終末の汀(みぎわ)のネクロテック

サルベージ
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帽子男 @alkali_acid

ネクロテック。何種類か書いてみようと思うことはあるんだけれども、やはり魂を持たない傀儡を物語の軸に据えることができず、屍体にぬくもりをあたえてしまうことになり、それは腐敗を招くという挫折がある

2017-04-17 00:12:54
帽子男 @alkali_acid

ひとつ考えたのが、ある汀(みぎわ)をめぐる物語で、どこまでも海岸が続く細長い土地だと思って欲しい。本土までが無限遠の岬とでも思って欲しい。両岸にはさまざまなものが打ちあがる。忘却の海を時間の潮に乗って流れてきた遺物の数々だ。

2017-04-17 00:14:24
帽子男 @alkali_acid

汀についたもののひとつが、機械の子宮。あちこち痛んでいるが、まだ稼働し、続々と少女を産み落とす。皆同じ顔で、同じ背丈。武具を作り、女騎士として母なる装置を守り、岬の一画を固めて小さな王国を築く。

2017-04-17 00:16:27
帽子男 @alkali_acid

また別のものも上がって来る。奇妙にねじくれた甲殻類。遠目にはケンタウロスのようにも見える。もともと海底(うなぞこ)に住むのか、やはりいずこか異世(ことよ)からただよってきた種族なのか。いずれにせよ獰猛で、血肉を求め、群れを成して襲ってくる。

2017-04-17 00:18:50
帽子男 @alkali_acid

少女の王国はほかにもさまざまな敵、流れついたもの、空を渡って来るもの、砂まみれの大地に空いた穴からあふれてきたものと戦って金属の母を守り続けるが、いつの頃から新たに生まれる姉妹は少しずつ奇形が増えてゆく。腕が足りない、多すぎる、目が大きすぎる。小さすぎる。飛べない翼がある等々

2017-04-17 00:20:38
帽子男 @alkali_acid

だんだんと子宮は狂い始めているらしい。いずこからとも知らぬ世界から吹き付ける潮風のせいなのか、あるいはすでに打ち上がったときに寿命を迎えつつあったのか、騎士達は次第に追い詰められてゆく。

2017-04-17 00:21:34
帽子男 @alkali_acid

だがまた別の存在を波が運んでくる。あるいは天の高みから火と煙の尾を引いて落ちてきたのかもしれない。機械の母に似ていなくもない、金属でできた小屋。だがずっと醜い。主は無数の機械を体につないだ、小人のおうだが、すっぽりとボロを着ていて分からない。工房とその主たる工匠。

2017-04-17 00:23:41
帽子男 @alkali_acid

汀に打ち寄せるがらくたをつなぎあわせ、蘇らせるか、新たに歪な命を与える技に長けたが、本領は別にある。屍接(しつぎ)の技こそが真の得手であるという。盾持つ娘等ははじめ嫌悪するが、味方は見出しがたく、次第に取引をするようになる。

2017-04-17 00:25:38
帽子男 @alkali_acid

兵(つわもの)が足りなくなると、ひとりまたひとりと、棺桶を引いて工匠のもとを訪れ、もの言わぬ戦の傀儡として作り直すよう依頼する。 不具、片輪のものも、それぞれに合わせてつくろった機械や生物の一部を組み込み、新たな力を持って立ち上がる。

2017-04-17 00:27:57
帽子男 @alkali_acid

宿敵であるケンタウロスに似た甲殻類の屍さえも継ぎ合わせる。少女の最後のひとりはもともとあちこち足りない役立たずで、それゆえにこそ後方にいて生き個乗ったが、まともな手足を姉妹から受け継ぎ、継ぎはぎ(パッチワーク)の騎士として、屍となった同じ顔の騎士を率いる。

2017-04-17 00:29:52
帽子男 @alkali_acid

最初に頭に浮かんだのは。夕暮あるいは朝焼の砂浜を、棺桶を引きながら行進する同じ顔をした異形の騎士の群で、先頭を行くのは、娘の上半身を多足で細長い甲殻類の下半身に縫い付けた軍馬にまたがり、無表情に盾と槍をたずさえたつぎはぎの団長。

2017-04-17 00:32:07
帽子男 @alkali_acid

単に王国の存続というよりは、鉄の母を守り支えるという信仰と誇りが最後まで戦い抜く気概を与えている。 「私が死んだら、姉妹たちがその屍を温かいうちにお前のもとに運ぶ。どうか母を守る力に変えて欲しい」 と訴える。いつの日か再び幼子が金属の子宮から生れ落ちると信じて。

2017-04-17 00:34:00
帽子男 @alkali_acid

だがすでにたおやかな複製を送り出す装置は沈黙しており、おそらくは芯が死に絶えている。しかし工匠は淡々と契約に応じる。

2017-04-17 00:35:01
帽子男 @alkali_acid

屍接の小屋も、いわば少女の王国の武力によって獰猛な海の種族やそのほかの漂着する敵意ある存在から守られていたので、いずれは滅びを避けがたい。だがいずれにせよ、汀(みぎわ)に来るのは本来の世界において終わりを迎えた者共の残滓、よすがでしかない。

2017-04-17 00:37:51
帽子男 @alkali_acid

血なまぐさい戦いも、奇怪な創造も、すでに終わったより大きな物語のみすぼらしい再演、影絵芝居でしかないのだ。

2017-04-17 00:38:28
帽子男 @alkali_acid

しかし別の旅人があるいは葬送船に乗って接岸し、恐れ怯えながら探検するようなことがあり、少女の王国と黙した子宮と、騎士の屍の群を見出し、その物語を知れば、寂寞とした思いに駆られるのは間違いない。

2017-04-17 00:40:29