汝、ふたたび故郷に帰れず

戦争が終わり、不要となった艦隊は順次解散し、自由を手にした少女たちは……
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同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

「汝、ふたたび故郷に帰れず」と、だれが歌ったか。 別に、故郷の土を踏めなかったわけじゃない。そういう娘も居たけど、これはそういう意味じゃない。 深海棲艦に勝利して英雄となった私たちを、故郷は、私たちを海軍に売った人たちは、狂喜して迎えいれた。家族の誇りだと、村の自慢だと。

2018-07-04 22:20:08
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

大した人たちだと思った。お国の為と言う露骨な方便は、いつの間にか真実そのものとなったらしい。 だから、というわけじゃない。英雄の扱いはお客様そのもので、たいそう居心地が良かった。思い出の場所をめぐるのは楽しかったし、家族と過ごすのも悪くなかった。

2018-07-04 22:31:12
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

でもここには、戦争がなかった。 深海棲艦が見えなかった。 あの日々を共に過ごした僚艦も、提督も居なかった。 艤装を背負い海を歩くこと、焼き付くような日差し、台風の猛威、敗北の屈辱、いつ来るともしれぬ潜水艦の脅威、死への恐怖、別れの悲嘆、勝利の歓喜、改二となった時の想像を絶する喜び。

2018-07-04 22:40:25
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

ここにいる誰一人として、理解することなど出来やしない。言葉を重ねれば重ねるほど、その断絶が露わになっていく。 私が何をしてきたのかも、何に耐えてきたのかも、あるいはどんな人間になったのかも。両親ですら、よく理解できなかった。

2018-07-04 22:45:35
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

もうとっくに、私にとっての家族とは彼らではなく、艦隊のみんなだったのだ。提督を父とし、秘書艦を母とする大きな家族。ここはもう、私にとっての故郷ではなく、鎮守府こそが私の故郷だったのだ。

2018-07-04 22:49:30
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

でももう、戦争は終わった。 艦隊は解散し、鎮守府は閉鎖された。 私はもう、故郷に帰ることはできない。 この平和になった世界に……。 私の居場所は、どこにもない。

2018-07-04 22:51:37