ベリアル・アンダーカバー ＃６

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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ザリザリ……ザリザリザリ。トコノマ。黒漆塗りの重箱には金細工が施され、ものものしく重厚であり、黒く光るツマミ類や小さな液晶パネルすらも尊大である。この強力なIRC受信機の所有者は即ちソウカイ・シンジケートの頭目、ラオモト・チバなのだ。　1

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キモノ姿の美しきテンプテイションの膝を枕に、腕を組み、尊大にミミカキ・トリートメントを受けていたチバは、受信機が微かに発した途切れがちな雑音に不意にその目を鋭く研ぎ澄ませた。「アラ」テンプテイションが呟き、素早くミミカキを下げる。チバは起き上がり、オーガニック机の端を掴んだ。　2

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「……」チバの瞼がぴくりと動いた。テンプテイションは正座したまま、オヤブンの集中を乱さぬよう、息を殺す。ザリザリ……ザリザリ。「む……」チバは呟き、カールコードで接続された黒漆塗りヘッドセットを装着し、手ぶりでテンプテイションを下がらせた。「モシモシ」　3

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通信主は無論、ガーランドである。「話せ」ザリザリ……ノイズは大きい。通信妨害は時間と共に厄介なものになってきている。「うむ。……うむ。そうか」チバは独り、頷きながら聞いた。しばしの沈思黙考。やがてチバは答える。「殺せ」　4

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再び雑音。チバは注意深く通信音声を拾う。「奴の懐、喉首を攻める必要もあろう。必要に応じてソウカイ・ニンジャらと合流し、事にあたれ。だが当然、目的遂行にあたっては貴様単独で処理しろ」ザリザリ……ガーランドの何らかの返答。チバは通信を終了した。カコーン。シシオドシが鳴った。　5

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【ベリアル・アンダーカバー】#6

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頭上の水面は黄金立方体の光を受けてキラキラと輝き、旋回するサメたちの優美な姿は、骨の欠片で満たされた地面に黒い影を投げる。「ハアーッ……ハアーッ……」フリージアは廃墟ビルのコンクリートに手をつき、進み出る。たった今後にしてきた風景と同じ廃墟ビルの森が出迎える。ループだ。　1

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「よお」ドライアイスめいた風が吹き、荒れた道路の中央分離帯の向こう、銃を持った手をだらりと垂らしたホローポイントが微かに首を傾げて見せた。「殺し合い……始めようや」「卑怯者め」フリージアは唸った。この奇妙な空間においてジツは無効。「ああそうだ。使えねえだろ」と、ホローポイント。2

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「ブルハウンドとかいったな？アイツも少しは役に立つ。奴はテメェのクソみてェなジツを知っててよ。俺のカラテと相性が悪りィわ」ホローポイントは目を細め、残忍な笑みを浮かべた。その笑いは何処か虚ろで、破滅のにおいを感じさせる。　3

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然り、フリージアのサイコリフレクト・ジツは飛び道具の一切を跳ね返す。勝てるイクサの筈だった……勝てるイクサの筈……！「正々堂々やろうぜ。一対一で、キレイなカラテでよ……」恐るべき欺瞞。そして、何たる恐るべきか、キリングフィールド・ジツ！　4

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これほどの一方的な制限を強いる能力であれば、使用者自身も過大な負荷を強いられる筈。そのコストの歪を突くことができれば……！フリージアは凄まじいニューロン速度で打開策を探した。だが、時は無情。ホローポイントは二挺拳銃を構えた。「クソッ！」フリージアは立ち向かう！ヤバレカバレ！　5

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BLAM！BLAM！BLAM！BLAM！BLAM！BLAM！BLAM！BLAM！銃弾の嵐はフリージアの回避行動を容赦なく破り、四肢を、バイタルゾーンを撃ち抜き、破壊していった。フリージアの身体が砕け、塵が、血が、風に乗って散ってゆく。「サヨナラ！」走りながらフリージアは爆発四散。ドライアイスめいた風が吹く。　6

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風が吹き抜ける。ホローポイントは膝をつき、手で顔を覆い、震えている。ドライアイスめいた風が吹く。吹き抜けると、うずくまるホローポイントは、あの死神めいた女が傍らに立ち、薄ら笑いを浮かべ、優しく頭に触れているのを感じる。ホローポイントは絶叫する……。　7

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「オニイ……ホローポイント＝サン！ヒカエナスッテ！」駈け寄るブルハウンドが、ホローポイントに意識を取り戻させた。「イヤーッ！」「グワーッ！」反射的な殴打！ブルハウンドは顔を押さえ、倒れ込んだ。「ヘ……ヘヘ……さすがですぜ。殺ったんですね。いい気味だぜ、あの野郎」　8

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「恨みがあったのか？」「俺の事はいいじゃないですか……だけどよ、こういう機会に溜飲を下げなきゃやってられねえんで」「テメェナメるなよ」「ナメちゃいません……！中央区への最短ルート、これ間違いなしですぜ」「オイ。それ拾え」路上、フリージアのIRC通信機のLEDが明滅している。　9

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「エッ……」怪訝そうにしながらブルハウンドは通信機を拾う。『モシモシ。モシモシ』音声が聞こえる。ブルハウンドは息を呑み、ホローポイントを見る。残忍な目が見返す。ブルハウンドは意を決して応答した。「モ……モシモシ。ゲホッ、ああ、奴は逃げた……ゲホッ、すまん、声がな……喉を」　10

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『時間通りだとよ。お前、巻き込まれたくなければ脱出の準備しとけ』「何？」『どうした』「いや音声が不明瞭で……準備？」『予定通り、中央区ごとクソ共を一網打尽にする』「え？」『イチモ・ダジンだ』「……」『お前、フリージ』ブツン。ブルハウンドは通信機を踏み壊した。「バレるとこだった」11

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「……次のニンジャを捕まえるぞ」ホローポイントは言った。「え？合流重点じゃないんですか」「イヤーッ！」「グワーッ！」右拳！「イヤーッ！」「グワーッ！」左拳！「テメェがテキトウな訊き方してッから、情報が足りねェんだろうがよ……！中央区、イチモ・ダジン、そういう話だろうが！」　12

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「し……しっかり聞いてるんですか……流石ですぜ。ま、まあ今の通信じゃこれが限界ですわ。敵も用心深いんで」ブルハウンドは弱々しく笑った。「確かに何かヤベェにおいがしました。だが俺が聞かせれてねェ話ですね。まあ俺は早々にマークされちまってましたからね……」　13

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「中央区にソウカイヤが集まってる……フフフ」セキュリティ格子越しにブティックのショーウインドウの中のマネキンの装いを眺めながら、ディアボリカが呟いた。「集めてるって事かしらね」BLAMN！ホローポイントはディアボリカを撃ち、消去した。「だからその話だ、つってんだよ」　14

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「エ？何ですか？」ブルハウンドがビクリとした。ホローポイントは睨んだ。「何でもねえ。ナメてんのか？」「いいえ！し、しかし……どうしましょうか」「どうしましょうか、じゃねえ。ナメてんのか？」ホローポイントはその場に座り込んだ。「他の奴がここに確かめに来るだろ。そいつをシメる」　15

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「ここで待つんですか」「イヤーッ！」「グワーッ！」「テメェがスットロい受け答えしてッから……偽装がバレてんだろうが。ア？通信の途中で、偽装仕掛けたやつがバックレた、そりゃ確かめに来るだろうがよ」「ヘ、ヘヘ……そうですよねェ……スンマセン……」「早く来いよ……クソッ……」「え？」16

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「早くブッ殺さねえとよォ……どうにもならねえだろうがよ……」「そ……そうですね？」「どうして俺はこんなくだらねえ場所で足留め喰らってんだよ……ふざけるんじゃねえ……おかしくなっちまいそうだからよ……殺さねえと」「……」ブルハウンドはごくりと唾を飲み、出かかった言葉を封じた。　17

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「オイ。見張っとけ」「え？」ホローポイントはブルハウンドが見ている前で、腕を捲り、懐からZBRを取り出した。ブルハウンドは顔をしかめた。「お、俺の足抜けの件、頼みましたよ？」「遥かにいい」ブルハウンドは怯えた目で周囲を見渡す。近づいてくるニンジャの気配があった。哀れな。　18