「フラグメンツ・オブ・エピック:ディープ・オーダー」「ナバルの章:ワット・イズ・ザ・ヴァリュー・オブ・ライフ?」#1

深海騎士団叙事詩断片第2章 生まれたばかりのネームド深海棲艦・ナバル。 彼女とディープ・オーダーの出会い。そしてある巨人との別れについて。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「フラグメンツ・オブ・エピック:ディープ・オーダー」シリーズより 「ナバルの章:ワット・イズ・ザ・ヴァリュー・オブ・ライフ?」

2018-08-15 17:02:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

夜。草木も眠り、海鳥も巣へと帰るウシミツ・アワー。艦娘と深海棲艦が相争うこの時代において、今夜は例外的に静かであった。風は凪ぎ、空は晴れ、満天の星がこの静謐を祝うように煌めき輝く。まさに静かな海。仮初の平穏であった。 1

2018-08-15 17:03:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、脅威とは常に水面下で蠢くものだ。読者の皆様も視点を海上から海中へと移そう。深度400メートル。光も届かぬ深海にて、魚雷めいて泳ぐ無数の白と黒の影。ご存知の皆様も多いことであろう。潜水艦タイプの深海棲艦だ。 2

2018-08-15 17:09:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

常日頃、獲物を囲むハイエナ、或いは狼の群れめいて海上へ目を光らせる彼の者らは、今宵は目もくれずに前進を続ける。その眼は虚ろであり、紫色に光っていた。彼の者らの後方、紫色の燐光を身に纏う深海棲艦が続く。巨大なクジラめいた艤装と並泳するそれは、潜水棲姫であった。 3

2018-08-15 17:16:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「フフフフ…逃がさないわ…」この潜水棲姫は名を持つもの。その名をネクロマンサーと呼ぶ。自我薄き者を洗脳し、使役するネクロマンス・ジツの使い手であった。彼女、ネクロマンサーの視線の先には、自身のジツで支配した潜水艦級の深海棲艦が10数隻、そして…光だ。 4

2018-08-15 17:25:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

光?そう、然り。この光届かぬ深海において、光である。その光は青白く神秘的な光を放ち、波打っている。それは、宙に浮かぶ月めいた神秘を帯びていた。「全軍、構え」ネクロマンサーはその神秘を前にして感慨を抱かず、ただ無慈悲に攻撃命令を下した。 5

2018-08-15 17:28:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

潜水艦級たちは幽鬼めいた動きで魚雷発射管を構えた。「撃て」POW!POW!POW!圧縮空気が解き放たれ、魚雷の群れが光へと殺到する。魚雷はやがて闇へ溶け、深海棲艦から見えなくなる。数泊の後。KABOOOM!闇色の深海を、一瞬赤く爆破の光が照らし暴いた。 6

2018-08-15 17:36:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ネクロマンサーの目には、光の向こう側が、白亜の色が確かに見えていた。爆炎は闇に飲まれ、深海は闇を取り戻す。光は神秘的に輝いている。仕留めきれていない。ネクロマンサーは全軍に第二射を命じようとした、その時だ! 7

2018-08-15 17:41:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

SPLAAAASH!「イヤーッ!」突如横殴りの激流がネクロマンサーへと襲い掛かった!ネクロマンサーはイルカめいた美しい遊泳回避!SPLAAAAASH!SPLAAAAASH!SPLAAAAASH!「「「グワーッ!」」」自我希薄潜水級深海棲艦たちは突然のアンブッシュに抵抗できず、闇の彼方へと消えていく! 8

2018-08-15 17:46:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「チィッ!」ネクロマンサーは歯噛みした。彼女のネクロマンス・ジツはきわめて強大ではあるが、「有効射程」が存在する。今のアンブッシュで、手駒とした下僕たちは軒並み流されてしまった。「オノレ…何者だ」ネクロマンサーはアンブッシュ者を憎悪し、睨み付けた。 9

2018-08-15 17:50:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

やがてネクロマンサーの前に、白亜の装甲を持った人型の深海棲艦が現れた。側頭部には三日月めいて湾曲した大角を備え、首元は白い毛に覆われていた。その深海棲艦は両手を合わせオジギをした。アイサツである!「ドーモ、ハジメマシテ。ナバルです」 10

2018-08-15 17:56:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

BRRRRRRRRRR!朝焼けの空、目覚めたばかりの世界を引き裂く爆音が一つ。海を駆けるその白きモンスターマシーンの名は「焔矢」少数の兵士を長距離に最短で送り届ける試作兵器である。それに騎乗するのは二人の戦士。蒼黒の甲冑を身に纏う男と、白黒セーラーに伊賀袴の少女である。 12

2018-08-15 18:03:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

焔矢はスピードを落とし、やがて島々が点々とする海域へと至った。そのうちの一つ、鬱蒼としたジャングルのある島の浜辺へと焔矢は乗り上げ、エンジンを止めた。男・リカルドは焔矢に積んだ野営設備を下ろし、少女・吹雪は焔矢を海岸から離し、隠蔽偽装用のネットで焔矢を覆い隠した。 13

2018-08-15 18:17:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかし」リカルドは手早くテントを広げながら言った。「すまんな、こんな朝早くに」「いえ、私も気になっていましたし」吹雪もペグをチョップで打ち込みながら返す。「白亜色の怪物など、タイムリー過ぎますし」「だよなぁ」リカルドは溜息を吐き、ペグを拳で押し込み、そして海を眺めた。 14

2018-08-15 18:21:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ここ数日、鎮守府に「白い何か」が南西の海域で目撃されたという報告が複数上がってきていた。ある者は「海の中に青白い靄を見た」と言い、ある者は「通商破壊任務中に、深海で月を思わせる白い光を見た」と言い、またある者は「巨大な人影が白い光を発していた」と言った。 15

2018-08-15 18:26:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白く、巨いなるもの。リカルドの脳裏には、どうしても数か月前の悪夢が過った。先の大規模作戦中ハワイ・旧中枢泊地から文字通り「生えて」きた白亜の巨獣。星を食らう鬼、この戦争の真なる敵の姿。クリティカルな情報はいまだ上がってきてはいない。だが、杞憂とも思えぬ胸騒ぎがあった。 16

2018-08-15 18:30:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

故に、「久しぶりの弟子とのマンツーマンでの特訓」と称して休暇を取り、この南西海域へとやって来たのだ。期日は4日。集めた情報から、「白い何か」が目撃されているポイントを数か所割り出し、探索する。何かがあろうがなかろうが、4日経てば帰る。 17

2018-08-15 18:38:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかし」吹雪はダイビングスーツに着替え、言った。「本当に何がいるのでしょうか」「何ねぇ?」リカルドは甲冑を身に纏ったまま柔軟運動を行う。「一番最悪なのは、ハワイの奴と同じ存在だ。俺たち二人じゃどうあってもどうしようもない」「そうですね」 18

2018-08-15 18:42:43
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「仮に、単に馬鹿デカい深海棲艦だった場合だ」「はい」「ぶん殴って威力偵察してから帰りたいってのが本音だが…まぁこいつも無理はできん。どっちにしろかえって上に報告を上げて、軍として出なきゃならんだろう」「生き物である可能性は?」「このご時世でクジラが生き残ってるかねぇ?」 19

2018-08-15 18:45:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦が海を支配した昨今において、海の頂点とはすなわち深海棲艦であり、それ以外は等しく虐げられる存在であった。天敵が存在しなかったはずの大型魚類や海洋哺乳類は、突如沸いた無限に等しい上位者の群れを前に絶滅寸前、或いは絶滅したというのが定説であった。 20

2018-08-15 18:48:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まぁ、元より個人の範疇での調査だ。探しはするが、何が出てくるかまでは…」そこまで言い、リカルドは柔軟運動を止め、カラテ警戒をした。吹雪も同様にカラテ警戒。数秒後、遠く海が泡立ち…そして!SPLAAAAASH!破裂! 21

2018-08-15 18:51:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ア、何だ?」カラテ警戒を怠らず、リカルドは空を、海から飛び出した影を見た。影は二つ、白と黒。「あれは…?」リカルドは白い影を見た。三日月の大角、白亜の装甲、白い毛。妙な既視感を覚えた。((どこかで…?))リカルドは自分のニューロンから答えを探そうとした。 22

2018-08-15 18:55:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白い影は両手を組み、天に掲げた。あの構えは!恐るべき破壊のカラテ技、ダブル・スレッジ・ハンマーである!白い影は黒い影目掛け、鉄槌を振り下ろす!「イヤーッ!」「グワーッ!」SMAAASH!黒い影はワイヤーアクションめいて地面へと吸い込まれ、そしてウケミも取れずブザマに叩きつけられた! 23

2018-08-15 19:01:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アバッ…アババッ…」黒い影は痙攣して悶えた。それは軽巡ホ級であった。やがてホ級は痙攣を止め、力尽きた。「サヨナラ!」爆発四散し、その骸はこの世には決して残らない。数泊遅れ、白い影は浜辺に落ちてきた。前転し、落下衝撃を逃がす。ワザマエ。この動作だけで、手練れと理解できよう。 24

2018-08-15 19:05:59