突発現パロSS、第十八話

鹿島と暁と響と妖精さんレストラン
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

週末、鹿島は暁にチャットを送った。 夕張のように機械で知ったわけでもなく、挙動で鹿島が大井を好いていると見抜いた彼女たちと、話がしてみたかった。 「家に招くのは今の時代好ましくないし、喫茶店かレストランかなぁ」 行きたいお店があったらそこでと書き添えて、暁のアカウントへ送信した。

2018-06-16 20:16:24
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翌日、学校近くのファミリーレストランで三人は席についていた。 「来てくれてありがとう、暁さん響さん」 「お招き感謝するわ、レディとして。ごはん代に見合うだけのお話ができると良いんだけど」 「私はごはんにつられて来ただけだから、戦力としてはあてにしないでほしい」

2018-06-16 20:20:07
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「雷さんと電さんは」 「あの二人は塾。来たがってたけどね」 「なんでも夕張さんの行った大学に行ってみたいとか」 注文を取りに来た店員に、とりあえずドリンクバーを三つ頼む。 かしこまりましたと返ってきた瞬間、響はドリンクバーへ向かった。

2018-06-16 20:25:01
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「で、大井さんと何か進展はあったの?」 直球だ。あったと言いたいが、内容は話しづらい。 「えっと、気持ちは知ってもらって、ちょっといい雰囲気にはなれたかなーって」 「なにそのふわっとした説明、そんなんじゃダメよ」 響が毒々しい色のコップを三種類持って戻って来る。

2018-06-16 20:28:18
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「トマトジュースブレンド。これはコーラ、こっちはメロンソーダ、これが烏龍茶」 「響、あんたねぇ......」 「これは初手から中々ヘビーですね......」 「あ、ダメだったかな?なら全部私が飲むよ」 鹿島と暁が見守る中、響は普通の顔で飲み切って言い放った。 「うん、飲み物で遊ぶのはやめるよ」

2018-06-16 20:32:24
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「それで......えっと、私少しだけ大井さんに頼られました」 「分かんないけど......ま、言いづらいって事ね」 「大井さんって北上さんとは今どうなのかな」 鹿島は目を丸くした。 「北上さん?」 暁はまさかと思った。 「鹿島、もしかして大井さんが誰を好きかって、知らないわけじゃないわよね?」

2018-06-16 20:42:54
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「知らなかった......」 だが言われてみれば。前に北上と社内で会った日、大井の挙動はいつもと違っていた。 「先輩が好きになるんだからとても素敵な方なんだろうなって思って、それで終わってました。あのヒトかぁ」 「誰なのか気にならなかったの?呆れた」 「言葉も出ない」 鹿島も自分に驚いた。

2018-06-16 20:47:34
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響はメニューを広げて鹿島に渡し、自分も二枚目のメニュー表を開いた。 「きのこの森の妖精さんパスタ海鮮仕立て」 「決めるの早いわね。えぇと、卵王国のふわとろ妖精さんオムライス......何この店、妖精さんが料理つくってるの?」 呼んだ店員はきのこパスタとオムライスと復唱して戻って行った。

2018-06-16 20:54:06
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「鹿島、何も頼まなかったけど」 「えーと、私は決めるのに時間かかっちゃうので」 実際二人がメニューを決めるまでに鹿島がチェックできたのは、ライスは大中小があるという部分だけだった。 先輩が好きなのは北上さんだという情報が、頭の中をぐるぐる回っていた。

2018-06-16 20:56:16
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つまり、数日前に大井が消沈していた原因は北上という事だ。振られたみたいなもの、と言っていた。それ以上聞き出すことはできなかったが、翌日からは復調していたので、掘り返すまいと思っていた。 「難しい顔してるね。そんなに迷うなら私が決めてあげよう」 響は妖精さんおにぎりを指して注文した。

2018-06-16 21:04:34
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鹿島のおにぎりは暁たちのオムライスとパスタと一緒に運ばれてきた。 それぞれに料理が行き渡る。いただきますと言って暁たちはスプーンを手に取った。 「粉チーズで森を侵略しよう」 「うわぁきのこの森の妖精さんがかわいそう」 「このおにぎりの妖精さん要素ってなんだろう......」

2018-06-16 21:16:11
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「それで、鹿島は大井さんと付き合えそうなの?」 半分ほどオムライスを食べたところで、暁は口を開いた。 「わ、わかりません......でも付き合うって今とどう変わるんだろう......」 暁は勢いよくスプーンを置いた。 「まさか進むところまで進んでるの?」 「なんてことだ」 「ま、待って待って」

2018-06-16 21:20:11
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「でも、キスはまだ」 「キスはって事は他は済んでるの!?」 「暁、声が大きいよ」 鹿島は顔を真っ赤にしたまま固まった。 「あ、ごめん......デリカシーがなかったわね」 「でもその様子、図星みたいだね」 「もう聞かないわ、詳しい話聞きたいけど、それじゃ鹿島が犯罪者になっちゃうかもだし」

2018-06-16 21:27:16
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「鹿島って本当に嘘をつくのに向いてないね」 「響の厚顔さを分けてあげたら?」 「私は嘘はつかないよ、冗談を言うだけで」 「はいはい」 鹿島は水を飲んでどうにか落ち着く。 「ねえ鹿島、まだ頼んでいい?」 「あ、はい。好きなだけどうぞ」 「すみません、妖精さんのこんがり和牛ステーキひとつ」

2018-06-16 21:33:49
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「それにしても鹿島、少しは怒っていいのよ?」 「何にですか?」 「普通ならね、大人をからかうなって言うところだと思うのよねぇ」 「暁はよくそうやって怒られてる」 「鹿島、私たちのことあんまり子供扱いしないわよね」 球磨と違って、と付け加える。 「そう、かなぁ?」

2018-06-16 21:38:36
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「ま、実際暁たちは子供よ?どうあがいても大人を名乗れない事は理解してるの。でも鹿島は暁たちと話がしたいって、まるで対等な相手みたいに誘ってくれたじゃない」 「なんだか良い評価を頂いているけど、私は暁さんたちが子供だってちゃんと知ってますよ?」 「それと実際に子供扱いするのは別」

2018-06-16 21:44:59
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「球磨はね、最初から話を聞いてくれないの。そりゃ働ける年齢じゃないんだから暁達を突っぱねて当然だけど。何を言っても最後には子供だからダメって。だから私は球磨の希望通り子供として迷惑かけまくってる」 「測定してくれた時点でだいぶ譲歩してくれてるとは思うけどね」

2018-06-16 21:48:36
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暁が半ば感情的に語るのを聞きながら、鹿島はなんとなく以前読んだ本の内容を思い出した。思春期頃に受け答えする時には、脳の感情の領域が働いていると。それが大人になる頃には理性を司る部分に移行している、そんな話だ。 「球磨が子供扱いする間は、とことん子供でいさせてもらうんだから」

2018-06-16 21:54:03
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「鹿島はそういう扱いしないから、暁もマジメに話すわ」 「どおりで、海辺で会った時とは印象が違うわけですね」 「鹿島、暁はあっちが素だよ。今すごく背伸びしてる」 「もう響、余計なこと言わないの」 鹿島は二人を微笑ましく思いながら、目の前に置かれたステーキを響の前へ移動させた。

2018-06-16 21:57:59
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それから妖精さんと名のつくデザートをいくつか注文して、暁と響が学校での事を話すのを聞いていた。 その日その日に起きた出来事を屈託無く話す様子が、少し羨ましかった。 「ふぅ、おなかいっぱいだ」 「謎ジュースとパスタとステーキとデザートって食べすぎよ、夕飯までにお腹空かせなさいよ?」

2018-06-16 22:09:51
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「鹿島、本当に遠慮なく食べて悪いわね」 「いえ、時間をつくって来て頂いたんですから気にしないで」 「次は暁達がお小遣いを貯めて鹿島に奢るわ」 「暁、できない約束はするものじゃない。月500円で何が奢れるというんだ」 「大人になったら奢るから待っててね!!」

2018-06-16 22:14:19
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二人は鹿島にお礼を言ってレストランを後にした。充分距離が離れた頃に、暁は響を小突いた。 鹿島は少し休憩してから家に帰ろうと思っていた。ドリンクバーでコーヒーを注いで席に戻ると、なんとなく甘いものも欲しくなった。ケーキでも頼もうと店員を呼ぶと、聞き覚えのある声で返事があった。

2018-06-16 22:20:06
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「ご注文お決まりですか、お客様っ」 笑みを浮かべた顔で席まで来たのは、瑞鳳だった。 「さ、最初から......?」 「お客様がいらした時から瑞鳳でしたよ〜?」 「ぜ、全部聞いてました?」 「いや、忙しいので全部は。それにお店で聞いた事は聞かなかった事にしなきゃいけないですしぃ」

2018-06-16 22:24:08
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「それで、ご注文は?」 鹿島は適当なケーキを指差してお願いした。 「はいはい、妖精さん渾身の苺ショートケーキですねーかしこまりました♪」 それから小声で瑞鳳は囁く。 「鹿島、応援してるよ」 その一言で話を聞かれた恥ずかしさは消えて、鹿島は心強い気持ちになった。

2018-06-16 22:29:18