日向倶楽部世界旅行編第54話「上っ面バディー」

三回戦で気を失ったあきつ丸は、自身が敗北したという事実に落胆、またも自信を失う。その一方で、三戦三勝の日向もまた、思い悩んでいた。
0
三隈グループ @Mikuma_company

「…悪く思うなよ」 「明日は、あいつとか…」 「お話、聞いてくれないかなぁ?」 「何か知っているのか?」 「あっはは正直だねぇ」 「仲良くしておいた方が良いんじゃない?」 「ハッタリ抜かすのやめてよね。その丸腰で、勝てると思っちゃいないでしょ?」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/9JUrQD7yZo

2018-07-10 20:45:02
拡大
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部】 扶桑です。 あきつ丸さんたちの試合、拝見していました。あきつ丸さんが脱落した後、鈴谷さんは単身奮闘していましたが、惜しくも敗れてしまいました、でもまだ3日目、次から巻き返せるはずです!そして明日は大会4日目、折り返し地点ですね。チームによっては明日の時点で予選敗

2018-07-10 21:01:43
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部その2】 二回戦を終えたあきつ丸たちの前に立ちはだかったのは、TGS艦娘チームと繋がりのある美少年艦隊。 リードを取るも美少年艦隊の戦術に嵌るあきつ丸達、耐えてからの逆転を狙う鈴谷の意に反し、挑発に乗ってしまったあきつ丸は撃沈、意識を失うのだった。

2018-07-10 21:03:05
三隈グループ @Mikuma_company

日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第54話「上っ面バディー」

2018-07-10 21:05:02
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 「やっぱり無能だな、君は!」 声がする、嫌な声。 違うって言わなきゃいけないのだけど、私には、言い返すだけのものが無い。 私って、何が出来るんだろう…私に出来る事は、誰かが私よりも上手くやれる。私が出来ない事も、誰かが上手くやれる…私って、何が出来るんだろう…

2018-07-10 21:05:51
三隈グループ @Mikuma_company

「貴女にも、貴女だけの素敵なところがあるわ」 三隈さんの声だ、いつも優しくしてくれて、ありがとう… 「人は何かにはなれる、でも誰かにはなれない」 鈴谷さんの言葉だ、あの人はとても強いし、明るい… 本当に、私の周りには、良い人達がいっぱいいる。

2018-07-10 21:06:48
三隈グループ @Mikuma_company

でも、皆に優しくされればされる程、自分の至らない部分を見たとき、どんどん悲しくなる。 優しさに応えられないのが悔しい、だんだん優しくされる事が辛くなる、いつか一人になってしまいそう。 神父様の様に、善い人間であろうとしてきた。でも本当の私って、卑屈で嫌な人間なのかな… 〜〜

2018-07-10 21:07:49
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 暗闇から目覚めたあきつ丸の視界に入ってきたのは、薄暗い部屋の中にある、白い天井であった。 「…ここは?」 身体が怠い、あきつ丸は寝たまま辺りを見渡す。そこはどうやら夜の病室、彼女は試合での事を思い出し、自分の状況を理解する、自分はやられたのだ。

2018-07-10 21:08:48
三隈グループ @Mikuma_company

すると、すぐ側から声がした。 「気が付いた?」 「!」 暗闇からの突然の声に、あきつ丸は息を呑んで固まる…が、声に聞き覚えがあったので、すぐに肩の力を抜いた。 「み、三隈殿…でありますか?」 あきつ丸が小さな声でそう言うと、彼女の頬に温かい手が添えられた。

2018-07-10 21:09:44
三隈グループ @Mikuma_company

「ふふっ、そうよ。気が付いて良かったわ。」 手の添えられた方を向くと、そこには微笑む三隈の顔があった。あきつ丸はそれを見ると、ゆっくりと身体を起こし、問う。 「し、試合は…?」 「…残念だけど、負けてしまったわ。」 三隈の言葉に、あきつ丸の表情が暗くなる。

2018-07-10 21:10:49
三隈グループ @Mikuma_company

「…そうでありますか…負けて…」 あきつ丸はそう呟き、奥歯を噛み締める、負けた原因など、自分がほぼ全てだったからだ。 あの挑発に乗らなければ、乗ったとしても、それを跳ね除けられれば、そもそも自分がしっかりしていれば、あの様な暴言を許す事も…無数の無力感がふつふつと湧く。

2018-07-10 21:11:50
三隈グループ @Mikuma_company

そしてハタと気が付く 「…!そうだ、鈴谷殿は!?」 迷惑をかけてしまった相手を思い出し、彼女はキョロキョロと見回す。すると、病室のドアが開いた。 「おっ、目覚めた?」 「す、鈴谷殿…」 あきつ丸が尻すぼみなトーンでそう言うと、鈴谷はヘラヘラ笑いながらコーラ片手に入ってきた。

2018-07-10 21:12:52
三隈グループ @Mikuma_company

そして彼女は、ベッドの隣の椅子に腰掛け、足を組んで言った。 「…悪いね、なんとか粘ったけど、負けちまった」 彼女はあきつ丸を責めるでもなく、開口一番にそう言った。これにあきつ丸は、返す言葉もなく黙ってしまう、何故この人は、ここまで怒らないのだろう…そう思った。

2018-07-10 21:14:24
三隈グループ @Mikuma_company

そんな彼女の思いを知ってか知らずか、鈴谷は気遣う様に訊ねる。 「痛むところとかない?平気?修復剤少し使ったから、身体は怠いだろうけど」 彼女に言われ、あきつ丸は身体のあちこちを触ってみる、特に痛むところはなかった。 「いえ、平気であります…」 「そっか、なら良いんだ」

2018-07-10 21:15:38
三隈グループ @Mikuma_company

鈴谷はニッと笑い、コーラをグビグビと飲み干す。やはり、あきつ丸を責める様子はなかった。しかしあきつ丸は、澱んだ気持ちを少しでも軽くしたい一心で口を開いた。 「…あの、鈴谷殿…」 「ン?」 いつもの調子の鈴谷に、あきつ丸は言った 「その、今日は…申し訳ありませんでした…」

2018-07-10 21:16:42
三隈グループ @Mikuma_company

丁寧に謝るあきつ丸、その言葉には、自分の失敗を叱責してほしいという気持ちがあった。 しかし 「…ああ、気にすんなよ。初動をミスって、まんまと向こうの策にハマっちまったのはあたしだ。その後も勝つチャンスはあったのに、それも逃しちまったからな…」

2018-07-10 21:18:05
三隈グループ @Mikuma_company

鈴谷はそれをせず、あくまで自分のミスとした。あきつ丸にはそれがもどかしかった、しかしだからと言って、これ以上は何も言えない、あきつ丸は俯いて沈黙する。 そんな彼女に、鈴谷は笑顔で言った。 「んじゃま、明日また頑張ろうぜ、まだまだ巻き返せる範囲だ。」 彼女はそう言って立ち上がる。

2018-07-10 21:19:13
三隈グループ @Mikuma_company

「明日の試合は17時からだ、ゆっくり休んで切り替えて、明日から勝ちを重ねていこう。」 そして彼女は、軽く手を振って病室を後にした。その背中を見送ると、あきつ丸の背に三隈の手がそっと添えられる。 「鈴谷さんの言う通りよ、まだ一敗なんだから、じゅうぶん巻き返せるわ。」

2018-07-10 21:20:20
三隈グループ @Mikuma_company

三隈の優しい声が響く、あきつ丸はそれに、黙って頷いた。 「さ、今日はもう寝ましょう。修復剤を使った後なのだから、ゆっくり休まなくてはダメよ。」 しかしその優しさを、あきつ丸はまた素直に受け止められなかった。表には出さなかった、しかし何処か心が、澱んでいた。

2018-07-10 21:21:30
三隈グループ @Mikuma_company

そして同じ頃、病室を後にした鈴谷は、背後を気にしつつ独白する。 (…あたしも、気安く何もかも出すわけにはいかねェんだ…悪く思うなよ) 彼女は背後を鼻で笑うと、草色の髪をかきあげながら、一人夜道を歩いて行った。 〜〜

2018-07-10 21:22:43
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 同じ夜、ブルネイ泊地のホテルの一室。日向は一人、ベッドに横たわっていた。 「……明日は、あいつとか…」 日向はぼそりと呟き、寝返りを打つ。三日目を終えた彼女のチームは現在、3戦3勝という好成績でここまで来ていた。現地メディアでも、予選突破の有力候補と報じられている。

2018-07-10 21:24:46
三隈グループ @Mikuma_company

普段ならそれに喜ぶことも出来ただろう、しかし、今彼女と組んでいるのはあの残虐非道の伊勢である、素直に喜ぶ事は出来ない。日向は険しい表情を浮かべ、沈黙を続ける。 そもそも何故、彼女が伊勢と組むことになったのだろうか。時は、立食パーティーのあの日まで遡る。 〜〜

2018-07-10 21:25:40
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 あの日の夜 「お久しぶり、日向。…元気してた?」 「お前は…!」 酔いの醒めた日向は、臨戦の構えを取る。目の前に現れたのは伊勢、二度に渡って日向達と交戦し、その実力と非道さを遺憾なく見せつけた、日向達にとって一番の危険人物である。

2018-07-10 21:26:44
三隈グループ @Mikuma_company

伊勢は以前現れた時と同じ、飄々とした態度で立ちふさがる。暗闇によってはっきりとは見えなかったが、態度からして笑っているのは明白だった。 日向は緊迫に包まれる、すると、伊勢は笑いながら口を開いた。 「にひひ…そんなに怖い顔しないでよ。パーティは楽しかった?」

2018-07-10 21:27:52
三隈グループ @Mikuma_company

戯けるような問いかけが為される。しかし、日向は口を開く事なく警戒を続け、隙を伺う。伊勢も伊勢で、そんな日向にこれっぽっちも動じず、また口を開く。 「今日は別にさ、貴女と戦いに来たんじゃないんだよね、お話をしに来たんだ」 伊勢はスッと足を踏み出す、音もなく、一歩を踏み出す。

2018-07-10 21:28:45