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追記を繰り返しているうちに、内容が増えてきたので、目次を追記します。(2018/10/1)
 
目次
1.ティム・ディアジョーンズ「トリチウム水と提案されている東電事故サイトからのトリチウム水海洋放出について」
2.OBTは、生物活動により、特に植物で多く作られるが、高い濃度に生物濃縮される、という知見はない
3.カーディフ湾で取れた、OBTを多く含む魚をボランティアが食べた場合の体内挙動
4.海洋排出トリチウムの移行パラメータ
5.有機化合物において、結合した水素の挙動についての基礎知識
6.「ピロール,ウラシルなどの環状有機化合物におけるトリチウム交換反応と反跳反応」(村野 宜史)
7.「環境管理 2018 Vol.47」 特集Ⅰ.環境トリチウム
8.2018/11/30 トリチウム水小委員会 田内 広 委員資料

 
1.ティム・ディアジョーンズ「トリチウム水と提案されている東電事故サイトからのトリチウム水海洋放出について」

Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
2018/8/3 に、原子力資料情報室のHPに、「トリチウム水が海洋放出された場合、容易に沿岸環境中の有機物と結合し、生物濃縮する」という謎の文書が掲載されました。(著者、ティム・ディアジョーンズ、原文は英語) cnic.jp/8115 (続く
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
翻訳がひどいので、この「和訳の要旨」を読んだ人は、うさん臭い文書としか思わなかった人も多いかと思いますが、原文(英文)のほうは、根拠となる調査・論文をいろいろ提示していて、一見、事実かと思わせる巧妙なデマ文書となっています。(この件について、以下連ツイします。)
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
結論から言うと、1)沿岸の海洋生物から高いOBT(有機結合型トリチウム)が検出された事例はあるけれど、それは、研究用の「有機結合型トリチウムの試薬」を製造している事業所からの排水によるものです。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
2)OBTが沿岸の生態系の中で生物濃縮される、というのは事実です。しかし、海水中のトリチウム(ほとんどが自由水型トリチウム)濃度と比較して、何千倍にも濃縮したように見える、というのは、誤った見方で、排出されたOBTからの濃縮率はそれほど高くはないようです。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
3)水系環境中の「タンパク質性の物質」が、トリチウム水を「吸着」するらしい、という研究結果があります。しかし、このタンパク質を摂取した生物が、体内で、どの程度の割合でOBTに変換するのかは未知の段階です。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
3続き)ティムは、この研究結果もとに空想を膨らませ、栄養分の多い沿岸の底質の生態系で、トリチウム水(自由水型トリチウム)が、有機結合型トリチウムに(OBT)に変換し、生物濃縮によって高い濃度になる、というストーリーを勝手に作り上げているのです。そのような証拠はどこにもありません。

 
ここから本論

Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
有機結合型トリチウム(OBT)が、沿岸の生物から高い濃度で検出された事例、としてティム・ディアジョーンズが提示しているのは、Cardiff 近郊の NYCOMED AMERSHAM PLC (現在はGEヘルスケアの部門)の 生命科学研究用試薬製造所からの排水の影響を調査したものです。
放射線たん @radio_tan
近年、非密封の放射性同位体のなかで最も多く用いられているのがトリチウム(H-3)よ。特に薬学や生物学の分野では、化学構造にトリチウムを導入した化合物を生物に投与し、体内での化合物の分布を調べることで、体内でどのような振る舞いをするのかを調べるのに利用されているわ。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
調査場所は、ブリストル海峡の奥部、セバーン・エスチュエリー(Severn Estuary):グーグル地図→ goo.gl/maps/AD371SZRf… という場所です。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
ティムが紹介している最初の報告書は RIFE-5,1999(2000年,pdf)→ cefas.co.uk/publications/r… の8章に示されています。 pic.twitter.com/4CN1AtxuNN
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Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
これによると、ヒラメ(Flounder)で、有機結合型トリチウムが 16,000 Bq/kg(湿重量当たり、以下同様)(全H-3が 23,000 Bq/kg)、ヨーロッパタマキビガイ(Winkles)で、有機結合型H-3が 3,900 Bq/kg、ムール貝(Mussels)で、有機結合型H-3が 20,000 Bq/kg、
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
続き)ゴカイ(Lugworm)で、有機結合型H-3が 22,000 Bq/kg などとなっています。 また、同じ表の下半分には、牛乳、果物、野菜などのサンプルからも若干の有機結合型トリチウムが検出されていますが、これは、潮風の影響なのでしょう。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
続く別表では、水鳥類で、有機結合型トリチウムが 数千~42,000(最高値) Bq/kg 検出されているほか、陸上の草からも、潮風の影響? で、最高 210 Bq/kg の有機結合型トリチウムが検出されています。 pic.twitter.com/ViorUseZZY
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Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
ティムが紹介している二番目の論文(2001年)→ sciencedirect.com/science/articl… も、同じくセバーン・エスチュエリーでの調査です。フィルターを通した海水のH-3濃度が 約10 Bq/kgであるのに、
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
ヒバタマ属の海藻、ヨーロッパイガイ、ヨーロッパヌマガレイから、それぞれ 600 Bq/kg、2,000 Bq/kg、10,000 Bq/kg(いずれも乾燥重量当り)のオーダーのH-3濃度が検出されており、底質と生物試料のH-3の大部分は有機結合型トリチウム(OBT)だったと報告しています。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
問題は、ティムが紹介している三番目の論文(2009年)→ sciencedirect.com/science/articl… です。まずは、以下に、この論文のAbstractの試訳を示します。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
<Abstract試訳> トリチウムは環境中にある重要な放射性核種であるが、水系において、配位子(リガンド)や固体との反応性は限られていると考えられている。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
我々は河川水および海水中のトリチウム(トリチウム水を添加)の分画と吸着について研究を行い、その配分が有機物に対する親和性の影響を受けているように見えることを発見した。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
トリチウムは、逆相C18カラムによって保持された水溶性の有機配位子、および懸濁した沈降性粒子と、迅速に平衡状態に達する。 重要なことは、測定された収着トリチウムの割合が、タンパク質性の物質と関連性があることだ。これらのタンパク質性物質は、沈降物を摂取する生物が潜在的に利用可能である。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
これらの性質はこれまで報告されておらず、水素との同位体交換のみによって説明することはできない。 それにもかかわらず、主な供給源がトリチウム水である場所の河口および沿岸の海水中のトリチウムの利用可能な測定値と、それらは定性的に一致している。
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
河口域におけるトリチウムの生物地球化学的挙動に関してはさらなる研究が必要であり、この放射性核種について仮定されている放射線の分配係数や濃縮係数は再考を必要とするかもしれない。<試訳おわり>
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat
この論文は、トリチウム水(自由水型トリチウム)が、水系中のタンパク質性物質に「吸着」されやすいようだ、という報告ですが、この段階では、疑似相関の可能性もあり得ますし、トリチウム水がタンパク質に吸着されやすいのが事実だとしても、(続く
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コメント

KEN @EFT91150978 2018年8月9日
専門的な良い内容でした。勉強になります!( ..)φメモメモ
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat 2018年9月28日
まとめを更新。このまとめをデマ呼ばわりする方がおられましたので、反論を追記しました。
nao @parasite2006 2018年9月29日
OBT濃度が高い海域で生育した魚を成人男女有志が食べ、排泄されたトリチウム水/OBTを測定した論文(2009年)。「魚試料から経口摂取したOBTは、非常に急速に体組織に取り込まれ、その後加水分解され、主にトリチウム水として排泄される」という考察が特に興味深い。
緑川⋈だむ @Dam_midorikawa 2018年9月29日
んじゃ、トリチウムの生物濃縮による除去やら資源化も出来るだろうに
k2104 371 @k2104371 2018年9月29日
買ってはいけない系と同じ臭いがする
Naoki_O @nananao2236 2018年9月29日
なるほど、これがここ→ https://togetter.com/li/1271199 で東京新聞の佐藤圭氏がロンダリングしていたデマの元ネタなんだ
廃棄物イシクモ隔絶中 @MtMikasa 2018年9月30日
労力に頭が下がります。同位体濃縮が起きるのなら大発見だし、そもそも、重水素だって濃縮されなきゃおかしい。化学反応での同位体濃縮は、酸化還元反応で生じる場合があると昔習ったなぁ(ウラン濃縮とか)。炭素や酸素では、その同位体比の偏りからスポーツドーピングを判定する例もある。それにしても、有機結合型は被ばく評価に違いが生じるというのは、覚えて置いた方がいいですね。勉強、勉強…
LINSTANT0000@ほぼ全素材不足マン @linstant0000 2018年9月30日
ご苦労様でした。 最もデマに踊らされる人間はお気持ち重点なので理解できないでしょうけれども。
Halfricesetitsmore @Halfriceset 2018年10月1日
Dam_midorikawa そうか、沿岸底質の生態系をトリチウムを含む処理水のタンク内で再現すれば、勝手に処理水からトリチウムが生体内へ除去されて、しかも核融合に使えるトリチウムを濃縮回収できるのか!大発見じゃないですか!今すぐF1で実用化しよう!(棒
ニラキア @nirakia 2018年10月8日
結合というのは不適切な表現だと思う トリチウムの形のまま付いてる訳しゃないし 置換、交換辺りが正確じゃないかな
眠れるミソサザイ#@中途半端な暑さで意識が飛ぶ @marumasa58 2018年10月9日
なに、水銀等と反応させメチル水銀にして生物に摂取させれば生物濃縮するだろ(違
Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat 2019年7月22日
「トリチウムについてのディア・ジョーンズ論文について/質問への回答」(2018/9/19 渡辺悦司)というブログ記事 https://senmaya.at.webry.info/201809/article_9.html?fbclid=IwAR2FBtFEDPboa2DAlk80sIFdYrHyVhi3gA5cyytE0Z5vl7yQEY66_JWuS3c があるようだけど、この内容もオカシナものであることは、このまとめを読まれればおわかりかと思う。
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