突発現パロSS、第十七話

それもう書いてた、もう書いてた……見逃して…… ※リンク先はR18なので、年齢の達していない方もしくは見たくない方はクリックしないでね
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

なんでもない朝。 大井が出社すると、自分の席には北上がいた。 「大井っち、おはよう。急で悪いんだけど、会議室来て」 「は、はい」 朝一番に北上に会えて気分が明るくなったが、暗い顔をしているのに気づいて、大井は何かあったのかと心配になった。

2018-06-16 16:06:16
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「大井っち、今までごめんね」 部屋に入った直後、あまりにも突然で、何を謝られたのか分からなかった。 「今までつらい思いさせてたんだなってやっと気づけたんだ」 「何のお話ですか」 「だからもう……あたしに好きって言わなくても大丈夫だよ」 大井の足元が揺らぐ。

2018-06-16 16:08:18
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「北上さんは勘違いされてます。私は本気であなたを愛してる」 「チビのあたしが大井っちを置いてったせいで、そうさせちゃったんだよ……」 「ですから」 だがどう説明しても、罪悪感と恋心が相容れる事は無かった。 「とにかく謝らせてほしかったんだ」 そう言い、北上は会議室を出ていった。 ───

2018-06-16 16:12:00
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二週間ほどの訓練を終えて鹿島と香取が見たのは、陰鬱とした表情の大井だった。 「お久しぶりです、先輩」 「ああ。二人とも、訓練お疲れさま」 「大井さん、目のクマが目立ちますが……きちんと休養されていますか?」 「大丈夫」 もう一度大丈夫と呟くが、とてもそうは見えなかった。

2018-06-16 16:17:32
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昼過ぎ、ちょうど訪ねてきた球磨は、机に伏せる大井を見るなり鹿島に頼みごとをした。 「悪いんだけど、連れて帰ってもらえるクマ?こんなんでよく会社まで来たクマ」 そういう球磨もどことなく調子が悪そうに見える。 「社用車を貸して頂ければ、私が送っていきます」 「香取姉、免許持ってたんだね」

2018-06-16 16:20:20
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「今は北上がいるからうちは駄目クマ、かといって一人にするのは」 短い思案のあと、球磨は鹿島を指さした。 「急で悪いけど、今日は大井の面倒みてやってほしいクマ」 「わ、わかりました」 私情を挟んですまないクマと申し訳なさそうに謝る。 「二人は早退、香取は中抜けって事で。補填はするクマ」

2018-06-16 16:25:31
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香取は鹿島の家へ車を走らせる。何度か訪ねているので、道案内は不要だった。 手をひかれて車に乗せられるまで、大井は特に何も言わなかった。 「大井さん、これから鹿島の家で休んで頂きます」 「うん」 大井の弱々しい返事は、エンジンの音でかき消された。

2018-06-16 16:27:52
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鹿島宅に着き、大井と鹿島は車を降りた。 「ごめんなさいね、香取」 「気にしないでください」 「香取姉ありがとう、気を付けて戻ってね」 「鹿島こそ、大井さんをよろしくね」 意味深長な視線を投げて、香取は車で会社に戻っていった。

2018-06-16 16:30:08
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二人分のカバンを玄関に置いて、大井を中へ案内する。 座椅子を出して座らせたものの、風邪をひいているでも無し、世話といってもどうすればいいのやら。 「鹿島……ごめんなさい」 「先輩、謝らないでください……とにかく休みましょう」 ベッドで寝るよう言ってみるが、大井は座り込んだままだった。

2018-06-16 16:32:47
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「先輩?」 大井は座ったまま、既にすやすやと寝息をたてていた。 枕を床に下ろして、とりあえずそのまま横に寝かせる。 何か嫌な事があったのだろうか。寝顔からは悩みなど何も読み取れない。

2018-06-16 16:34:48
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せめて良い夢を見られるようにと頭をなでるが、そこで鹿島ははっとした。 正直この状況は緊張する。 不謹慎だと思いつつも、自分が彼女に恋をしている事を忘れてはいられなかった。 鹿島はそっと大井の手を握って、時間が経つにまかせた。

2018-06-16 16:37:06
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大井は手の熱さで目を覚ました。 視界に入る内装は、自室のものではない。全体的にシンプルにまとまった中、ほこりをかぶった酒瓶だけが異彩を放っている。 「先輩、起きましたか」 声の主でようやくここが鹿島の自宅である事を理解した。 「まだ寝ますか?」 起き上がり、ぼんやりと鹿島を見つめる。

2018-06-16 16:42:10
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「……ねえ鹿島、あれ飲まないの?」 「あの日本酒ですか?私あんまりお酒は……」 あの酒は以前飛龍たちにおつまみをもらった日、なんとなく買ったものだ。 結局飲まずに今まで置きっぱなしになっている。 「少しもらってもいい?」 「先にお水を飲みませんか、それからなら良いです」

2018-06-16 16:46:55
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水を飲んだ後、酒瓶を開ける。この部屋にお猪口など無いので、適当なマグカップに注いだ。 「先輩はお酒好きなんですか」 「全然」 首をかしげる鹿島をよそに、大井はマグカップを呷る。 舌が痺れ、脳が飲み込むなと警告を出す。それらを我慢して一口分飲み下した。

2018-06-16 16:50:58
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「だ、大丈夫ですか」 よほど酷い顔をしたのか、鹿島は大井の腕に手を添えた。 「……大丈夫じゃないわ」 大井は甘えるように彼女の肩に頭をのせた。顔が近い。 「あっ、あの、寝るならベッドがありますから」 上擦った声で鹿島は動悸を隠そうとする。

2018-06-16 16:55:41
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大井は黙ったまま、鹿島の腰に手を回す。それを鹿島は弱い力で押しとどめる。 「せ、先輩は他に好きな方がいるんですよね、こんな事」 「鹿島、私に疲れたら来てって言った」 ぐっと言葉に詰まる。 彼女がそれ以上抵抗する事はなかった。

2018-06-16 16:58:14
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少しだけ減った酒瓶が机にのっている。 先に風呂を借りた大井は、所在なく鹿島が上がってくるのを待っていた。 ふと、机の下にノートを見つける。雑記と書かれたそれは、まだ新品らしさを保っていた。 大井は何気なくそれを開く。

2018-06-16 17:05:56
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開いたページには絵が描いてあった。 公園に小さな子供が三人。子供の絵は上手くもなく下手でもない、コメントに困るものだった。だがそちらよりも、大井はその公園の図に覚えがあった。 「そうだ、この入り口から多摩姉さんが迎えに」 「あっ、大井先輩……それは」

2018-06-16 17:08:44
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顔を赤くした鹿島は、今まで発揮したことの無いスピードで大井の手からノートを奪った。 大井は鹿島をまじまじと見る。ぼんやりとした記憶が像を結んでいく。 「……鹿島って、図が上手いのね」 何とは無しに描いた絵を図と呼ばれて、鹿島は少し複雑な気分になった。

2018-06-16 17:12:23
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「そういえば、また遊ぼうって約束してたわね」 思い出せたのか。既に期待すら忘れていた鹿島の目が潤む。 「あっ、ちょっと待って、なんで泣くの」 「だって、だってぇ……私、ずっとその約束を信じて今まで生きてきたんですから……」 立ち上がった大井は言葉をかけず、背中を撫でて鹿島を慰めた。

2018-06-16 17:20:22
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「……先輩を休ませるためにうちに上がってもらったのに、これじゃ逆です」 「十分休めたし、もう元気も出たわ。拒まないでくれてありがとう」 「どうして元気が無かったのか、きいてもいいですか?」 「……振られた、みたいなものかな……そんなことで迷惑かけて本当に申し訳ない限りだけど」

2018-06-16 17:28:20
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それでどれだけ悲しい思いをしたか想像して、鹿島の心も痛む。 「代わりに私じゃダメですか、とか……ああ、やっぱり今のは聞かなかったことにしてください」 つい口を衝いて言ってしまったが、最低だ。 「傷心の私には中々魅力的な提案だけどね……整理する時間が欲しいわ、いろいろと」

2018-06-16 17:36:18
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大井はもう大丈夫と言って、自宅に戻ろうとした。 「待ってください、私今日は先輩のお世話をするよう指示されていますから」 「姉さんには連絡しとく」 「私がします、事後報告じゃ怒られちゃうかもですし」 「今日の鹿島つよい……」 それから鹿島は球磨へ連絡し、大井を泊めろという指示を貰った。

2018-06-16 17:44:21