[R-18]魔女シリーズ4~たたら場で使い潰されそうな少年を拾った女剣鬼がおもちゃにする話

火妖グラウすなわち赤烈火のグラウルドと剣の魔女ジャジャすなわちジャズィランテの物語 ほかのお話は以下 魔女シリーズ一覧 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

>たたら製鉄で使い潰されようとしていたショタと、剣を打たせに来た剣鬼おね。ショタが身の回りの雑用や剣の整備を条件に旅に連れ… odaibako.net/detail/request… #odaibako_alkali_acid

2018-07-22 14:07:40
帽子男 @alkali_acid

剣鬼おね。 剣鬼とは。 体が剣でできているやつか。

2018-07-22 14:08:30
帽子男 @alkali_acid

蝉しぐれ鳴く辻。長く伸びる影二つ。 片や毛皮にとがり耳の老爺。両目は閉じ、杖にすがっている。 片や着流しをまとう眼帯の女。長い四肢の関節から先を籠手足甲で覆っている。 獣人の翁が先に口を開く。 「あんたが剛刃羅刹と異名をとる姐(ねえ)さんかね」 「くだらねえ名だ」 返事は磊落。

2018-07-22 14:14:58
帽子男 @alkali_acid

隻眼の女はだるそうに首を回した。 「そっちはあれだ。奴隷泥棒の元締めだ」 「ときどき暇つぶしにやるがね。本業は人相見(にんそうみ)さ」 「つぶれた目で人相が見れるのかい?」 「ああ…見れる。お前さんのも見てやろうか」 「要らねえ。それよりさっさと戦(や)ろうや」

2018-07-22 14:20:07
帽子男 @alkali_acid

着流し姿の方が、羚羊(かもしか)のごとき両脚を開いて、両腕を広げ、構えをとる。 だが盲(めしい)の方は突き出た鼻で匂いをかぐような仕草をしただけで、まだ動こうとしなかった。 「どのみち先の短い身だ。好きにさせてくれんかね」 「はん」 「あんたは…どん底から這い上がってきたおひとだ」

2018-07-22 14:22:44
帽子男 @alkali_acid

翁がしわがれ声が告げるのを、女は黙っていなした。 「おのれの強さだけを頼りに、ここまで昇ってきなすった…」 「ごたいそうな口を利くね」 「生まれついて高みにあるものも、落ちるのは一瞬。だがまた登るのはたやすくない。低きに生まれて、あがくのはなお…」 「ごちゃごちゃと…」

2018-07-22 14:25:54
帽子男 @alkali_acid

年経た獣人はかっと白くにごった双眸を開いた。 「剛刃羅刹…あんたの先に、身を焦がし温める真赤な火と、救いのない暗い穴が見える…覚悟しておくがいい」 「そうかい!」 着流しの女の四肢が一瞬で鋭利な刃に変わる。両腕、両脚が旋風となって標的に襲い掛かる。

2018-07-22 14:28:56
帽子男 @alkali_acid

翁は仕込み杖から剣を鞘疾(さやばし)らせていた。 どちらも迅雷の早業だったが、先を制したのは羅刹の右のひと蹴りだった。 膝から伸びる刀が、毛むくじゃらの喉笛を裂き、血霧を噴かせる。 一方、老いさばらえた腕が放った斬撃は、対手が防御にかざした左肘から伸びる刀に食い込んでいる。

2018-07-22 14:32:57
帽子男 @alkali_acid

崩れ落ちる盲目の剣士を、隻眼の剣士はゆるやかに息をついて見下ろした。 「…たいしたじじいだ」 返り血もぬぐわず、短い賞賛の言葉を述べると、四肢を再び元のかたちに戻して、踵を返す。ただ左の腕だけはいびつにねじくれ、小刻みに痙攣していたが。

2018-07-22 14:35:38
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「羅刹の姐さん。聞いたぜ。またお尋ねものをやったってなあ。今度は大物じゃねえか。奴隷泥棒の元締め、暗眼夜叉のじじいを仕留めたと」 「うるさいねえ。黙って酒ぐらい注げないのかい」 興奮気味にしゃべくる酒場の亭主に、 侠客は左腕をだらりと下げたまま、右の義手で杯をあおる。

2018-07-22 14:38:01
帽子男 @alkali_acid

「あのじじいは労役人種だけじゃねえ。食用人種までかっさらってたとんでもねえ悪党だ。どれだけ牧場主の方々が迷惑を」 「黙れと言ったんだよあたしは」 隻眼がにらみつけると、さすがに男は静かになった。

2018-07-22 14:40:22
帽子男 @alkali_acid

羅刹は、金属の指でとらえた陶器の器をのぞく。水のように澄んだ酒がなみなみと満たしてある。東洋の海霊が藻をかもして仕込むという舶来のきつい銘柄だ。一息に干してから、長台のむこうで神妙にしている亭主に問いかける。 「それより…このあたりに、神鋼の武器を打ち直せる鍛冶場はあるかい」

2018-07-22 14:44:13
帽子男 @alkali_acid

「神鋼だって?牧場主…つまり神仙の方々がお使いになるあのすごい…あれかい?いやー…ひょっとして、姐さんのその両手両足についてんのは」 「訊いたことに答えな」 「…そうだな…そういや神仙の方が作ったたたら場が一つあるそうな。労役人種の俺達にゃ縁がないなら姐さんなら…」 「よし」

2018-07-22 14:46:21
帽子男 @alkali_acid

相変わらず左腕をたらしたまま、着流し姿が立ち上がって身を乗り出す。 「詳しいことを教えな」 「すぐに…書付か何かいるかい」 「口で言えば覚えるさ。さっさと」 「はい、はい」 男が奥へ引っ込んで詳しいものを探しにいくと、女はまた腰をおろして、鼻から息を吐いた。 「めんどうなこった」

2018-07-22 14:48:41
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ たたら場は四つの山が囲む盆地にあった。 この世ならざる力を振るう、神鋼の作り上げた不思議なしかけが数多はたらき、神鋼という金属でできた甲冑の武者が門番をつとめていた。中身はがらんどうで、うつろな面頬の奥から暗い虚無が訪れる客を見つめていた。

2018-07-22 14:51:40
帽子男 @alkali_acid

剛刃羅刹と異名をとる女が、同じ素材でできた義手を見せつけると、命なき歩哨はわずかな動きで道を空ける。 中に入ると、すぐ働いている奴隷が目に付く。珍しい人種ばかりだ。 神鋼の鎖につながれた透き通った青い肌の男が、水盤に半ば浸かり、縦横にはりめぐらせた樋や堀に流れを行き渡らせている。

2018-07-22 14:55:52
帽子男 @alkali_acid

塔の上にはやはり神鋼の枷がはまった老婆が三人。黄の翼を生やし、風をまといつかせ、ふいごに息吹を送り込んでいる。 皆疲れ切っているようだった。 「魔女よ。何用か」 差配らしき壮年の獣人が語り掛けて来る。耳に神鋼の輪をつけている。 「あたしは魔女じゃない」

2018-07-22 14:59:37
帽子男 @alkali_acid

「いずれにせよここはあなたの来るところではない」 羅刹は食い下がった。 「義手を一つだめにしちまった。新調したいんだ」 「神鋼を分け与える許可はおりていない」 「交換だ。このぶっ壊れた義手くれてやるよ。こいつもまじりけない神鋼だ」 「…なるほど見てみよう」

2018-07-22 15:01:32
帽子男 @alkali_acid

女剣士が指で左肘の継ぎ目をなぞると、淡い輝きがあってから義手が外れる。 「頼むよ」 「不思議な…神仙の細工だな…我々労役人種に同じものが作れるかどうか…しかし神鋼の武器が傷つくとは、何があった」 「やたら腕のたつじじいに切られたんだよ」 「じじい?」 「ああ…ほら奴隷泥棒の元締めの」

2018-07-22 15:04:13
帽子男 @alkali_acid

あまりしゃべくるのが好きではない羅刹だったが、得物をあつらえるためであればいたしかたない。たたら場の差配はしばし身を固くした。 「暗眼夜叉のクォンか」 「そんな名だったかね」 「…死んだか…あの男も」 「知り合いかい」 「いや…そうか…魔女よ…」 「あたしは魔女じゃない」

2018-07-22 15:06:14
帽子男 @alkali_acid

毛むくじゃらの男は、義手義足の女を見つめた。 「クォンが…奴隷をさらって、"魔女の森”へ逃がす一味の頭だったのは知っているな」 「聞いた覚えはあるね」 「牧場主…神仙にとっては目ざわりな男だった」 「それが?」 苛立ちを抑えて剣士が問うと、たたら場の差配はしばし口ごもった。

2018-07-22 15:09:26
帽子男 @alkali_acid

「そうか…お前は剛刃羅刹…牧場主達のために、クォンのような野良犬を狩る女か…」 「あんたは手より口を動かすのが得意みたいだね」 「…神仙のためにはたらくものの頼みとあらば、断れぬ。うちの炉はそろそろ寿命だがあと一回ぐらいなら役に立つだろう」

2018-07-22 15:12:15
帽子男 @alkali_acid

獣人は尾をたらしながら背を向けた。 「見ていくか。神鋼を作るところを」 「ああ」 「ではついてくるがいい」 先に立つ毛むくじゃらの男に、着流しの女はおとなしく従う。

2018-07-22 15:13:45
帽子男 @alkali_acid

たたら場の中は暑かった。 肝心の炉は、朱砂を敷き詰めた円形の広場に神鋼の鎖でつないであった。 煌めく真紅の鱗をした蜥蜴(とかげ)と、人間の少年を一つにしたような形をしている。 「あれは火妖だ。神仙がやつらの国々を滅ぼす前は、王家の血筋だったという」

2018-07-22 15:17:26
帽子男 @alkali_acid

とがり耳の男が説明するのを、着流しの侠客は眉ひとつ動かさずに見下ろした。 「…本来なら神仙が不老長生を保つための薬の材料となるべき食用人種にふさわしいが、あれは先祖返りがきつくて役に立たない。故に炉に回した」 「先祖返り?」 「火妖の先祖は人よりもっと蜥蜴に近かったという」

2018-07-22 15:19:33
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