エメーリャエンコ・モロゾフ『抄録 カッサンドラ・ニーハオ』

鼎雄一・櫟諒による抄録版翻訳
0
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

『カッサンドラ・ニーハオ』エメリヤーエンコ・モロゾフ著, 櫟諒、鼎雄一共訳 第1話「戒名は『死体』」本編16ツイート、予告1ツイート

2015-08-21 00:00:15
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

ピピーピピッピッピッピッピー! ピピーピピッピッピッピッピー! ピピピピッピッピッピッピーピピピピッピー! ピピピピッピー! ピッピピーピーピーピ! ピピピピーピピピーピーピー! ピピピピーピピ! ピーピピピーピ! ピピーピピピーンピンピーン!(OPテーマ『モロゾフクエスト』)1

2015-08-21 00:02:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

さてデスバレーの地で公安の大本警部を救い干からびて死んだ私、モロゾフは、この宿敵の手により美しい国である日本へと護送されたが、それは政権が信奉するネオナチの優生学に基づいてテロリスト遺伝子の有無を調べるためであり、長時間にわたる精密な司法解剖の結果、死因は司法解剖と断定された。2

2015-08-21 00:04:02
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

亡骸は生前の愛国的功績から著名な寺に預けられ、織田無道似で霊感商法を副業とする高僧、および官邸からの接待で回された人気アイドルとの情事が暴露されたお茶目な裁判官により、略式の葬儀と裁判が行われ外観誘致罪で改めて死刑となり、即日公訴棄却と同時に火葬された。戒名は「死体」であった。3

2015-08-21 00:06:04
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

火葬は辛苦を極めた。動物の骨の敷き詰められた棺桶の狭苦しさから来るストレスに、この国では人権主義の豚のような先進国と違い愛国のヘイトスピーチは規制されていないので、私はひたすら愛国しながら日本人の精神的劣等性を論理的に説明した。「ジャップ!」「ブルシット!」「サノバビッチ!!」4

2015-08-21 00:08:05
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

すると突如としてなぜか四方から炎が噴き出し私の体を焼き始め、私はパニックになり叫んだ。「ゴアアアア!!!」諸君、いったい何の報いか。東京一帯の爆破をSNSでテロリストと計画しただけでこうなるとは。ネットでの不用意な発言は往々にして災難を招く。覚えておきたまえ、これが炎上である。5

2015-08-21 00:10:02
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

指先、手足から炭となり灰となり、作業員も慣れたもので「アーイ」などと言いながらヘラみたいなもので胴体を裏返しまんべんなく焼いていく。やがてほぼ煙と化した私は、薄れゆく意識の中で最期に愛国的態度を示すため、残った前立腺で思考しアナルで「クールジャパン!!!!」と絶叫し、消滅した。6

2015-08-21 00:12:01
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

そう、すべてはアナルなのだ。かつてプルーストは『失われた時を求めて』の中で、紅茶に浸したプティット・マドレーヌの味から主人公にこれまでの人生を想起させたが、私もこのときに何もかもを追憶した。濡れた口と焼かれた肛門の対比、つまり、プティット・アスホール。彼が食うなら私は出すのだ。7

2015-08-21 00:14:05
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

一年ほど前、某有名予備校講師の名を騙り娼婦と寝るのが趣味だった。私はマゾであり、全裸に目隠し、亀甲縛りで股を開き「いつヤるの?」と嘆きながら言葉責めされるのは実に興奮する。「ねぇ先生」娼婦シズクのあでやかな声が、耳をくすぐる。「物理のグラサンとデキてるって本当?」「デマでしょ」8

2015-08-21 00:16:02
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

シズクは追撃を緩めない。「ねぇ先生、初体験の相手ってだれ?」「ママでしょ」「ねぇ先生、最近オナニーしたときのオカズはなんだった?」「食戟のソーマでしょ」「ねぇ先生、どうして人は人を殺したり、裸で罵られて喜んだりするの?」「人類永遠のテーマでしょ」なんたる屈辱、それがたまらない。9

2015-08-21 00:18:01
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

ある日プレイ前のカウンセリングで何か月も温めていた腹案を述べた。「今日は君の局部を『アベ内閣』、私の局部を『憲法9条』と呼んでみないかい」シズクは拒絶するというよりも意味が分からないといった様子で「なぜ」と言った。やれやれ若者の政治ばなれもここまできたか。私はニヤリ苦笑した。10

2015-08-21 00:20:04
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

「私は保守だよ。現代日本の愛国心とは戦後レジームへの反発を私生活上のルサンチマンと重ねた情念だが動物化したネット社会において直截的に性欲ないし果たされないその抑圧として発露するのだ。三島由紀夫はそれを予見していたが女性器に金閣を見ただけの独我論で終わった。私は彼を超えるのだ」11

2015-08-21 00:22:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

シズクは「そう? オプション20000円で引き受けるよ」と言った。「半額にしてくれ」「だめ」ジーザス! 私は哲学的実践のために譲歩した。「全額払おう。でも君がオーガズムに達するときは『アベ内閣おかしくなっちゃう』と報告してね」「達するだろうか」「頼む達してくれ」「善処するよ」12

2015-08-21 00:24:05
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

プレイ直前にシズクは「クリトリスはどう呼ぶ?」と聞いてきた。「『A級戦犯』かな」「アナルは?」そう、すべてはアナルなのだ。私は彼女にアナルを拡げて見せ「このデザイン、旭日旗じゃないか。こんな崇高なものが男女で2つもあるんだ。呼び方なんて決まっているだろう。もちろん万世一系の」13

2015-08-21 00:26:02
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

こうして夜は更けていき私は存分に楽しんだ。シズクも徐々に慣れ気に入ったようで、最後は集団的自衛権を行使する安保法制に反対して各地でデモが起き、それに勢いづく野党が与党と大いに争うことになったのだが、問題はそこではない。「ねぇ先生、どうしてこんな変態になったの?」「それは――」14

2015-08-21 00:28:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

ただはらはらと涙がこぼれるばかりであった。変態ではない断じて変態ではないが、哲学者としての一面を受け入れてくれたシズクの言葉は、まるで大腸が余計な水分を吸収するみたく心へと染み入ったのだ。ああ。私は堰を切ったように話し始めた。幼少時代の出来事を。「延長料金」との声も聞かずに。15

2015-08-21 00:30:04
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

――これから記すのは真実の愛の物語である。また、とある戦争と死と友情と旅の物語でもある。時は1841年、私は9歳。舞台はデスバレーへ飛ぶ。大丈夫、冒頭でピーピー鳴っていたのはテーマソングではなく、私がなんか言いたくなって言っていただけである。安心してほしい。それでは始めよう。16

2015-08-21 00:32:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

『カッサンドラ・ニーハオ』エメリヤーエンコ・モロゾフ著, 櫟諒、鼎雄一共訳 第2話「アルプスから来たイディオット ハイジ」本編10ツイート、予告1ツイート

2015-08-29 00:00:11
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

むかしむかし、あるデスバレーに私がいた。私は9歳で、夢を見ていた。きらきら光る川面の底に、いつか語り聞かされた魚たちの王国があるのだと想像していた頭をなでられる感触、振り向くと形のない、ただ母とだけわかる靄がたぶんやさしい笑みを浮かべていて、その両眼には瞳が縦に2つ並んでいた。1

2015-08-29 00:02:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

「ママ」次第に拡散する母がゆっくりと私を包んでいき、肌へ浸透するように重さと温みを与える。抱かれているという記憶にない認識に感覚が痺れていくのを感じながら、自分が実体としての母を知らないことを私は知っていた。「誰?」彼女のそれぞれの眼で瞳が分裂を始め、4つそれから8つになった。2

2015-08-29 00:04:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

靄は完全に私を白く取り巻いて、川どころか周囲のなにも見えなくなっていた。計16の球体が白目の中を移動し始め、あるものは停止しまた動き、あるものは弧を描いて止まらない。「ママ?」きっと何か言いたいんだ。何が? 私はもう視線を外さず移ろいの規則性を探した。すると「マシュー!!!!」3

2015-08-29 00:06:04
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

私は起きた。もう靄も母の瞳も見えず、いつも一人で寝ている部屋の壁、たまに触れては話しかけている並んだ丸太があるばかりで、なおも夢の残滓にぼんやりしていたら「マシュー!!!!」胴体に強い衝撃を受けて私は転がり、回る視界の隅に姉であるアビゲイルが襲い掛かってくるのが見えた。「殺す」4

2015-08-29 00:08:06
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

蹴り飛ばされた、とわかったときには上からのしかかられ、両足でアビゲイルの右ももを挟みハーフガードに移行したものの、彼女は全裸だったので滑って抜け出され、マウントからの鉄槌を食らった。「おつかいの時間なのになんで起きない!」どうやらセックスを中断して来たのでいらだっていたらしい。5

2015-08-29 00:10:04
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

アビゲイルと父は近親相姦の関係にあった。いつから始まったのかはわからないし父に真意を問うたこともなかったが、母がいなくなった寂寥を紛らわすための倒錯らしかった――無知だった私は倒錯とも思っていなかったけれど。アビゲイルは「世界で一番ママに近いのがアタシなのよ」と誇らしげだった。6

2015-08-29 00:12:03
モロゾフプロジェクト @morozofuproject

結局おつかいの装備を整えるまでに165回ほど殴られた。「マシュー、あなたはママとパパがファックした生まれた物質なんだから家の役に立たないと駄目よ」アビゲイルはそう言って父親の部屋へと入り、ほどなくして響き始めた嬌声を後に私は家を出た。装備の中身は金である。これを売りに行くのだ。7

2015-08-29 00:14:02