「すね」。そしてpachaqchiとは直訳では「すねを噛む者」だが、これは人の弱みに付け込む者、という意味で日本語の「すねかじり」とは意味がやや違う。

2011-04-06 06:56:14
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):pachaqは他に同音異義語で「小片」を意味し、pachaq-pachaqで「ばらばら」「こなごな」、pachaq-pachaq qilmaqで「木っ端微塵に粉砕する」「散々にうちのめす」の意。

2011-04-06 06:57:18
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:palaqは「腐った」という意味の形容詞だが、名詞としては「櫂、オール」「ラケット、バット」そして学校で体罰に用いられた棒状の道具を指す。←道具としてなんと訳すか迷う。禅の警策に似ていなくもないが、今は「尻バット」の例もあるから案外バットでもよかったりして。

2011-04-07 06:57:48
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):palaqは形容詞、名詞のほかにオノマトペとして「ボトン ; ドサッ ; パシャ ; バシッ」のような意味もあり、palaq-puluqのような形で用いられます。日本語とはずいぶん感じが違って聞こえるような。

2011-04-07 07:17:42
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:qoziqulaqは「ホウレン草」。他にホウレン草を意味する言葉としてはpalekと漢語由来のboseyなどがあるが、都市部ではboseyがもっぱら通用している。こういう日常的な食材などの語彙は、個人的印象では、漢語への切り替えがずいぶん進んでいる感じがします。

2011-04-08 07:11:03
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(ついでに):「茄子」はpidigen~petinganだが、cheyzeという漢語が支配的って印象。逆に「タマネギ」はpiyaz(皮亚子?)が新疆漢族の間で普及しているし、「クミン」もzire(孜然)が一般的。まあこの2語はウイグル語といっても借用語彙だけど。

2011-04-08 07:33:14
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:baqiyは「永遠の」という意味の形容詞で、主としてbaqiy alem「来世」の意味でpaniy alem「この世」と対置される。以前はbaqiと綴られたが改められた。でも人名「Baqiさん」がそれでBaqiyさんになるわけもないし。こういうトラブルは多そう。

2011-04-10 05:43:49
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):たぶんこれはイスラーム世界共通というかアラビア語起源なのでしょうが「paniy alem(dunya)からbaqiy alem(dunya)に行く(進む、移る)」というのは、聖者伝などでは「死ぬ」の代わりによく用いられる常套的な表現です。いわずもがな??

2011-04-10 05:51:00
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(超マニアック):ウイグル語というよりはチャガタイ語、いやアラビア語なんだが。tauliyaتوليهはワクフ管財人などの叙任状のこと。今はじめてそれを動詞baghlimaqで受ける形を知った。やっぱタウリヤは契約で、締結される(結ばれる)ものって感じなんだね。

2011-04-10 07:12:55
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(さらに悪のり):ana xetとは「文書正本」のこと。副次的、追記的に作成された文書などに「詳細はana xetをご覧ください」のように書かれている、と言っても19世紀の事例だけど。現代語でもこう言うことは一般的なのかな。

2011-04-10 07:19:53
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:pangは(1)「耳が聞こえないこと、あるいは聴覚障害者」、(2)破裂音の擬声語「パンッ」、(3)農業用語の「徒長」(枝葉が育ちすぎて実がつかないこと)、そして(4)漢語由来の将棋らしきゲームをさす「方」など多義。最後の「方」の具体的な遊び方がよく分からない。

2011-04-11 06:08:56
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(番外編):現代ウイグル語正書法で「神」はallaئاللاと綴る。ついさっき気づいたのだが、新疆のモスクなどの掲示物などではさすがに全文現代ウイグル語で書かれた物であっても、神だけは正則アラビア語のまっとうな綴りاللهを使っているケースもままあるらしい。

2011-04-12 06:41:13
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語:paqaは「カエル」。paqisi qanmaqとは字義通りに訳すと「そのカエルが満足する」だが意味は「思ったことが実現する」となかなかカワイイ。また比喩でpaqidek soghuq「カエルのように冷たい」と言う言い方もあるんだって。

2011-04-13 07:48:05
Jun SUGAWARA @junsugawara

今朝のウイグル語(補足):paqaは他に「水車のひきうすの軸(shümek)を受ける鉄製の軸受け」のこと。そして方言では「女性器」を指す事もあるそうです。ついでながら、shümekは一般に「ゆりかごの通尿管」の意味なんだけど、臼の軸という意味もあるということをはじめて知りました。

2011-04-13 07:55:31