15
nao @parasite2006
福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目では、116例が悪性または悪性疑いと診断され、そのうち102例が手術を受けました。このうち手術で切除された腫瘍組織の遺伝子検査に同意した68例について癌遺伝子の検討が行われ、結果の一部は第57回日本甲状腺学会で発表されました(続く)togetter.com/li/744279
ツイートまとめ 鈴木眞一氏の遺伝子検査発表抄録 まとめました。 5069 pv 120 1 user 7
nao @parasite2006
(続き)甲状腺検査1巡目の遺伝子検査結果は、2報の英語論文として2015年nature.com/articles/srep1… と2017年liebertpub.com/doi/pdf/10.108… に公表(どちらも無料)。ようやく時間ができたので、2報の内容を関連論文と合わせて読んでみました。

予備知識

nao @parasite2006
甲状腺の細胞が腫瘍になる時に起こる遺伝子の変異には、再構成(DNAの切断と再結合)点突然変異(DNAが複製される際のコピーミスの修正漏れ)の2種類があります。図は甲状腺の腫瘍のうちで最も多くみられる乳頭癌を起こす代表的な遺伝子変異を示したものです。(続く) pic.twitter.com/xLnVInqekV
拡大
nao @parasite2006
twitter.com/parasite2006/s… (続き)点突然変異(複製の際のコピーミスの修正漏れ)が放射線被曝線量の大小にかかわりなくほぼ一定の頻度で発生するのに対し、再構成(DNAの切断と再結合)は被曝線量が大きくなるほど頻繁に発生します。また修復は後者の方が難しいのは言うまでもないことです。
nao @parasite2006
甲状腺腫瘍には濾胞上皮細胞(甲状腺ホルモンを合成)由来とC細胞(カルシトニンを合成)由来のものがあります。前者には良性の濾胞腺腫から非常に悪性度が高い未分化癌(平均余命数カ月)までさまざまな種類があり、それぞれ原因となる遺伝子変異が異なります。赤枠は甲状腺検査1巡目で検出されたもの pic.twitter.com/HXAdeH6KPf
拡大
nao @parasite2006
(余談ながら遺伝子変異の名前に斜線が入っていないものは点突然変異、斜線があるものは切断再結合です。切断後再結合された2つの遺伝子の名前を斜線の前後に書いてあるわけです)twitter.com/parasite2006/s…
nao @parasite2006
甲状腺の濾胞上皮細胞(甲状腺ホルモンを合成)から生じる腫瘍には高分化癌(濾胞癌と乳頭癌)と未分化癌、さらにその中間の低分化癌(高分化型と未分化型の細胞のミックス)があり、それぞれ異なる遺伝子変異が関係します。細胞増殖が加速されたり、細胞増殖のブレーキが壊れたりすると腫瘍化が起こる pic.twitter.com/4SSJEXxrmr
拡大

本編ここから

nao @parasite2006
2015年と2017年の2報の論文に報告された福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目の遺伝子検査結果まとめ。組織型は68例中67例が甲状腺乳頭癌、1例が低分化型甲状腺癌。遺伝子変異で最も多かったのが通常型乳頭癌に特徴的な点突然変異BRAF V600Eで、チェルノブイリ事故後に多かった充実型乳頭癌は1例だけ。 pic.twitter.com/Eplox3vwCM
拡大

(↑濾胞型乳頭癌の2例は上の表ではどれにあたるかというと、2017年論文でも遺伝子型が未同定のまま残った4例に含まれている可能性が一番高いとまとめ主は考えるものです。その理由は、濾胞型乳頭癌と関連するとされる3種類の遺伝子変異のうち、RAS遺伝子の点突然変異は2015年論文で調べられたものの検出されず、残る再構成変異PAX8/PPARγと点突然変異BRAF K601E(通常型乳頭癌を生じるBRAF V600Eとはコピーミスの場所が違う)はまだ調べられていないからです)

nao @parasite2006
twitter.com/parasite2006/s… 組織型が篩状型乳頭癌だった4例は、遺伝性消化器疾患(家族性大腸ポリポーシス)に合併する特殊な甲状腺乳頭癌と考えられ(診断確定には遺伝子検査で癌抑制遺伝子APCの点突然変異の確認が必要)、低分化癌1例とともに原論文表3の比較から除外
nao @parasite2006
2015年論文では、篩状型乳頭癌4例と低分化癌1例を除外した乳頭癌63例を通常型乳頭癌に特徴的な点突然変異BRAF V600Eを持つ43例と再構成変異または未知変異を持つ20例に分け比較。前者は後者と比べて1) 手術時年齢が高い2) 腫瘍径が小さい3) 微小癌の割合が多い pic.twitter.com/385U0eIRmz
拡大

「微小癌」とは、直径1 cm以下の腫瘍をさします。2016年1月に公表された米国甲状腺学会の成人用の「甲状腺結節と甲状腺分化癌患者の取り扱いガイドライン』2015年版(英語版)
https://www.liebertpub.com/doi/pdf/10.1089/thy.2015.0020
p.10には、「原則として直径1 cmを超える結節だけを評価すべし。1 cm未満の結節の診断治療は益より害が大きい」とあります。また米国甲状腺学会が2015年にはじめて作成した小児専用の甲状腺癌治療ガイドライン(英語版)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4854274/pdf/thy.2014.0460.pdf
では、細胞診について成人と同様「1cm以下の結節では,例外(悪性所見が高い場合のみ)を除いて, 吸引針細胞診を行わない」のを原則としています。

余談ながら、2015年論文が事故時年齢の比較をやっておいてくれなかったのは返すがえすも残念です。もしやってあれば、あとでご紹介するチェルノブイリ事故後のウクライナの子供(事故時18歳未満)を事故の12年後以降2年おきに追跡調査した米国とウクライナの共同研究の論文のデータと即比較できたのですが。

関連論文その1:Yamashitaら(2017)

nao @parasite2006
福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目(無症状の集団を超音波で悉皆検査)で見つかって手術された甲状腺乳頭癌63例(遺伝性消化器疾患の合併症として発生した4例を除く)中の遺伝子変異の分布(青枠内)を、日米の成人甲状腺乳頭癌患者&チェルノブイリ事故後のウクライナの小児甲状腺癌患者と比較 pic.twitter.com/XxAvsRC1Er
拡大
nao @parasite2006
pic.twitter.com/XxAvsRC1Er 余談ながらこの図を掲載している論文liebertpub.com/doi/pdf/10.108… の著者は、図のそれぞれの円グラフの元になったデータの出典を図の脚注に書いておいてくれなかったので、探すのに一苦労しました。(続く)
拡大
nao @parasite2006
pic.twitter.com/XxAvsRC1Er (続き)日本の成人甲状腺乳頭癌患者のデータは神戸の隈病院(西日本を代表する甲状腺専門病院)と長崎大学医学部その他の共同研究。論文naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstre… は長崎大学が無料公開。ただし点突然変異の解析結果までしかなく、再構成の解析結果の公表先は未確認(続く)
拡大
nao @parasite2006
pic.twitter.com/XxAvsRC1Er(続き)米国の成人甲状腺乳頭癌患者のデータcell.com/cell/pdf/S0092… は、米国NIHによる癌ゲノムプロジェクトの成果。チェルノブイリ事故後のウクライナの小児甲状腺乳頭癌患者のデータncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/P… は、ロンドンの「チェルノブイリ組織バンク」の検体を解析(続く
拡大
nao @parasite2006
pic.twitter.com/XxAvsRC1Er (続き)この図のチェルノブイリ事故後のウクライナの小児甲状腺癌患者53例中、左の26例は事故当時10歳未満(うち24例は5歳未満)でチェルノブイリ原発周辺の州(キエフ、ジトミール、チェルニーゴフ、ロブノ、チェルカシー)に居住。右の27例は同じ地域に居住し事故後に出生
拡大

この53例の手術日、手術時年齢、性別、居住地、腫瘍直径の情報は、原論文の補足情報ファイル(無料)
https://dm5migu4zj3pb.cloudfront.net/manuscripts/69000/69766/JCI69766sd.pdf
のp.8とp.9でご覧いただけます。

関連論文2:Efanovら(2018)

nao @parasite2006
ここで2018年4月に正式公表されたばかりの(プレプリント公表はもっと早かった)チェルノブイリ事故後のウクライナの小児甲状腺癌の遺伝子変異に甲状腺被曝線量がどのように影響したかを検討した論文をご紹介します。academic.oup.com/jnci/article-a… (続く)
nao @parasite2006
この論文academic.oup.com/jnci/article-a… は1998年から継続中の米国とウクライナの共同研究プロジェクトの成果。 対象65例はチェルノブイリ事故当時18歳未満で原発周辺の3州に居住し、1998年(事故12年後)から2008年まで2年間隔のスクリーニングによる経過観察中に甲状腺癌と診断され手術を受けた人達です。 pic.twitter.com/DDB671Z2Je
拡大
残りを読む(25)

コメント

miesizu @miesizu 2018年10月4日
2次調査の結果を眺めると避難地区の癌発見率高そうに見えます(3次調査でも多いけれど数が少ないので有意差なさそう)。被曝影響の傾向があるので2次調査の公開が遅いとうがった見方もできますが、被曝影響があろうがなかろうが早く結果は公表して欲しいですね。
nao @parasite2006 2018年10月4日
全くです。2巡目の結果は2017年6月30日現在(1次検査のスケジュールが2016年3月末で完了してから1年3ヶ月後)の分を2017年10月23日に公表済みなのですからhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238768.pdf とうの昔に統計家が仕事をする段階に入っているはず。
nao @parasite2006 2018年10月4日
余談ながら、1巡目の遺伝子検査結果の論文2報(Mitsutake et al. 2015; Iyama et al., 2017)はなぜかどちらも福島県立医大放射線医学県民健康管理センターHPの論文掲載情報コーナー(英語版、日本語版とも)に出ていないのです。これは県民健康調査の関連論文ではないとでもいうのでしょうか?