文学研究は科学である、という説明

つぶやいた人:@kin_mokusei まとめた人:本人。ちなみに文学研究科所属の博士課程院生です。
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金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

文学研究は科学である、という説明

2011-04-15 02:12:50
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

文学と科学、これほど定義の曖昧な言葉はない。なのでまず、言葉の定義をする。ここでの「文学」とは「人文科学としての文学研究」を指す。また、「科学」は「体系化され、追検証可能な知識や経験の総称」である。科学というと自然科学を想像する方が多いが、ここではそれに限定しない。

2011-04-15 02:13:01
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

文学研究でよくある誤解。「文学はいくつも答えがあるからね」というが、これは事実の半面でしかない。なぜなら、文学研究は他の研究と同様、答えを追い求めるものだから。

2011-04-15 02:13:11
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

答えがいくつもあるように見えるのは、手法や先行研究の解釈、資料の扱い方が人それぞれ違うからであって、個々人の中では答えは一つなのだ。この「研究者によって答えが異なる」という点が、人文科学としての文学研究が自然科学とは一線を画するところであり、誤解を招くところだ。

2011-04-15 02:13:18
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

自然科学は、普遍的なただ一つの真理――化学反応の解析であったり、天文現象について解明することであったりする――を扱う。結果は反応式や数式など客観的に見える形で記述され、基本的にその論文なり何なりで行われている手法を再現すれば、同じ生成物や結果が得られる。

2011-04-15 02:13:25
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

一方、文学研究は「言葉」を扱う。言葉は時代や、場所や、話者によってその内容を変化させる。話し言葉と書き言葉、筆者資料など、扱う素材も多様だ。

2011-04-15 02:13:37
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

では、科学に於いて欠かせない追検証性は、文学研究の場合はどこで担保されるだろうか。それは、往々にして参考文献である。

2011-04-15 02:13:42
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

自然科学は数式や化学式や実験器具などを記述することによって再現性(追検証性)を実現するが、文学研究では筆者の示す参考文献を追うことでその思考過程をトレースし、文献の読み方や資料の扱い方を理解することで、当該論文の結論までの過程が分かるようになっているのである。

2011-04-15 02:13:48
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

論文を読んで筆者の思考をたどった上で、反論や疑問が出てくることがある。それは当然だろう。

2011-04-15 02:14:02
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

明らかに間違っているものは論外としても、知識の程度や資料の扱い方が異なれば、違った話が出てくることは充分考えられるからだ。文学研究を曖昧にしているのは、往々にして、専門家同士であっても統一見解が得られていないことがあるからではなかろうか。

2011-04-15 02:14:10
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

例1:日本語の曖昧性、と言うことでよく挙げられる「ぼくはうなぎだ」という例文がある。これだけではウナギを注文しているのか、はたまたウナギの仮装をしているのか、今日の釣果の話をしているのか、全く分からない。

2011-04-15 02:14:25
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

「ぼくはうなぎだ」という文は、記述されないメタ・テキスト――食堂であったり、学園祭の準備であったり、どこかの川べりであったり――があって、初めて正確に理解できるものなのである。古典文学だと、その時代の常識の探求も必要である。ここが難しさでもあり、楽しさでもある。

2011-04-15 02:14:31
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

例2:源氏物語が平安時代にある女房によって書かれたのは間違いがないが、今目の前にある源氏物語の写本いつ書かれたものなのかを判定するのは、なかなか難しい。

2011-04-15 02:14:41
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

書写年代があればまぁ大体間違いないと判断するだろうが、例えそうであっても、文字の形、墨の乗り、紙の質、装幀…そういった所まで見、他資料と比べて初めて「これは鎌倉時代に書写された、原態に極めて近い、良質な本文ををもつ青表紙本である」などと言ったことが言えるのだ。

2011-04-15 02:14:48
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

そう、この「文字の形、墨の乗り、紙の質、装幀」などと言った部分が、文学研究を分かりにくくしているのである。

2011-04-15 02:15:10
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

ある程度はカタログ化されてもいるが、全く未知の本に出会った場合は、あまり役に立たない。そういう時はどうするか――知識と経験そして時々勘、である。これは、他人に説明しようとすると非常に難しい。

2011-04-15 02:15:17
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

こういうとき自然科学的に定量化できれば非常に分かりやすくなるのだが、生憎と書写された資料は一点ものであり、下手をすると同筆のものはもうないかもしれない。そういった資料の説明及び解釈手法について、今の自然科学は無力である。

2011-04-15 02:15:24
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

文学研究は、どうやっても定量化できない部分がある。これは動かしがたい事実である。しかしながら、論拠を参考文献等によって示し、目睹した資料を列挙し、従来の研究を整理して疑問点を洗い出して解決して、それによって客観的事実を手に入れていく、というのは、科学的手法以外の何者でもない。

2011-04-15 02:15:55
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

蛇足:あとね、文学研究も科研費(正式名称:科学研究費補助金)貰えるんです。貰えるんで、一応科学という扱いらしいですよ?

2011-04-15 02:19:35
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

定量的に説明できる分野もある、というのを書き忘れていた。作家の生原稿と実際に本になったものを引き比べてどこが違うか洗い出す、というのは定量化できます。ただし、「なぜここを書き換えたのか?」などとやり始めると、明示された根拠を持ったフィーリングになってしまいますが。

2011-04-15 02:24:07
切り取り線 for Togetter @kt_tg

✄----------- 本文ここまで -----------✄

2011-04-15 17:20:01
soycard@メンダコカワイイ @goo_ane1019

ものづくりも細部は職人さんのフィーリング、文学も細部はフィーリング?

2011-04-15 02:16:36