突発現パロSS、エピローグ

おしまい
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

「業務番号930601、本日中に戻る予定です。はい、気をつけて帰りますね先輩」 鹿島は通信機をしまって、後ろを振り返る。これから海底を掘削するらしい船をここまで護衛してきた。後の航路はよその艦娘に引き継いで、鹿島達の業務は終わりだ。 「Hi, ニホンのコね?ここからは私達に任せて」

2018-06-23 17:26:58
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鹿島は交代の艦娘の名前を思い出す。 「サラトガさん、ですか」 「ええ、これからも時々会う事があるかもしれませんね、よろしく鹿島」 船の向こう側では、金髪で髪を二つに結った艦娘が香取に話しかけていた。 「ずいぶん慌ててますねぇ」 「ああ、Gambieはいつもあんな感じだから気にしないで」

2018-06-23 17:32:38
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少し話をした後、手を振って彼女達と別れた。 「日本語がすごく流暢だったね」 「私達も英語を話せるようになった方がいいかもねぇ」 家に帰るまでが遠足というが、業務の緊張から解放されて、雑談をせずにはいられなかった。 「香取姉、この後の事きいてる?」 「確か球磨さんが直接言うって」

2018-06-23 17:37:09
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夕暮れ時に鹿島達は戻った。 艤装を外して所定の位置に置く。 「はぁ、本格的にくるのはしばらく後だけど、やっぱり外した瞬間から疲れが出てくるわね」 「そうかなぁ、私はあんまり分からないかも」 「個人差があるものね......」 「お疲れクマー、思ってるより早く帰ってきたクマ」

2018-06-23 17:41:54
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歩いているとひょこりと球磨が顔を出した。 「晩は海岸で花火大会やるクマ、疲れてなければ参加していくといいクマ」 球磨は花火セットを両手に提げて、それじゃと去って行った。 「花火大会ね。鹿島、花火は好き?」 「うん、綺麗だもん。香取姉も花火大会いこ?」 「ふふ、じゃあ参加しましょうか」

2018-06-23 17:47:39
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「大井さんも居るといいわね」 「そ、そうだねっ」 未だに初々しい反応をする鹿島が可愛くて、つい一言付け加えてしまった。 「晩って何時くらいかな?」 「さぁ......19時くらいかしら?」 「報告書、それまでに書けるかな?」 「頑張ってみましょうか」 二人は会社に戻り、パソコンの電源を点けた。

2018-06-23 17:53:27
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二人が会社を出て海岸へと急ぐと、既に視界が賑やかだった。 薄暗い中で、手持ち花火を振り回す危険人物や、艤装を引っ張り出して海上でパフォーマンスをする艦娘もいた。 「花火って自分で持ち込むのかな?」 鹿島が見回すと、まっすぐこちらに向かってくる人物がいた。腕に花火を抱えているようだ。

2018-06-23 18:41:56
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「あら、木曾さん」 「持っていけ」 木曾は二人に適当な本数の花火を渡した。 「花火配ってるんですか?私もお手伝いします」 「いい、俺がやるから」 立ち去ろうとして、木曾は思い出したように鹿島の顔を覗き込む。 「......姉さんは渡さないぞ」 「え、姉さん......?」

2018-06-23 18:50:44
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そういえばいつだか、五人姉妹だと大井が言っていたか。球磨、多摩、北上、大井ときて、木曾には会った事が無かった。 「はい、頑張ってください」 「大した自信だな......」 敵意を込めたつもりが、あまりに気楽な返事で毒気を抜かれてしまった。 「まぁいい......ほら花火追加でやる、その辺で遊べ」

2018-06-23 18:57:15
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鹿島は嬉しそうに花火を抱えて場所を探す。香取は苦笑しながら、大井を探した。こういうイベントなら、鹿島も好きなヒトと楽しみたいだろう。 「鹿島、あそこに大井さんが」 「えっ本当!?」 既に色など分からない暗さなのに、鹿島の頰が紅潮したのが分かって、香取は微笑ましい気持ちになった。

2018-06-23 19:03:20
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鹿島の背中を押して大井の元へ行かせようとする。鹿島は香取の手を取ってから駆け出した。 「先輩!」 「二人とも、もう戻ってたのね。お疲れさま」 「大井さんもお疲れさまです」 大井の手にはライターがあった。 「火は私と多摩姉さんが管理してるわ、その辺に蝋燭も立ててあるから」

2018-06-23 19:13:07
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鹿島は手に持っていた花火に火を点けてもらう。 火薬が花火に変わるまでの数秒、鹿島は大井を見つめていた。 「ほら、香取も」 次に香取の花火にも火を点けたあと、大井は海の方を指差した。 「あっちに潜水艦が集合してるわよ」 「そ、そうですか。では少し顔を出してきます」 香取は少し慌てた。

2018-06-23 19:58:13
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「香取姉、潜水艦のヒトと仲良しなんだ」 「ええ、まあ」 鹿島は花火の先端をくるくると回している。 大井はくすぐったい気持ちで香取を見た。本当にこの姉妹は分かりやすいというか何というか。 「いってらっしゃーい」 火のついた花火は鹿島に渡して、香取は大井の指した海辺へ歩いていった。

2018-06-23 20:02:16
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「大井先輩は花火持たないんですか?少し私が代わりましょうか、火の係」 「大丈夫よ、私こういうの結構好きだから」 「なるほど」 鹿島は今の一言を深く胸に刻み込んだ。 「あ、使い切った花火はバケツに入れてね。蛍光緑で目立ってるでしょ?間違っても海に捨てないように」 「分かりました」

2018-06-23 20:06:21
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海辺には潜水艦の艦娘が数人と、大鯨がいた。 「あ、香取だ!」 「こんばんは、皆さんお疲れ様です」 「お久しぶりです香取さん」 「ええ本当に久しぶりですね、大鯨さんはいつも長く出られてて尊敬します」 「えへへ、照れちゃいます」 伊168たちは二人をにやにやと見ながら何事かを話していた。

2018-06-23 20:13:08
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「ゴーヤ達、花火貰ってくるね」 「あっ、もう夜だしチューくらいしてても見えないと思うわ」 「え、ぇえ!?」 「私達恋人ではありませんよ?」 「あぁ......行ってしまいましたね」 「彼女たちはいつもああいう感じですから、やっぱり香取さんが頑張らないと伝わらないと思います」 「うぅ......」

2018-06-23 20:17:55
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「その、ビジュアルがまずいじゃないですか、あのコと私だと」 「救えませんね」 「ああ、ひどい......」 香取の視線は去って行った一人に注がれていた。 「だいたいあのコはゴーヤさん大好きですから、望み薄いですよ?」 「もう見ているだけで良いです」 「ま、香取さんがそれで幸せならいいですが」

2018-06-23 20:24:10
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鹿島は花火をくるくると弄りながら、大井に話しかける。 「その、今日は北上さん、いらしてるんですか?」 「もちろん、球磨型総出だから。海にゴミ捨てるバカがいないか見張ってるわ」 鹿島はそうですかと微妙な面持ちで、近く人影を見た。 「あっ新人ちゃんだ!」 「もう新人じゃないと思うよ蒼龍」

2018-06-23 20:32:14
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「蒼龍さん飛龍さん、お久しぶりです」 「もー結局道場には来てくれなかったねー」 「す、すみません」 「弓が扱えるって最強なんだよ?相対性理論とか一瞬で理解できちゃうよ?やらない?」 「あからさまに怪しくなったわよ」 「弓道具が欲しくなったらお店紹介するからね」 「よしっ花火やろ花火」

2018-06-23 20:38:27
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蒼龍と飛龍は手近な蝋燭で花火を点けて走り出した。 「そういえば、あのお二人から頂いたもののお礼をまだ言ってませんでした」 「何貰ったの?」 「貝ひもとスルメ......」 「言わなくていいわよ、たぶん忘れてるから......それより鹿島、あなたも花火焚きまくってる皆の所へ行ってみたら?」

2018-06-23 20:42:33
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大井の示す方には、大量の花火を抱えてはしゃぐ皆がいた。鹿島が名前を知らないヒトも多くいる。 少しずつ使っていた花火の火は全て消え、近くのバケツに刺さっている。 「私、先輩のそばに居たいです。ダメでしょうか?」 「ダメでは無いけど」 これだけ人数がいる中で、鹿島と大井は二人きりだった。

2018-06-23 20:51:50
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那珂が海上で歌い始めた。姉の川内と神通は彼女の横で花火を持ってステージらしさを演出している。 「本当のアイドルみたいです」 「アイドル志望だけあるわよね」 那珂はレッスン代を稼ぎながら色々活動していると大井が教える。 「すごい、そういう生き方もあるんだ」 鹿島はいたく感心していた。

2018-06-23 21:03:40
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那珂の歌が終わり、彼女の後方から打ち上げ花火が始まった。 「沖から誰かが打ち上げてるんですか?」 「ええ、船もいらないし楽よね」 ふと上から何か話し声が聞こえる。 「......炭酸カルシウム、酸化銅」 「うんうん」 見上げると、建物の窓から夕張と由良が花火を見ていた。

2018-06-23 21:12:53
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「ねぇ、もう少し近くに行ってもいい?」 「ゆ、由良、もう充分密着してると思うけど」 「ふふ」 由良は幸せ一杯というように夕張を抱きしめた。顔が近い。 二人をぼんやりと見ていた鹿島は顔を赤くしてさっと下を向く。 「せ、先輩、花火見ましょう花火、何なら鹿島が打ち上がります」 「落ち着いて」

2018-06-23 21:17:22
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鹿島は強いて花火に集中するが、動悸が収まらない。 自分も大井に、彼女たちのようにできればと思う。今鹿島が大井に触れて、許されるだろうか? 「......隣に居るのが私で、すみません」 「どうしてそうなるのよ」 大井は火の消えた蝋燭に着火する。 今手持ち花火で遊ぶ者は少ないが、なんとなくだ。

2018-06-23 21:29:34