[R-18]魔女シリーズ6~ヘドロめいたババアがかわいい少女に惚れるが悲恋で終わる百合・前編

泥婆(どろばばあ)こと青海嘯ヘドローバと 見習いのドゥドゥすなわち飾の魔女ドゥニドゥニエンヌの物語 ほかのお話は以下 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

ヘドロめいたクソババアがかわいいロリに惚れるが当然ながら悲恋で終わる百合

2018-08-15 21:30:17
帽子男 @alkali_acid

ヘドローバは年寄りで、見た目はもう人のかたちに見えないぐらい灰色のどろどろした塊で、おまけに磯みたいな悪臭を放っていて、若い親戚の多くからも疎まれていた。孤独死していなかったのは、昔の凶暴さと今の狡賢さを皆が怖がっていたから。

2018-08-15 21:34:01
帽子男 @alkali_acid

いちおう一族の知恵袋という扱いではあったが、本当は陰に回って立場の弱いよその連中をいびったりつつきまわしたり、あれこれ汚い仕事を引き受けて居場所を保っていた。だから美しく勇ましいますらおなどは、「泥婆(どろばばあ)」などと蔑んでいた。

2018-08-15 21:39:01
帽子男 @alkali_acid

もっともヘドローバは、男などはじめから興味もなかった。もはや女とて同じようなものだが。 媼(おうな)はいつも不機嫌で、意地悪で、とげとげしく、とりつくしまもなかった。

2018-08-15 21:40:53
帽子男 @alkali_acid

もちろん老婆が昔からそうだった訳ではないし、麗しさや健やかさ、心のふれあいを欲した日々もあった。当たり前だ。 誰も彼も生まれながらに怪物ではない。

2018-08-15 21:42:30
帽子男 @alkali_acid

ヘドローバにもみずみずしくすこやかだったころはあって、当時の名残というかよすがのような部分もわずかにないではなかった。 飾りもの集めがそれだ。

2018-08-15 21:44:10
帽子男 @alkali_acid

ヘドローバは、ほかに近づくものとてないよどんだ泥濘をあさっては、深みに沈んだがらくたを集め、時に美しい細工を見つけた。盗人が逃げる途中で捨てたのか、商人が運んでいる途中にこぼれ落ちたのか、腕飾り、足飾り、腰飾り、首飾り、胸飾り。真珠に珊瑚に鼈甲に青貝。海藻で作った紐でつないで。

2018-08-15 21:48:13
帽子男 @alkali_acid

もちろん媼は集めた飾りものを人前で身に着けたりはしなかった。似合うはずもなかったし、侮りを受けるのはがまんならなかった。誰もいない暗い淵におりて、こっそりとひとりで楽しむのだ。

2018-08-15 21:50:14
帽子男 @alkali_acid

泥のような怪物が、きらびやかな宝をつけてよたよたと踊るさまのなんと滑稽だろう。日の光の届く浅瀬ではさぞやみっともなく映るに違いない。 けれども闇の底では、空想の助けが、力強くしなやかなおとめにしてくれる。 いつも怒った海栗(うに)のようにふるまう年経た女の、唯一の甘さだった。

2018-08-15 21:54:36
帽子男 @alkali_acid

一族のために汚れ仕事をこなすかたわら、あいた時間に泥濘をあさりまわるうち、やがてヘドローバは気づいた。飾りの多くはどうやら新しい。しかも誰かひとりが作った品だ。 淵に流れ込む潮をさかのぼると、どこから来たのかも分かる。 思わず舌打ちをする。陸(おか)の人間のところらしい。

2018-08-15 21:58:04
帽子男 @alkali_acid

「おぞましや」 拾った飾りものを放り捨てようとし、しかし泥濘に落ちる寸前でまた掬い取る。 「…これきりとするわえ」 襞になった腹のあいだに真珠の房飾りを収めて、媼は深みから遠ざかっていった。

2018-08-15 21:59:34
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ ドゥドゥは縮れた髪と丸っ鼻をした、ちびの女児で、いつも勉強をさぼって隠れて飾りものを作るのが好きだった。手当や看病、豊漁の祈願や、厄除け、汐読みといった術はまるで身につかなかったが、指先を使う細工なら島の大人の誰よりも上手だった。

2018-08-15 22:02:07
帽子男 @alkali_acid

「お師さま方よう、おら、魔女には向いてねと思うだ。飾りものづくりになりてえ」 そう何度か訴えたのだが 「ばっかこくでね。おめが魔女に向いてよが、いめが、どっちでもええこっちゃ。魔女はなりてが足りねえんだ。さっさとおつとめしろや」 五人いる魔女は年寄りで頑固で、聞く耳もたなかった。

2018-08-15 22:05:07
帽子男 @alkali_acid

「えーやんだあ…」 「やんだじゃね!おめみてえな縹緻(きりょう)もわりぃみなしごが、魔女になるほか、島で生きてけるはずもね。さっさとおつとめしろや」 「はーい」 だがドゥドゥはさぼった。できるかぎりさぼった。

2018-08-15 22:06:37
帽子男 @alkali_acid

死んだ父の古い釣り船で珊瑚礁にこぎだし、死んだ母と姉の貝筏に隠れ、ひたすら飾りものを作った。そうしている時だけが楽しかった。 「うっし、今日のはうまくできただ」 島に戻ると、こっそりと森の奥に向かう。めざすはほかのものは恐れて近づかぬ海霊の祠。

2018-08-15 22:09:16
帽子男 @alkali_acid

祠には塩辛い湖があって、どうやら大洋と通じているらしかった。ものを放り入れると吸い込まれて戻ってこない。作った飾りものの証拠隠滅にはもってこいだった。 「ぽーいっと、へへ。これなら、お師さま方も見っけらんね」 女児はにんまりして引き上げる。

2018-08-15 22:11:48
帽子男 @alkali_acid

学びの庭に裸足を走らせる途中、水平線のかなたに黒雲の帯を見出す。 昔、父が生きていたころ、一緒に船の上でかわした会話がよみがえる。 「おっ父、なんだべ?」 「おー。海霊様のお怒りだべ」 「海霊様?」 「海霊様はな。おら達島のもんを守ってくださるだ」

2018-08-15 22:14:17
帽子男 @alkali_acid

日に焼けた漁夫の顔が厳しくなった。 「海のむこうでな。性の悪い連中がのさばっとるだ。そいつらはな、おめみたいな子供を見つけるとびゃーっと、さらにくるだぞ」 「ひええ」 「だども、海霊様が守ってくださるだ。だからドゥドゥは怖がらんでええ」

2018-08-15 22:16:39
帽子男 @alkali_acid

海霊は人間に似ているが、透き通った青い肌をして、波の下に暮らしているのだという。男も女も美しく、健やかで、心やさしいが、悪いものには容赦をしない。 島の民は古くから海霊に感謝をささげ、魔女を仲立ちとして供物を献じてきた。 「海霊様かあ…おらの飾りもの…喜んでくれるだかなあ」

2018-08-15 22:18:42
帽子男 @alkali_acid

天際のかなたで沸き起こる雲と閃く雷を眺めながら、女児は丸っ鼻をうごめかせた。

2018-08-15 22:20:04
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 嵐のあいだを、あまたの戦船(いくさぶね)が守る荷船(にぶね)の一団が進んでいた。だが波が壁のように立ちふさがると、巨大な人型になって、冥々たる拳を振り上げて、先頭の一隻を粉砕する。 海霊の大酋長。 吠え猛り、稲光を背に深淵の双眸を開き、虚無のおとがいを広げて脅す。

2018-08-15 22:22:12
帽子男 @alkali_acid

まだ無事でいる戦船のへさきに、獣と人の合の子のような影があらわれ、祈りをささげると、かすかに波濤の化身はひるむが、どこからともなく魚骨の吹き矢が飛んで毛むくじゃらの姿を射落とす。

2018-08-15 22:23:46
帽子男 @alkali_acid

海霊の大酋長は、いっそう恐ろしい雄叫びとともに潮の腕をふるい、次々に標的をしずめ、ばらばらにする。 やがて船団に助太刀すべく渦潮の下から、鋼でできた鯨のような乗り物があらわれ、銛を撃ち出すが、むなしく水の絶壁に吸われる。

2018-08-15 22:25:59
帽子男 @alkali_acid

荒れ狂うわだつみの主は、奇妙な金属の水獣をつかみとると、めちゃくちゃに振り回してから、空のかなたに放り投げる。 かくして無防備となった荷船に、より小さな海霊がまとわりつき、水流の鞭を振るって船材を押し開き、竜骨をへし折って崩壊させていく。

2018-08-15 22:28:27
帽子男 @alkali_acid

荷船が積みこんでいたのはあまたの檻。 鋼の鎖につながった海霊や、真紅に燃える蜥蜴に似た種族、黄金の羽毛を持つ鳥に似た種族などがあまた捕まっている。それぞれを深みからあらわれたものどもが救い出し、荒波をかきわけていずこかへ運び去る。

2018-08-15 22:30:10
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