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まね @in_KabeWall
「北上さん、お話があります」 大井は遠征から戻った北上を捕まえて、彼女の目をまっすぐ見つめる。北上は屈託している事があるのか、斜めに視線を逸らした。 「私に少しだけ、お時間頂けませんか?」 「......仕方ないなぁ、少しだけだよ」
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二人は会社の外に出て、影になった場所に入った。涼しい風がよく通る。 先導していた大井はくるりと北上の方を向いて、笑顔を見せる。 「北上さん。ここで、あなたに知ってほしい事をお話しします」 「......うん」 「その後で一つだけ、北上さんに要求をします。それに返答を頂きたいんです」
まね @in_KabeWall
「北上さん、私は昔からあなたの事が好きです。きっかけは小さな頃の出来事かもしれない。でも今は理由なんてもう無いんです、ただ好きで好きで仕方ない。それはこれまでもこれからもきっと変わらない、いや、変えられません」 大井は深呼吸をする。 「北上さん。私と恋人になって頂けませんか?」
まね @in_KabeWall
北上はぎゅっと目を瞑って、再びゆっくりと開けた。 「恋人には、なれないよ」 「分かりました。理由を聞いても良いですか?」 「あたしは、大事な相手でも平気で酷い事するやつなんだよ。酷い事をしたって気づくのに、十年以上かかるようなやつなの。あたしはそれに耐えられない」
まね @in_KabeWall
「そう、ですか」 「ごめん、薄々気付いてたんだけどね、あたし結構自己中だね。いちばんつらい思いするのは大井っちのはずなのに、結局自分が傷付くのがいちばん嫌みたい」 「そういう所も好きです」 「あぁもう、早く諦めなよ」 「お返事、ありがとうございます」 大井は北上を社内に帰そうとする。
まね @in_KabeWall
大井は顔を伏せて北上の背中を押す。だが北上はその場を離れない。 「でも泣いてるコを放って戻るほど自己中でも無いんだよねー......いや逆に自己中かな?」 北上は大井を座らせて自分も隣に座る。 「あたしも泣きたい気分だけど我慢するね、今日はお姉ちゃんでいてあげよう」
まね @in_KabeWall
鹿島は二人の様子をいたたまれない気持ちで見ていた。 大井からは見ていて構わないと言われていたのだが、やっぱり見てはいけなかった気がする。大井が北上に告白した事の全てが鹿島の心に刺さってどうしようもない。 二人は座ったまま風に吹かれている。 鹿島はそっと、この場を立ち去った。
まね @in_KabeWall
鹿島が社内に戻る頃、会社の窓から大井と北上を見下ろす人物があった。 「あいつら勤務時間中に何やってんだクマ」 「まぁこれで何かしらの整理がつくにゃ、メンタルケアの時間って事でお咎めは無しにゃぁ」 「姉さん、甘すぎるぞ」 「うぷぷ、大井が北上といるもんだから機嫌悪いクマ」 「うるさい」
まね @in_KabeWall
鹿島は席に着き、香取に戻ったと伝えた。 二人の間には大井の分の空席がある。 「鹿島、何か冷たいものでも飲んだら?少し疲れてるみたい」 「うん、そうしようかな......好きなヒトの告白を見守るのって想像以上につらかった......」 座って一分と経たないうちに鹿島は立ち上がって休憩所へ向かった。
まね @in_KabeWall
自動販売機を眺めると、三分の一は既に透明シリーズに侵略されていた。鹿島がどれにしようか迷っているうちに、横から小銭を入れる手が伸びてきた。 「また会ったにゃ、調子はどうかにゃ?」 「多摩さん」 鹿島は場所を譲る。 「先日艦娘の訓練を終えたので、ようやくお仕事が始められそうです」
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「それは上々、自分のペースで頑張るにゃ」 「ありがとうございます」 多摩は鹿島の腕を引っ張って、適当なボタンを押させる。 ガコンと取り出し口に落ちてきたのは、透明なコーヒーだった。 多摩はあからさまにがっかりした。 「コーヒーか......あげるにゃ」 「えっ、すみません......」
まね @in_KabeWall
「初仕事ならやっぱり日帰りできるやつをオススメするにゃ、お魚採集とか。時々イルカが寄ってきたりもするにゃ」 「わぁ、素敵ですね」 多摩は鹿島の顔を覗き込む。 「ど、どうしました?」 「いやいや、顔色が悪く見えただけ、別に何でもないにゃ」 多摩は硬貨を取り出して、透明コーラを購入した。
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透明シリーズを買い支えるようにと鹿島に伝えて、多摩は上の階へ去った。 「じゃあ、香取姉のも何か買って戻ろうかな」 手に持っている透明コーヒーと同じものを購入する。少し思案して、透明ミルクティーも追加で買う。 抱えた三本のペットボトルは少し重たかった。
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鹿島は帰り際、ついに主の戻らなかった机を見た。小さなタオルの上に、すっかり常温に戻った透明ミルクティーが置かれている。 「香取姉、早く帰ろう」 「もう少し待って、あとはこの紙をしまうだけだから」 トントンと角を揃えてクリップで留めて引き出しにしまう。丁寧だなぁと鹿島は感心した。
まね @in_KabeWall
香取とは帰り道は逆方向だ。社内の席から分岐路までのわずかな時間で、二人は少しずつ同居の話を進めていた。 「やっぱり鹿島の家の方が良いかしら、コンビニ近いんでしょう?」 「でも駐車場は無いから借りないといけないよ」 「いっそ新しい所ね、週末不動産屋さんに行ってみない?」 「いいかも!」
まね @in_KabeWall
「週末なら鹿島のお仕事デビューも済んでるし何の憂いも無いわね」 「うっ、そうだよぉついに明後日」 鹿島は午後の間に球磨から渡されたリストの中から釣りの補助という仕事を見つけた。朝こそ早いものの、夕方には戻って来れる。 「大丈夫、相手は球磨さんの知り合いのはずだから」 「うん......」
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雑談のうちに、二人は別れ道に着く。 「じゃあ香取姉、また明日ね」 「ええ、気を付けて帰ってね。変なヒトについて行ってはダメよ」 「もう、香取姉もね!」 香取の背を見送って、ちらと来た道を振り返る。心の中で期待する影を探したが、そこにはやはり誰の姿も無かった。
まね @in_KabeWall
翌朝出社した鹿島は、大井の机からタオルとミルクティーが無くなっているのに気が付いた。どうやら持って帰ってもらえたらしい。 さて大井が来たらどんな顔をしていれば良いのか。昨日一晩考えて、鹿島は一つの答えを出していた。 よし、と彼女が決意を新たにした時、ちょうど大井と香取が入ってきた。
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鹿島は努めて普段通りの笑顔であいさつをする。 「おはようございます」 「おはよう鹿島」 「おはよう」 大井と香取のあいさつも普段通り。 「鹿島、明日艦娘としての初仕事だって?頑張ってね」 「あ、ありがとうございます」 少し身構えたが、大井に昨日の出来事を引きずっている様子は無かった。
まね @in_KabeWall
始業のチャイムが鳴る。 「大井先輩と香取ね......香取さんに訓練して頂いたんですから、自信を持って行けます」 「嬉しいけど恥ずかしいわ鹿島」 「どんな業務?」 「えっと、こちらです」 うまく説明する自信までは無かった鹿島は、球磨から渡されたリストと詳細が書かれた紙を見せた。
まね @in_KabeWall
「釣りの補助......あぁこのヒトか」 大井は和らいだ表情を見せた。鹿島はすかさずどきりとした。香取は思わず笑いを堪えた。 「何で最初から一人で行かせるんだろうと思ってたけど、安心した」 大井と香取は席に座る。 「そうだ、ミルクティー置いてくれてたけど、貰って良かったかしら?」 「はい」
まね @in_KabeWall
「ありがとう。タオルは乾いたら返すから」 大井は何か吹っ切れたような、自然な笑顔を見せた。 鹿島は昨日の事に言及していいのか悩んだが、既に始業時間だという事を思い出した。 「そうだ、業務前日の段取りは大井さんに教わるようにと」 「そうね、とりあえず十時くらいまでぼーっとするといいわ」
まね @in_KabeWall
「ぼ、ぼーっと?いいんですか?」 「前日にやる事は基本荷物の準備とクライアントへの連絡なんだけど......荷物が必要無いのよ、そのヒトのは」 そして連絡は十時頃にするのがベター。鹿島には累積した残務などもまだ無い。故に鹿島には今やる事が無い。 「何か手伝える事はありませんか?」
まね @in_KabeWall
特に無いと言われたので、鹿島はちょこんと座って室内を眺めた。 奥には定時連絡を受ける部屋のドアが見える。あそこに居たのが遠い昔の事のように思えた。 この部屋は全体的に空席が目立つ。三人並んで座っているなど、鹿島の所だけだった。皆艦娘業で出ているのだろう。
まね @in_KabeWall
それから十時になるまで、時折大井の方を見た。彼女はパソコンに向かって何かを入力したり、表の雛形のようなものを作成していた。 表情は真剣で、鹿島は思わずため息が漏れた。大井はそれを不満の表現と受け取ったのか、何も用意が無くてごめんなさいと謝った。鹿島は慌てて妙な口説き文句を口走る。
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