憲法学者の井上武史先生による「共同親権」制度の国際比較

国ごとの違いが面白い
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リンク 弁護士ドットコム 「共同親権持てないのは違憲」親権裁判で新たな動き、憲法訴訟手がける作花弁護士が支援 政府が共同親権の導入を検討していると報じられている。日本では、子どものいる夫婦が離婚した場合、夫か妻、どちらかが親権を持つ「単独親権」となることが、民法819条によって定められている。しかし、この親権... 16 users 152
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

bengo4.com/c_3/n_8418/ 「ある裁判で、単独親権が憲法違反だとして、離婚訴訟中の夫が共同親権を主張しているのだ。助言しているのは、2015年12月に最高裁で女性の再婚禁止期間の違憲判決を勝ち取った岡山市の作花知志弁護士。」 9月27日に判決が出るようなので、要注目ですね。

2018-08-24 15:02:13
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

どういう憲法上の主張がなされるのかは興味深いです。単独親権制度についてドイツ連邦憲法裁判所は1982年に違憲判決を下していますが、その根拠は基本法(憲法)6条2項の「子供の保護及び教育は、親の自然の権利であり、先ずもって親に課せられた義務である。」という規定に反することのようですね。

2018-08-24 15:16:15
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

裁判所がどう判断するかはわからないですが、近年では婚外子相続分違憲判決など、各国の法制度の動向などが考慮される傾向にあります。ただ、親権は財産とは違って割り切れない面もあり、また違憲とした場合の実務上の「後始末」の問題もある中、立法なしにそこまで踏み込めるかどうかは問題ですね。

2018-08-24 15:52:44
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

本件のように法制度の合憲違憲の問題を私人間の紛争の中で争う違憲審査制度も問題です。単独親権を主張する親も法律の合憲性を擁護できる立場にはないはずです。こういう争いには、法律の合憲違憲それ自体を争点に設定できて、制定した国を関与させられる憲法裁判所制度が優れているような気がします。

2018-08-24 16:05:20
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

他国も気になって調べたところ、ルクセンブルク憲法裁判所は2008年、離婚後単独親権とする民法を法律の前の平等(憲法10条の2)に反し違憲と判断しています。父母が婚姻中、別居中、離婚後かどうかで、両親の子に対する関係に違いを設けることに合理性はない、というのが実質的な理由のようですね。

2018-08-25 18:50:14
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

なお民法の規定では、離婚後又は別居中は父母の何れかが単独で親権者となり監護権を付与される一方、別居親には訪問権(面会交流権)と同居親に対する監視権が留保される、となっています。単独親権者による虐待やネグレクトの防止と関係があるのかはわかりませんが、興味深い権利だと思います。

2018-08-25 19:02:39
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

2008年ルクセンブルク憲法裁判所の単独親権制度違憲判決では、法的な根拠として、憲法の法律の前の平等(10条の2)のほかに、児童の権利条約18条と欧州人権条約第7議定書5条が挙げられています。→続く

2018-08-25 19:07:20
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

児童の権利条約18条:締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。欧州人権条約第7議定書5条:夫婦は、夫婦間において、並びに子との関係では婚姻中もその解消後も婚姻時に準じて、平等に私法上の権利と責任を享受する。

2018-08-25 19:38:29
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

欧州諸国は離婚率が軒並み高いですが、ルクセンブルクもかなり高いようです。法や裁判もそのような社会の動向を受けて対応せざるを得ないのでしょう。日本でもおそらく離婚が増えたことに伴ってでしょうが、2011年の民法改正で離婚の際の面会交流や養育費の取決めが明文で規定されました(766条)。

2018-08-25 19:48:30
弁護士杉山程彦5@東慶應三丁目 @SUGIYAMA766

@inotake77 日本でも憲法24条2項の個人の尊厳と両性の本質的平等からすれば、共同親権が当たり前になるべきと思います。

2018-08-26 00:11:46
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

@r34CXRsvHnOj2GB 形式的根拠は仰る通りかもしれませんが、両性(男女・夫婦)という観点ではなく、より性別中立的に「子との関係における両親(父母)の平等」、実質的には「子に対する両親の権利(行使)と責任(負担)の平等」として構成する方がよいような気がしますが、いかがでしょうか。

2018-08-26 00:42:32
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

「父母が子どもを養育する権利」や「子どもが父母に養育される権利」は憲法の保障する基本的人権に含まれるべき、というのは心情としては理解できますが、それだけでは裁判所は動きませんし、明文にない権利を裁判所は極力認めたがりません。なぜならそれは国会の立法権への干渉になるからです。

2018-08-26 12:58:14
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

ドイツやルクセンブルクで単独親権制度が違憲とされたのは、自国の憲法や欧州人権条約に親や子の権利を認める規定があったことが大きいと思います。裁判所を動かすには法的根拠が必要で、裁判所はそれに基づいてしか判断できません。逆に法的根拠がないのに勝手に判断することは危険ですらあります。

2018-08-26 13:01:34
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

2011年民法改正で面会交流が明文化されたことにより、家事実務で面会交流が原則実施の方向に動いた(と言われている)ことは好例だと思います。法律、憲法、条約など明確な法的根拠を裁判所に与えて動かすのが、問題解決のあるべき方向のような気がします。裁判所にないものねだりはできません。

2018-08-26 13:07:37
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

もっとも最高裁が新しい権利を認めた例は皆無ではありません。報道の自由など明文にない権利を認めてきた前例はいくつかあります。ただその場合、裁判所は詳細な論証や理由付けを行っています。そこでは、新しい権利を支える利益や効用が憲法レベルでの保護に値することが示されているように思います。

2018-08-26 13:19:18
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

「父母が子どもを養育する権利」を主張するときでも、権利のレベル云々ではなく、まずは単独親権制度の不都合、つまり父母が共同で監護養育しないことや、婚姻と離婚とで事情を異ならせることの不合理性などを示すことが必要でしょう。また米国のように必ず勝てる事件を選別して争うことも重要です。

2018-08-26 13:41:15
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

最高裁が判例変更をして尊属殺人罪(刑法旧200条)を違憲としたのも、当該事件の被告人女性が置かれた悲惨な現実が影響したのではないか、と指摘されたりします。

2018-08-26 13:46:02
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

ツイッターでの反応を見ると、単独親権の問題は、子の奪取(連れ去り)や同居親の虐待、別居親のDVなどいろいろな問題と関連しているように思いました。先般上川法相が共同親権の問題を法制審に諮問すると言ったのも、改正する立法事実があると判断したからなのでしょう。

2018-08-26 14:09:13
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

特に子の奪取(連れ去り)と関係するところが単独親権制度の最大の問題なのかもしれません。子の奪取についてはハーグ条約があり先日も日本人夫婦での連れ去りについて父の住む米国への返還を命じる判決が出ており、国内での子の奪取にも影響するかもしれません。法的根拠があると裁判所は動くのです。

2018-08-26 14:16:28
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

ハーグ条約も、外務省は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」と子の「奪取」と訳していますが、英語のabductionも仏語のenlèvementも「誘拐」や「拉致」という意味ですね。ただ、親権者による子の連れ去りは、日本の刑法上拐取罪に当たらないとされている関係で「奪取」としたのでしょう。

2018-08-26 14:23:18
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

法律時報の最新号nippyo.co.jp/shop/magazine/…を見ると、巻頭で棚村先生の子の引渡しの強制執行の記事や、拐取罪の連載(最新号は「フランス刑法における未成年者の奪い合いを巡る議論状況」)があり、来月号では家族法の特集が組まれているなど、法学界でも重要な問題として認知されつつあるようです。

2018-08-26 14:29:37
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

片親による同意なき子の連れ去りは日本では違法ではないとしても、今や国際的には違法と評価されることが多く、何より人倫にもとる行為なのは否定できないでしょう。後に法改正で違法とされた場合、当時は合法だったから悪くなかったのだと言えるのでしょうか。それではどこかでみる論法と同じですね。

2018-08-26 14:44:55
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

嫡出推定制度が、生まれたときに父子関係を発生させて夫を共同親権者とすることが子の利益に適うという趣旨だとすると、民法は子にとっては親権者が2人いることを原則とする、という考えは成り立たないのでしょうか。あとは離婚がそれを断ち切る合理的な理由になるかどうか。専門外の思い付きですが。

2018-08-26 15:08:24
papi-bushi @bushi_papi

@inotake77 私事で恐縮ですが、私の事件では裁判所は元妻の行った連れ去りについて「顕著な違法性があり極めて不当」と判断してくれました。未成年略取誘拐罪を構成しうるとまで強く非難してくれたのです。しかし子らは返してもらえません。実力行使の上に司法の判断を蔑ろにする、これも問題だと思いました。

2018-08-26 17:52:23