blue leaves

2
❥blue box @sweetblue818

・・blue leaves・・ 【1】 記憶をなくしたいと思ったことがありますか。 過去を忘れることができたら 本当に幸せになれると思いますか。

2018-03-07 14:15:38
❥blue box @sweetblue818

【2】 *** 「あの、この辺に移住者用の空き家ってありますか?」 畑作業中の男の人に尋ねる。 「体験移住に来たんです。確かこの辺だと思うんですが。」 男の人はパンパンと土を払いながら近づいてきた。 「それやったらこの道まっすぐ行ったとこにあるけど。自分、一人?」 「はい。」

2018-03-07 14:16:42
❥blue box @sweetblue818

【3】 「役場さん、送ってくれへんかったん?そんくらいのサービスついとるはずやけど。」 「わたしが断ったんです。歩きたくて。鍵はいただきました。」 「そぉか。けど、歩くってなったら結構あるで?もうちょい待っといてもらえたら、俺ついであるけど。」 ためらう様子もなく軽トラを指す。

2018-03-07 14:17:38
❥blue box @sweetblue818

【4】 「大丈夫です。ありがとうございました。」 できるだけ誰とも関わりたくなかった。

2018-03-07 14:17:55
❥blue box @sweetblue818

【5】 ** 目で追う男の人を無視して早足で歩く。早く一人になりたい。誰もいないところ。どこにいても一人なんだから、本当の意味で一人になりたい。 「ここ…」 どのくらい歩いただろう。民家というより小さなロッジ。外観はなんでもいい。ホテルにいるような生活をしたくて来たわけじゃない。

2018-03-07 14:19:19
❥blue box @sweetblue818

【6】 『誰にでもできる移住体験』 広告を見たのが1か月前。よほど借り手がなかったのか問い合わせると役場の人はとても丁寧に応対してくれた。期間を尋ねられて「できるだけ長く」と答えるととりわけ喜んでくれた。 「食料品などの日用品は週に一度お届けします。」 それだけで十分だった。

2018-03-07 14:20:35
❥blue box @sweetblue818

【7】 *** 「すんませぇーん!」 身の回りを片付けてぼんやりしていると外から大きな声が聞こえた。 「あ…、」 さっき道案内してくれた人。 「お、良かった。足ついとる。」 「え、」

2018-03-07 14:21:06
❥blue box @sweetblue818

【8】 「安否確認。こんな誰もおらん山奥に若いお姉さん一人で来るとかよほどのワケアリやろ。この辺で何かあったらますます人寄り付かんようになるで、ここでは止めてや?」 「ここでは、って。」 「あはっ。どう聞こえる?」 「…大丈夫です。そういうことしません。」 「安心した」

2018-03-07 14:21:43
❥blue box @sweetblue818

【9】 ムッとして答えたつもりがその人は笑顔のままだった。 「で、何ほしい?」 「え?」 「役場の人に聞いてへん?1週間に一回必要な物届けるって。さっきその話もしたかってんけどさっさと行ってまうし。来たばっかりで食料品とか何もないやろ。いるもんゆーて。俺、買うてくる。」

2018-03-07 14:22:57
❥blue box @sweetblue818

【10】 「あの…。」 「遠慮せんで。その分俺、役場さんにもろてるから。それに来てみてわかった思うけどこの辺何もないで。どこに行くにも車結構走らせなアカンし。」 確かにそれはわかった。 「…じゃあ、」 簡単な食材を頼む。

2018-03-07 14:23:47
❥blue box @sweetblue818

【11】 「了解。あ、俺“安巣”。“ヤスス”て言いにくいやろうから、“ヤス”でも“あんた”でも何でもええで。」 「…安巣さんですね。」 「やからぁ、」 「名前は大切です。わたしは、」 わたしの名前は…。 「あ、えーよ。俺は地の者やから一応名乗ったけど、自分は町の人やんか。

2018-03-07 14:25:01
❥blue box @sweetblue818

【12】 役場に登録しとるやろうし、俺にまで言わんでええわ。個人情報ってやつ。」 「、」 「んじゃまたあとで来るわ。それまで足つけとってなぁ。」 コトバの割に嫌味なく、のんびりした口調で言うと安巣さんはスタスタと帰っていった。 pic.twitter.com/Fofynr0z27

2018-03-07 14:26:09
拡大
❥blue box @sweetblue818

【13】 *** 夕方、買い物を終えた安巣さんが戻ってきた。 「お、約束守ってくれた。」 足…。 「、」 「はい、頼まれてた分。野菜は俺んちの畑で採れたもの。うまいで。」 「…ありがとうございます。」 「それから、自分ベジタリアン?」 「え?いえ…、」

2018-03-07 14:27:30
❥blue box @sweetblue818

【14】 「ほなこれ、差し入れ。卵と肉。自分ほっそいし、野菜だけじゃ体もたへんで。」 手に袋を押し付ける。 「んで、さっき渡しそびれてんけど。これ俺の携帯番号。なんかあったらかけてきて。」 「、」 「そんな顔せんでぇな。俺からはそっちの番号聞かへんよ。何かあったときって言うたろ。

2018-03-07 14:28:46
❥blue box @sweetblue818

【15】 非常用。この辺俺とじいさんくらいしか住んでへんから。」 無言でメモ紙を受け取る。 「あと何か質問ある?俺1週間後しかここ来ぉへんしそっちも一人になりたそうやし。聞きたいことあったら今答えるけど。」 「…この辺ってどんな人が住んでるんですか。」

2018-03-07 14:29:28
❥blue box @sweetblue818

【16】 「どんな?俺とさっき言うたキングってじいさんが俺の家から10分くらいのとこに一人。名前の由来は聞かんといて。若いころどーとか言うとったけどよぉわからへん。」 「…だけ?」 「せやで。ほかには?」 「…行ったらいけないとことかは?人が来るかもしれないとことか、

2018-03-07 14:30:56
❥blue box @sweetblue818

【17】 逆に絶対誰も来ないところとか、」 「自分やっぱり、」 足元に目を向ける。 「違います。あまり人に会いたくなくて。一人で散歩できるようなとこないかなって。」 「あぁ、それやったら近くにきれいな小川あるで。あそこやったら危険な場所でもないし人も来ぉへん。案内する。行こ。」

2018-03-07 14:31:57
❥blue box @sweetblue818

【18】 ** 「キレイ…」 キラキラと光る水面。 「やろぉ。」 案内する、と言われて俯いたわたしが顔を上げたときには、安巣さんはもう先を歩いていた。 「ありがとうございました。」 「もう結構です。お帰りください、って顔やね(笑)」 相当無愛想な顔をしてるんだろう。

2018-03-07 14:33:09
❥blue box @sweetblue818

【19】 「暗くなる前に帰りやぁ?」 安巣さんは大して気にする様子もなく手を振った。

2018-03-07 14:33:26
❥blue box @sweetblue818

【20】 *** 誰もいない小川のそばで過ごすのがわたしの日課になった。本を読んだりぼんやりしたり。水の音が好き。川の流れる音も、雨も、波音も。人の声よりずっといい。水音を聞きながら目を閉じた。 (プップッ) クラクションの音。 「家におらんやったからぁ。」

2018-03-08 22:02:43
❥blue box @sweetblue818

【21】 車から降りてくる安巣さんから一歩離れる。 「ちゃうって。町に出んねん。追加で必要な物ないかなって聞きにきてんけど。」 屈託なく笑う安巣さんに首を横に振った。 「…、」 「何ですか。」 「ん?いや、」 「足ならついてます。」 「ぷはっ、ごめん。ほんじゃね。」

2018-03-08 22:05:19
❥blue box @sweetblue818

【22】 *** 「毎度ぉ!」 それから二日して安巣さんは頼んだものをまた持ってきてくれた。 「今日も川行くん?」 「、」 「あ、いや。行くんやったら早めに帰りや。雨降るで。」 空を見上げる。快晴だ。 「地のもん信じて。この辺山に囲まれとるから、天気変わりやすいねん。

2018-03-08 22:06:07
❥blue box @sweetblue818

【23】 今日は荒れる。気象庁より野生の勘。」 誰がチンパンジーやねん、一人で突っ込む安巣さん。 「懐中電灯備え付けてある思うけど、後で探してみて。なかったら連絡くれれば持っていくるわ。」 曖昧にうなづく。 「…食べとる?」 「え?」

2018-03-08 22:06:35
❥blue box @sweetblue818

【24】 「せっかくこんなとこ来とんのやし、うまいもん食って、おいしい空気吸って、いっぱい寝たらえーよ。」 「…。」 渦潮みたいな心のわたしにひきかえ、安巣さんは凪みたいな人だなって思った。 pic.twitter.com/vjGCa2V0sY

2018-03-08 22:08:11
拡大
❥blue box @sweetblue818

【25】 *** 安巣さんが言ったとおり、夕方から降り始めた雨は夜にはどしゃ降りになった。風もどんどん強くなる。町にいるときには聞き慣れない、木々が風にあおられる音。 (早めに寝よう) 雨音が好きなわたしもだんだん心細くなってきた。

2018-03-08 22:09:00
1 ・・ 11 次へ