パシフィックリム続編に見る生きた文化としての怪獣映画の重心は日本から中国に移ってしまったのかということ

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生命情報保存研究所 @rodan670

人間が巨大ロボットに乗り込み、怪獣と戦うというストーリーの、日本の特撮やアニメの影響を強く受けたハリウッド映画「パシフィックリム」(2013)は、その文化的背景にもかかわらず日本での興行収入は振るわず、反面中国では117億円のヒット作となり、同作の売り上げを大きく牽引した。

2018-04-23 09:53:40
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この数字はアメリカ本国での興行収入額をも超えており、パシフィックリムという作品のシリーズ化においては、中国という存在が無視できないという事実を製作陣に強烈に印象付ける形となった。この影響は、今月公開された続編「パシフィックリム・アップライジング」の随所に現れている。

2018-04-23 09:57:56
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その最も分かりやすい形として、前作においてヒロインであった、菊地凛子氏演じるモリ・マコの唐突な死があげられる。モリ・マコは巨大ロボット・イエーガーに乗り込み、最前線で怪獣と戦う戦闘員であると同時に物語の重要人物でもあったが、前作から10年後を舞台設定としている本作では

2018-04-23 10:01:25
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戦場を退き、兵士を育てる教官と化している。そして物語の本筋にはからまず、ヘリに載っているところを悪役のロボットに襲われ、ほぼ何もできぬまま、味方のロボットに守られながら絶命する。これは前作のキャラ付けからはあまりにも乖離した無力な姿であると同時に、違和感の残る急な退場でもある。

2018-04-23 10:04:21
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マコの退場後、そのポジションを埋め合わせるように出現する東洋系のヒロインが、ジン・ティエン演じるリーウェン・シャオである。彼女は対怪獣用のロボット、イェーガーを量産する中国系大企業の女社長であるが、物語の終盤、事情により自らロボット兵器に乗り込み、

2018-04-24 23:02:37
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主人公の乗るイェーガーをサポートする重要な任につく。巨大企業のトップが自ら最前線に出てくるこの役回りにも違和感が残る。もしマコが存命であればそれは当然元戦闘員であった彼女に優先的に与えられる仕事であったと考えられる。

2018-04-24 23:07:24
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してみるにマコの急な退場は、この中国人女社長を輝かせるための下準備とも邪推される。パシフィックリムのイェーガーは、人間が内部に乗り込む、その人間の肉体の挙動がそのままロボットに伝達される、異形の怪獣と戦うなど日本製アニメ、エヴァンゲリオンの影響を強く受けているとされる。

2018-04-24 23:11:55
生命情報保存研究所 @rodan670

マコは「パイロット」「日本人女性」「ショートカット」などの特徴から同作品の主要登場人物である綾波レイと比較されることがあり、もし実際にこのキャラクターをモチーフにマコが描かれていたとするならば、「パシフィックリム」は下敷きとした日本の特撮文化をアクターの形で作品に導入した事となる

2018-04-24 23:20:08
生命情報保存研究所 @rodan670

「パシフィックリム」が作中に持ち込んだ日本要素には、他に「怪獣」を作中で「kaiju」とそのまま呼称していることなどがあげられる。しかし今作「パシフィックリム・アップライジング」では、そのマコは強制退場させられ、そのポジションは中国人女優に置換されてしまった。

2018-04-24 23:22:40
生命情報保存研究所 @rodan670

下敷きとしていた日本要素は、もはやアクターの形で顕現することはなくなった。行為者、という意味では、イェーガーの製造を取り仕切っているのが中国企業であるという点も大いなる異変である。パシフィックリム以前から日本の特撮文化に関心を有してきたスピルバーグは自身の作品「宇宙戦争」にて

2018-04-24 23:26:52
生命情報保存研究所 @rodan670

昔から日本という国は多くの怪獣と戦ってきたという理由から、世界中を襲った宇宙人の侵略兵器が最初に倒された場所を大阪とした。また最新作「レディ・プレイヤー1」では日本産のキャラクターとしてガンダムやメカゴジラを登場させるなど

2018-04-24 23:31:10
生命情報保存研究所 @rodan670

ロボット・対怪獣兵器といえば日本という前提理解を有しており、これは他のクリエイターにもある程度共通して確認される傾向であった。しかし本作においては対怪獣用巨大ロボット、イェーガーへの日本の関与は微塵も観察されない。あらゆる角度から行為者としての日本要素は消滅している。

2018-04-24 23:34:42
生命情報保存研究所 @rodan670

当の日本国内、東京からわずかも離れていない地点に問題の中国企業の工場が設置されていること描かれる有様である。ただ、イェーガーと怪獣との最終決戦の場は日本とされる。これが本作においてほぼ唯一明確な日本由来の要素である。戦場となった東京ではお台場を参考にしたと思しきガンダム像が映る。

2018-04-25 00:29:00
生命情報保存研究所 @rodan670

いささか強引な理屈で怪獣が最終的に富士山を目指していることも明かされる。富士山はゴジラシリーズを始め特撮で幾度となく舞台にされた場所である。このように本作でも下敷きとした日本の要素は作中にある程度反映されている。しかし今回それは行為者ではなく背景としてである。

2018-04-25 00:51:16
生命情報保存研究所 @rodan670

2013年の「パシフィックリム」において、怪獣映画という現象へリアルタイムに関与する存在として描かれた日本文化は、2018年の「パシフィックリム・アップライジング」では、もはや実績は評価されるべきものの最前線の参加者からは剥がれ落ちた古典としての扱いに甘んじている。

2018-04-27 22:46:20
生命情報保存研究所 @rodan670

かわりに怪獣映画という現象へのリアルタイムでの参加者のポジションは中国に置換された。作中、中国人社長につたない中国語で話しかけるコミカルなアメリカ人は、昔の特撮邦画でよく確認されたそれである。

2018-04-27 22:59:34
生命情報保存研究所 @rodan670

「パシフィックリム」から「パシフィックリム・アップライジング」にいたる5年間で生じたこの変異は、単に中国に取り入ったほうが興収が期待できるという経済的観点にとどまらず、精神的に見た場合怪獣映画の重心がどこにあるのかを、ハリウッド側が独自採点してしまったことに由来する可能性がある。

2018-04-27 23:03:11
生命情報保存研究所 @rodan670

日本の特撮、アニメ文化を踏襲した造りになっているのに、日本では受けず、その文化的背景がない中国でヒットしたなら、少なくとも今日において怪獣映画は中国において求められていると製作者は考える。

2018-04-27 23:04:39
生命情報保存研究所 @rodan670

映画は主人公が、kaijuの送り込まれてくる異次元世界に自ら乗り込むことを示唆したところで幕を閉じる。続編があった際、舞台が異界となるならば、今度こそ怪獣映画の生みの親となった日本文化は背景の形ですらその存在を許されない。

2018-04-27 23:45:44
生命情報保存研究所 @rodan670

自ら育てた文化への関心を失った者と、受け継いだ者の間で、kaiju映画は変容していくこととなる。

2018-04-27 23:46:32