モロゾフ、逆立ちしたケイン・コスギを巡って

まちゃひこ／大滝瓶太 @macha_hiko

とある作家の鶴の一声により、およそ十数名の精鋭が招集され、ついに知の巨人にして世界最高峰の無国籍多言語作家エメーリャエンコ・モロゾフの膨大な文献の編纂プロジェクトが始動した

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エメーリャエンコ・モロゾフは小説を書くとき、まず小説を書くことからはじめる。そして「よく書けている」箇所を徹底的に削ぎ落とし友人に読ませるのだが、そのテクストを読む友人が味わうのは純粋な苦痛である。 「これなんだよ」モロゾフはいう。「小説とはつまり逆立ちしたケイン・コスギなんだ」

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無国籍多言語作家エメリヤーエンコ・モロゾフは高校時代に陸上部に所属しベンプレをあげる生活を送るなか、夜は現代詩を牽引する詩人になる女子高生とネカマとして交流し、「好きな人いる？タイプは？あ、『好きになったひとがタイプ』ってのはなしで！」などのガールズトークに花を咲かせていた。

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そんな彼ではあるが詩人たる才能も発揮していた。ネカマ女子高生として、件の未来の女性詩人と「いかに文学おじさんをキュンキュンさせるか」を競ってネットでの詩の投稿を続け、文学おじさんからは「女性性を感じる」との評価を下される。言語的ジプシーでなりながら、性的越境をも果たしたのである。

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悪友が、「おまえも翻訳をやっているならモロゾフくらい読んでおけ」というので、最近エメーリャエンコ・モロゾフの翻訳をはじめたのですが、さっぱりわからず困っています。「逆立ちしたケインコスギ」って直訳なんですが、これで合ってるんですかね？ twitter.com/macha_hiko/sta…

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モロゾフがケイン・コスギに出会ったのは10歳の頃である。しかしそれがケイン・コスギだと認知したのは14歳になってからである。テレビ番組「筋肉番付」で跳び箱を飛び、落下するバレーボールに手を伸ばす彼に、モロゾフはオリンピア的な美ではなく、テクストとしての生を感じていたという。

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モロゾフの文学、ひいては人生において致命的な影響を与えたのはスポーツマン決定戦だった。ケイン・コスギは優勝をかけたショットガン・タッチで、13m（じゅうさんみーたー）をコールする。緊張が走る会場の様子を、モロゾフは時空を隔てたブラウン管の向こうで手に汗と性器を握り見守っていた。

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ケイン・コスギは勢いよく走り出す。しかし結果はだれも予想だにしないものだった。バレーボールが落下すらしなかったのである！ 疲労と焦燥を湛えた表情で虚空を見上げるケイン・コスギ。スロー再生による審議によれば、かれは投射ボタンを押していなかった。ボタンに触れてすらいなかったのである！

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その様子をモロゾフはお年玉で買い溜めたプロテイン（バナナ味）を飲み、勃起のコンディションを確かめながら見ていた。言うまでもなく完全に気が散っていたわけだが、そのときのケイン・コスギの姿をかれは生涯忘れなかった。「逆立ちしたケイン・コスギ」とは象徴やメタファではなかった。

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逆立ちしたケイン・コスギのように、モロゾフはベンチプレスをあげた。それにより見えたのは、文学における肉体性（直訳）である。 ※訳者注 従来、文学における文体の議論は「身体性」という語彙があてられるが、モロゾフは「肉体性」という言葉に生涯ただならぬ執着を示している。

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モロゾフ、訳せば訳すほど、ほんと合ってるのかわからなくなる

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「逆立ちしたケイン・コスギ」のイマージュを見出したモロゾフは興奮を抑えきれず中谷康太（出席番号13番）に事の詳細を伝えた。中谷はときおり思慮深く頷いたりしてみせながらモロゾフの主張に耳を傾けた。そしてかれは口を開く。 「物理的な意味において、ケイン・コスギは比較的よく逆立ちをする」

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モロゾフ伝記をちらちら読んでるんだけど、レニングラードで無双するとこめっちゃ好きなので、だれか翻訳して欲しい