【ベルクロ】士官学校の思い出【一話】

深海さかな @dzurablk_kai

幼年士官学校の思い出 ＃今夜のベルクロR18 （R18シーンはほぼ出てこない予定だけど一応、念のため、準備だけ・・・）

深海さかな @dzurablk_kai

ベルファストがアークロイヤルと初めて出逢ったのは、１１歳のときだった。 「なあすまない、少し聞きたいんだが。 講堂ってのはどっちに行けばいいのかな？」 後に戦艦クイーンエリザベスとして軍に配属になる主君の車からトランクを降ろしていた折に背中に投げ掛けられた言葉。 ＃今夜のベルクロR18

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振り返って真っ先に目に飛び込んできたのは、簡素なトランクを三つほど傍らに置いた、凛々しい淑女。 身につけている服の仕立ては良いものの、ハンチング帽にキュロット、ロングコートというまるで狩りにでも行くような格好は、周囲をドレス姿やメイド服が忙しく行き交う中では ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

あまりにも不釣合いに過ぎたのを、今でもよく覚えている。 「さあ、わたくしも存じませんので… それよりお先に、寄宿舎に荷物を置きに行かれた方がよいのではないかと存じます」 「おお、それもそうだな！」 これが記念すべき最初の会話だ。 ＃今夜のベルクロR18

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不思議を通り越して不可解、というのが、彼女に対する第一印象だった。なぜなら周囲ではベルファストと主君の例に漏れず、見るからに高貴な出であることが身のこなしからも明らかな淑女たちが家紋の入った高級車から、メイドを何人も使って家財道具を運ばせているのだから。 ＃今夜のベルクロR18

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そんな状況で従者も連れず、男のような格好で仕事中のハウスメードに話しかけるなど、どこからどう見たって不審者以外の何者でもない。 ああ、なるほど。大陸帰りの成金の娘か何かだな。ベルファストはそう見当をつけた。ならば会話で下手を打っても特に処罰なども下るまい。 ＃今夜のベルクロR18

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そんな打算に加えて、初めて目にした成金という異質な存在への興味心に負け、ベルファストはつい、更なる会話の口火を切ってしまった。今にして思えばこのときの会話が二人の関係全てにおいての始まりだったようにも思う。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

「荷物はそれだけですか？　使用人はいまいずこに？」 ベルファストがそう問いかけると、寄宿舎の玄関前に設えられた花壇から瑞々しい色香を放つ花々や芝生をもの珍しそうに眺めていた彼女は、これまた人懐っこそうな、子供のような目でこう答えた。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

「使用人なんていないさ、今さっき港に着いて、まっすぐ向かってきたんだから」 と。 「でも、荷物を貴女様お一人で運ぶのは、その…私の目からしますと、いささか難しゅう思えるのですが」 「ああ、こいつが運んでくれたからな、面倒は無い」 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

彼女はそう言って、傍らに立っていた馬の手綱を嬉しそうに引いた。 「父上からの進学祝いでな、一緒に船で大西洋を渡った仲だ！」 そういう割には心底馬が嫌がっているように見えるのは、ベルファストの気のせいだろうか。恐らくは渡航前に急に買ってプレゼントされたのだろう。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

里子に出されたかと思えばいきなりクレーンで吊られ、ホワイトスターだかハンブルク・アメリカ汽船だかの船の船倉に繋がれ、冬の荒れ模様から未だ回復しきっていない大西洋で船酔いに苦しめられながら、ようやく港についたかと思えば懐いてもいない飼い主に荷を運ばせられる。 ＃今夜のベルクロR18

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ベルファストはこの、てっきりどこかの爵位持ちの家から逃げ出してきたかとばかりに思っていた、会った事も無かった馬に心の底から同情した。 というか、この成金女性はトランクを手に馬を引き連れたまま、これからの入校式に臨もうとしていたのか。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

ベルファストは呆れて物が言えなくなるであろう不穏な予感に先んじて、馬を繋ぐ厩の場所と入校式まであまり時間は残されていないこと、もしも自分の仕事が終わってまだ荷物運びに手間取っているようなら彼女が直々に主君に頼めば手助けができるかもしれない旨、足早に伝えた。 ＃今夜のベルクロR18

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「おお、そうか！！ それは助かる、いやありがとう！！」 彼女はそれを大層な厚意だと感じたらしく、勝手に握ってきた手を何度もぶんぶんと上下へ振りながら、また子供のような目で礼を述べた。時間がないという話はどうやらあまり頭に入っていなかったらしい。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか、そんな疑念を抱きつつもベルファストは、自らを呼ぶ主君の声に彼女を後に残して宿舎への階段を上った。 ＃今夜のベルクロR18

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このときの彼女が、後に正規空母アークロイヤルとなったその人である。 そんな彼女と自分がこれから、規律厳しい士官学校、パブリックスクールの暮らしの中で身分違いの恋に落ちることになろうとは、そのときのベルファストは知る由も無かった。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

英国では５歳から１１歳までの初等教育と、１１歳から１６歳ないし１８歳までの中等度教育が義務教育として定められている。ベルファストたちが入校したのは１１歳から１８歳までの女性を教育対象にした幼年仕官学校である。 ＃今夜のベルクロR18

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学校の教育期間は七年間、その後の二年間は士官候補生だけを対象にした軍の短期大学で学び、更に尾正規の海軍士官学校への途中編入を経て、晴れて艤装を身につけ戦う洋上歩兵としての任官が決まる。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

幼年士官学校の暮らしそのものは、おおむねパブリックスクールと言ってしまえば一言で終わる性質のものである。すなわち、全寮制で全ての学生は古城のようなレンガ造りの寄宿舎に寝泊まり、食事は全て食堂で全校生徒が一堂に集まって取る。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

教育カリキュラムは義務教育課程なだけに基本的な学校と変わりは無いが、それに加えて軍事学に関する単位と訓練時間を果たす義務が付け加えられているのは特筆すべき点と言える。だがそれら以上にこの学校には、根本的に異質な特質が存在した。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

それはこの学校があらゆる家柄・生い立ちの者が一堂に会し集団生活を送るという、この国始まって以来類を見ない組織であることだ。 鉄血公国の叛乱により世界大戦すら危惧された数年前の緊張、それがデタントで崩れたことで、当事の国と軍は大幅な緊縮を余儀なくされつつあった。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

軍が大量に調達する軍備品の特需だけを頼りに栄えていた経済体制は一挙に崩れ、それに加えて軍から帰った予備役兵も仕事にあぶれたため町には失業者が溢れ返っていた。鉄血やユニオンに造船や海運のシェアを奪われたことで物流経済が機能を失しつつあったのもそれを加速させた。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

無論それは軍隊帰りの男性に限らず、後方要員の補充兵として士官学校や兵学校への入学が内定していた良家の息女や貧困層の姉妹たちも、容赦なくデフレの波にさらわれることになった。結果流れ着いたのがこの、軍が救済手段として用意した女性限定の幼年士官学校だ。 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

幸い、軍には良い口実があった。デタント前の冷戦期に軍事にまつわる技術開発に多大な国費を投じた甲斐あって、女性のみが扱うことのできる洋上歩行戦闘デバイスの開発に成功していたのだ。それを扱う者を一手に集めて管理し、陸海軍とは独立した部隊として組織するというのが、 ＃今夜のベルクロR18

深海さかな @dzurablk_kai

彼らの掲げたお題目であった。 無論、彼女たちの親は娘の食い扶持が守れ自分達にとっても口減らしになるばかりか、軍から俸給すら受けとることのできるこの制度に、喜んで娘を入校させた。その結果生じたのが、王家の家系から貧民窟の物乞いまでもが一堂に会する幼年仕官学校だ。 ＃今夜のベルクロR18