【竹の子書房】設楽土筆単著「真理の小鳥」
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shitaratsukushi
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ある小さな国にとてもかわいらしい王子が生まれました。 待ちに待った王子の誕生に国を挙げて三日三晩お祝いしていると、パーティに招待されていなかった魔女がお城にやってきました。
2011-04-14 09:22:23
とても力の強い魔女でしたので王も后も心の底から震え上がりましたが、魔女は王子に金色のからくり仕掛けの小鳥をお祝いに贈りました。 魔女はその小鳥を「真理を告げる小鳥」だと教えてくれました。その小鳥の言うとおりにしていれば必ずこの小さな国は幸せになるだろうと。
2011-04-14 09:23:13
それからずーっと、小鳥は王子の宝物になりました。 王子は自分ではわからないことがあると、真理の小鳥に訊ねました。 「厩番の子と仲良くなったよ、けれど、彼をお城には入れてはいけないんだ、友達なのにどうしていけないの」 小鳥は答えました。
2011-04-14 09:23:24
「王子様はお城に住んでいます。厩番の子供はお城の外に住んでいます。友達ならばお城の外で仲良く遊べばいいのです」 その答えのおかげで、王子はその友達の厩番の子供と森や野原で遊んで、いつのまにか遊ばなくなるまで仲良しでした。 三行改行
2011-04-14 09:24:00
王子が大きくなって父君の仕事を傍で見るようになると、またいろんな疑問が湧き出てきました。 「なぜ国民は税金を払わなければならないの」 小鳥は答えました。 「王様が国民を守り、幸せにするために必要なのです」 「王は税金払わなくていいの」
2011-04-14 09:24:18
「王様は敵から国を守るためにお金の代わりにいつでもその命を国のために捧げているのです」 「では、僕もいつか命を捧げるの」 「そういうときが来れば」 「どうすればそんなことが起きなくてすむの」 小鳥は言いました。
2011-04-14 09:24:30
「隣の強い国の美しいお姫様と結婚するのです。そうすれば国は強くなって、国民を守ることが出来るのです」 「もっと強い国が攻めてきたらどうするの」 「大丈夫ですよ、その国のお姫様と結婚すればいいのです」 三行改行
2011-04-14 09:24:47
王子様がもう少し大きくなると、父君はまつりごとの相談をするようになりました。その度に王子は真理の小鳥から聞いた言葉をそのまま父君に伝えました。 そのおかげで国は前よりも豊かになってみんなが幸せでした。 三行改行
2011-04-14 09:25:01
王子は久しぶりにお城が抜け出して野原に遊びに行きました。最近はお城のなかが退屈で何だか狭く感じるようになったからでした。小鳥にそのことを訊ねると、「王子様は大人になったのです。そろそろ王位を継ぐときが来たのです」と答えました。
2011-04-14 09:25:17
けれども父君はまだ若いし、まだ自分が王にならなくても良い気がしていました。けれど真理の小鳥は「真理」だけを語るのですから言うとおりにすればみんなが幸せになるのはわかっていました。 三行改行
2011-04-14 09:25:32
野原は小さなころと変わらず、広々としていて、所々に背の低いベリーが茂っています。背の高い木は森のほうにかたまっていて、王子は森へは遊びの狩りでしか出掛けたことがありませんでした。
2011-04-14 09:25:57
子供のころ、厩番の子供がいつまで待っても来ないので、王子は悲しい気持ちになったことを思い出しました。そのとき小鳥は、「厩番の子供は王子様より先に大人になったのです」と答えたのでした。 野原は子供のころとちっとも変わっていませんでした。空もちっとも変わっていません。
2011-04-14 09:26:11
真っ青で所々に濃淡があって白い薄絹のような雲が浮いています。 野原の先の急な斜面からは高いお城の尖塔とごちゃごちゃした町の風景が見下ろせました。活気があって幸福そうで全てがなんでもないことの様に感じられました。
2011-04-14 09:26:24
「なぜ、私はここに独りきりでいるのだろう」と王子がつぶやくと、小鳥は、「お隣に美しいお姫様がおられないからです」と答えました。 「なぜ、お姫様でなければならないのだろう」 「それは、あなたが王子様で、相手がお姫様でなければこの国が幸せになれないからです」
2011-04-14 09:26:34
王子はぼんやりと向きを変え森へ入っていきました。まだ太陽は空の上にあったので、森のなかにまで太陽の光が射しこんでいました。 いつも馬に乗って犬の姿ばかりに気を取られていたので、森をこうしてじっくりと観察するのは初めてでした。
2011-04-14 09:26:52
森にはいろんな匂いや気配が潜んでいて、物音が王子の見えない場所から絶えずしていました。太陽に照らされた葉っぱはきらきら光っていたし、茂みの下のほうにはまだ朝露が残っていて小さな真珠の玉のようでした。
2011-04-14 09:27:04
王子はどんどん森の奥に入っていきました。かわいらしい小鳥のさえずりが聞こえてきます。さくさくと小さな動物が茂みを掻き分ける音がします。真昼の森は平和そのものでした。 いつも王子が狩をするときに森はこんなふうに平和であったでしょうか。
2011-04-14 09:27:14
牙をむいた犬たちが茂みを踏みしだいて飛び跳ねて逃げ惑うしかやいのししを追い詰めていき、王子が一番矢を動物の腹に突き立て、家来が手槍で動物の首を刺して、朗らかに、「大手柄ですなぁ」と誉めそやすのでした。そして、お城では王子が狩った動物でご馳走が作られ食卓をにぎわしたものでした。
2011-04-14 09:27:23
森の奥に突き進んで行くと、静かな空き地がありました。小さな涌き水をたたえた泉と細いせせらぎ。ベリーの茂みに囲まれた奥に小さな小屋が一軒建っていました。太い古い木を組み合わせた粗末な小屋でした。 王子はお腹が空いているのに気づいて、迷いもなくその小屋の扉を叩きました。
2011-04-14 09:27:34
中からか細い娘の声がしました。 「申し訳ありませんが、中で休ませて頂けませんか」 「どなたかもわからないのに、中に入れろとおっしゃいますか」と声は答えました。 「私はこの国の王子です」 「ではなおさら中へは入れられませんが、外になっている果物や水を好きなだけお食べなさい」
2011-04-14 09:27:46
「ありがとう」 王子は木の根元に腰を下ろして木の実を食べて水を飲みました。そして、日が傾きかけているのに気づいてお城へ帰っていきました。 三行改行
2011-04-14 09:28:01
お城に帰っても王子はあの小屋のなかの娘のことが気になって仕方がありませんでした。 それで、また森に出掛けて行きました。 はたして小屋は前のとおりに建っていました。 「こんにちは、昨日の王子です。また木の実を食べても良いですか」 なかの声が答えました。
2011-04-14 09:28:24
「その木の実はずっと昔から生えているもの。あたしのものではないのです。だから、あなたはあたしに許しを得ることなどないのです」 「では中に入れてください。あなたと話がしたいのです」 「王子だといわれてもあたしはあなたがどんな人間かもわからない。
2011-04-14 09:28:39
それなのに、王子だと言われて簡単に扉を開けることなど出来ません」 「信じてくれないんですか」 「だってあなたのことなんかちっとも知らないんですから」 王子は娘の言うことは最もだと思い、その日は帰りました。 三行改行
2011-04-14 09:28:54