千葉雅也(@masayachiba)氏による言葉づかいの「アマチュアモード/プロフェッショナルモード」(アマモード/プロモード)について
前から思っていたことが最近、自分のなかで明確になったので書いてみたい。大きく分けて、言葉づかいには二つの極がある。僕はそれを「アマチュアモード/プロフェッショナルモード」と分ける。言語のアマモード、プロモードと呼ぼう。その使い分けが、学生にも社会人においても重要である。
2017-01-13 13:09:47言語のプロモードとは、言われた・書かれたことを「文字通り」に取り扱い、文字通りに一字一句の違いを問題にするモードである。他方、言語のアマモードとは、「要するに何を言いたいのか」をくみ取ろうとするモードである。とくに大きな組織で公的な仕事をするときには、プロモードが必須である。
2017-01-13 13:11:44たとえば、文「この点は、現代日本社会の本質を示していると言えるだろう」は、プロモードでは、「示していると言えるだろう」なので非断定的、蓋然(がいぜん)的な文だ、と理解しなければならない。アマモードでは、「要はそれが本質なんですね」とざっくり断定化してしまう。それがアマチュア。
2017-01-13 13:17:34プロの世界では、シビアな状況になると、一字一句「どう言ったか、書いてあるか」が問題になる。ひじょうにシビアな場合とは、契約書や供述や裁判であり、基本的には学術論文もそういう法的な場合に準ずると考えたほうがいい。そのレベルでは、文字通りに「言質を取る、取られる」ことが問題になる。
2017-01-13 13:22:01一般に、仕事においては(とくに組織においては)、だいたいのところで言いたいことを共有できればいいという言語のアマモードと、言質を取る・取られることが問題になるプロモードを「適宜」切り替えながら言語運用をする。どちらか一方では仕事は成り立たない。
2017-01-13 13:25:34プロモード的な言語使用で典型的なのは、官僚の作文や政治家の答弁である。そういうものはくだらないと思ってはいけない。公的に何かを言おうとする場合はつねに、官僚的作文の「繊細に設計された曖昧さ」を参考にする必要がある。
2017-01-13 13:33:36読解力を鍛えるときには、プロモード的にテキストを文字通りに扱う力と、ざっくりどういうことなのかを言えるアマモードとを、どちらも鍛える必要がある。さらには、場合によってプロモードで考えるかアマモードで考えるかを選べるという、アマ/プロに対するメタ視点を形成する必要がある。
2017-01-13 13:38:52言語のアマモードとは本音主義であり、要するに何なんだ、細かいことはいいから、という性急な態度であり、細かい字句はリアルじゃないと思っているのだが、その態度は、我々の社会の根底には法律と憲法という「究極のテクスト」があり、その解釈は分かれるのだというリアルがあることを軽視している。
2017-01-13 13:43:16何か組織の会議で、書類の文言がそれでいいのかどうかが問題になるときには、そのすぐそばに、まさに同じ問題として、憲法解釈という社会の根本問題がチラついている。
2017-01-13 13:45:29それにしても、思うのだが、アマチュアの世界、というか「ふつうの」世間では、物事について「でなければならない」という発想が根本的にないのではないか、と。人はこうあるべきという規範はいろいろあるが、別に違反しても「まあそういうこともあるか……」となりうる。「形式的なmust」がない。
2017-01-13 13:59:30専門的な仕事をしようとするときに、根本的にハードルとなるのは、知識や技術における「ただそうしなければならないからそうしなければならないのだ」という「形式的なmust」を、感情的に納得するしないに関係なく、たんに形式的に作動させることである。
2017-01-13 14:03:01