神通の唄2

『神通の唄』リメイク版 前作とのつながりはありません 神通の唄ではパロりきれなかった沙耶の唄のストーリーを主軸に展開してく予定(全四章)
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深海さかな @dzurablk_kai

#神通の唄2 ※但し書き ・前作「神通の唄」で描ききれなかった、沙耶の唄オマージュシーンを中心としたリメイクです ・前作との関連性はとくにありません、完全なオリジナルなお話で初めての人でも安心! ・前作みたいなエログロナンセンスなシーンはありません、多分、一応、予定では(未定

2018-06-25 20:24:18
深海さかな @dzurablk_kai

「おかえりなさい」 二時間に及ぶ残業を終えて鉛のように重さを増した体で帰り着くと、そんな鈴の音を思わせる明るい声が出迎えてくれる。 「今日もお疲れ様でした」 後光が射しているのではないかと見紛うほどの可愛らしさで微笑む神通。 #神通の唄2

2018-06-25 20:30:39
深海さかな @dzurablk_kai

「ごめんなさい、私もさっき帰ってきたばかりでお夕飯の支度、まだなんです」 そう言う彼女は、改二を迎えてから営内服や作業服として使っている改二前のセーラー服の上から、エプロンドレスだけを身につけたちぐはぐな格好だった。 #神通の唄2

2018-06-25 20:33:22
深海さかな @dzurablk_kai

そんなちぐはぐな格好で、心底申し訳なさそうに俯く神通の仕草と声音がこの上なく愛おしくて。次の瞬間には僕は彼女の華奢な体を抱きしめていた。 「やだ、シャワーまだなのに…」 「神通の匂いだ」 「恥ずかしいです…」 「じゃあもっと嗅いじゃおうかな」 「もう、バカぁ…!!」 #神通の唄2

2018-06-25 20:36:15
深海さかな @dzurablk_kai

抱きしめたついでに神通のロングヘアーに手を入れて、漆を思わせる綺麗な黒髪を軽く掻き乱す。 決して不快ではない、むしろ心安らぐ体臭が、シャンプーや柔軟剤の香りと混じりあい、肺の腑を経由してこの上ない安心感を与えてくれる。 #神通の唄2

2018-06-25 20:38:24
深海さかな @dzurablk_kai

そこまでしてようやく、仕事疲れで満ち満ちていた体に人心地を取り戻すことができた。 感謝の意を込めて神通に帰宅の挨拶を口にする。 「ただいま神通」 「…それだけ?」 子供のように頬を膨らしてこちらを見上げてくる神通。腰に手まで突くあざとさが、かえって微笑ましい。 #神通の唄2

2018-06-25 20:41:22
深海さかな @dzurablk_kai

「じゃあ、目を瞑って」 一転して笑顔になると神通は、瞳を閉じ顎を持ち上げて唇を突き出した。 その様をひとしきり観察して、「あの、まだ…?」という催促の言葉が出てくるのを待ってからの不意打ちな接吻。 #神通の唄2

2018-06-25 20:45:20
深海さかな @dzurablk_kai

一つになった唇の間で神通が、寝顔を覗かれるような気恥ずかしさを味合わされたことに対する文句を呟くのが、喉に伝わる振動でわかった。そんな意地っ張りな唇へと強引に舌を挿し込んで、愛情表現で文句を封殺する。途端に脱力して大人しくなる神通と、心なしか熱を帯び始める空気。 #神通の唄2

2018-06-25 20:49:40
深海さかな @dzurablk_kai

玄関で靴も脱がないままに交わす口付けは、この上なく濃密な甘美さを湛えていた。どうやら外は完全に日が暮れたようで、気付くと閉じた瞼の間から差し込む光は無くなり、僕は完全な闇の中にいた。そんな中で耳に届く神通の情熱的な吐息と、唇を苛む情欲に駆られた舌先。 #神通の唄2

2018-06-25 20:55:52
深海さかな @dzurablk_kai

五感に最大の影響力を持つ視覚を封じられての接吻は、思っていた以上に刺激が強かった。なるほど、神通はいつもこんな世界にいたんだな、どうりで夫婦の営みにも積極的になるわけだ。 長い永い口付けを終え身を離すと僕は改めて神通の相貌、漆黒の仮面で縁取られたその顔立ちを見詰めた。 #神通の唄2

2018-06-25 20:58:58
深海さかな @dzurablk_kai

先程までの姿とは打って変わり、健康的な血色に彩られていた肌は透き通るほどに白く、鮮やかだった緋色のセーラーは今は宵闇の如きほの昏さ。 「ねえねえ早くご飯食べよ!」 深海棲艦としてのもう一つの姿になった神通は、一転して子供のようなはつらつさで僕の手を取り家へと引き込む。 #神通の唄2

2018-06-25 21:04:53
深海さかな @dzurablk_kai

「今日のご飯は自信作なんだから、頑張って食べてよね!」 「そう慌てないでくれよ、転んでその角がまた刺さったりしたら大変だ」 ついこの前、神通と昼寝していた折に仮面の角が刺さったときは僕の額から血が止まらず、二人して大わらわだったのだ。 #神通の唄2

2018-06-25 21:09:18
深海さかな @dzurablk_kai

だがそんな僕の言葉など気にも留めない。いや、ほんの束の間振り返って頬を膨らませて見せた辺り、気にしてなくもないようではあったが、その表情はすぐさま悪戯っ子のようないつもの笑みに置換されてしまった。やはり姿が同じだけあって頬を膨らます顔も仮面の有無に限らずそっくりだ。 #神通の唄2

2018-06-25 21:13:21
深海さかな @dzurablk_kai

そうして僕はいつものように、帰宅早々ダイニングへと連行されていくのであった。 そう、それが毎日の光景だったのだ。神通と暮らしていたときも、そんな彼女が軽巡棲姫と呼ばれる深海棲艦に姿を変えて帰ってきた後も。 そこには変わらず、暖かな愛に満ちた日常があった。 #神通の唄2

2018-06-25 21:21:27
深海さかな @dzurablk_kai

そんな日常を、僕は自ら手放してしまったのだ。 #神通の唄2

2018-06-25 21:21:45
深海さかな @dzurablk_kai

朝目が覚めると、泣いていた。 理由はよくわかっている。毎日のように見るあの夢のせいだ。今はもう手に入らない、かつての幸せな暮らしの残渣。その記憶の断片が毎晩のように僕の涙腺を苛んで、望んでもいない涙を分泌させるのだ。 #神通の唄2

2018-06-25 21:29:07
深海さかな @dzurablk_kai

マットレスの無いベッドに敷かれた薄い布団から身を起こすと、鋼鉄製のフレームに組み込まれた錆びだらけなバネが軋む。 目元を拭いながら顔を上げると、病的なまでに白い部屋に乱反射する日の光に思わず顔をしかめた。高所に設えられた窓の彼方に、ちょうど太陽が見える。 #神通の唄2

2018-06-25 21:35:24
深海さかな @dzurablk_kai

どうやら随分と遅くまで寝ていたようだ。顔を動かすたびに窓枠にはめ殺しにされた鉄格子と金網で陽光が遮られ、目がちかちかする。 僕が遅めの朝食にありつこうと、床に配膳トレーが放置されているままのドア前へと歩を向けた時だった。外の廊下から監視の兵の声が耳に届いた。 #神通の唄2

2018-06-25 21:46:43
深海さかな @dzurablk_kai

「いつまでこんな精神病患者のおもりをしなきゃならないんだろうな」 「聞いたか? こいつ、隣人を一家まとめて殺して食ったんだとさ」 「それどころか、人間や艦娘が深海棲艦に見えるんだろ?」 「イカれてやがるんだよ、さっさと銃殺にでもしちまえばいいのにな」 #神通の唄2

2018-06-25 21:53:15
深海さかな @dzurablk_kai

そんな忌々しげな言葉の数を聞いても僕は別段、腹立たしくはなかった。彼らが話していた噂話の数々は、全てが真実なのだから。だが、僕自身に彼らがどのような心象を抱いているにせよ、職務中に立ち話に興じるのは頂けない。 #神通の唄2

2018-06-25 21:58:27
深海さかな @dzurablk_kai

そのことを僕が端的に諌め、ついでに老婆心から陰口は当人の耳に届かぬ場所でするものだ、と助言を添えると、かつての部下たちは舌打ちを返したきり再び口を閉ざした。 彼らの態度から察するに僕はまた嫌われてしまったようだが、なんにせよ静かな中で食事が取れるのはありがたい。 #神通の唄2

2018-06-25 22:01:17
深海さかな @dzurablk_kai

僕は元来、人付き合いというものがさして得意ではない。口も下手だし人と積極的に交わるような精神構造にもなっていない。だからさして親しくも無い他人の会話を耳にしながら食事を摂る、という行動にはそれなり以上のストレスを、大なり小なり感じてしまう。 #神通の唄2

2018-06-25 22:03:16
深海さかな @dzurablk_kai

そんな僕が唯一食事中に聞いていたいと思える声が、神通の声だった。まるでさえずる小鳥のように笑い、あるいは柔らかく空間を満たすクラシックのように吐息を漏らす、その優しく暖かな春の木漏れ日を思わせる音色が、今は懐かしくて仕方ない。 #神通の唄2

2018-06-25 22:07:22
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