日向倶楽部世界旅行編第61話「安穏」

予選リーグが終了し、ひと時の休息を得る戦士たち。勝利したもの敗れたもの、それぞれは立ち止まり、自らの周りを見渡す。
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三隈グループ @Mikuma_company

「時々考える事はあるんだ」 「憧れていたもの」 「何になりたかったのかしらね」 「もしもどこかで」 「今のアタシにしか手に入れられなかった」 「幸福」 「心の底から願う、絶対にやりたい事」 「出来ないはずがない、絶対に出来ますよ!」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/as4qJxjUUi

2018-08-29 20:45:16
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【前回の日向倶楽部】 扶桑です。 一週間の予選リーグが終了しました、皆さん、まずはお疲れ様でした。あきつ丸さん達は惜しくも負けてしまいましたが、大会の前と後で、彼女の顔立ちはなんだか変わっているように見えましたね。それはそうと、決勝トーナメントまで少し時間があります。皆さんはど

2018-08-29 21:00:30
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【前回の日向倶楽部その2】 あきつ丸は敗北した、惜しくもあと一歩のところで、予選突破を成す事が出来なかった。 彼女は泣いた、悔しい思いと共に、泣いた…。だがその涙は、以前のそれとは違う涙であった。そうやってぼろぼろと泣く彼女の肩を、鈴谷はそっと抱くのだった。

2018-08-29 21:01:35
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第61話「安穏」

2018-08-29 21:02:50
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〜〜 七日間ぶっ通しの予選リーグが終了し、闘技大会は一区切りついた。七日間戦い抜いた参加者も、運営に携わったスタッフも、激務続きだったエンジニア達も、ひとまずはお疲れ様である。 決勝トーナメントは五日後、ブルネイ泊地は少しだけ穏やかな空気に包まれていた。

2018-08-29 21:04:00
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「ぐおぉぉぉ…流石に、七日連続ともなると休まざるを得ん…」 マッサージルームで寛ぎ、日向は疲れた身体を休める。無駄な肉がなく、引き締まった筋骨が目を引く身体…数多の実戦を駆け抜けたそれは、重い艤装を背負いながらも高い瞬発力を発揮出来る、まさに戦士の肉体なのだ。

2018-08-29 21:05:01
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なのだが…。 彼女も御歳2X歳、戦いの中ではどんな痛みや疲労も忘れる強靭な身体も、休日には歳相応の悲鳴を上げる。腕や足はまだ良くて、背中が特に痛む、非常に辛い。 「三十路の足音が聞こえる…やめろー私は若いんだぁ…」 そう言って枕に顔を埋める日向の姿は、等身大の大人であった。 〜〜

2018-08-29 21:06:22
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〜〜 所変わって、ここはブルネイ泊地のビーチ…が見えるレストラン。 「日向さんほどじゃあ無いけど、昨日の今日で身体動かす気にはなれなかったね…水着着る必要無かったな」 水着にシャツを羽織った最上は、欠伸をしながら焼き鳥を食べ、真昼間からビールを飲む。

2018-08-29 21:08:15
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「ああ…情けない事にこっちもだよ…。でも足柄さんは自主トレだっけ?流石だよな…」 その対面では、摩耶が微妙に湿気たトンカツを頬張り、梅酒をちびちびと飲む。最上と摩耶、二人はこの居酒屋とレストランを足して二で割ってないような飲食店で、あれこれと話しながら食事をしていた。

2018-08-29 21:09:53
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このレストランは日本風の定食屋として営業されているが、遠いブルネイの地だからか微妙に認識がずれている。焼き鳥とトンカツを、珍妙な寿司と共に焼肉の前で食べる事が出来てしまう。 「ここ、一番美味いのは刺身じゃね?」 「ボクはマグロのソテーが好みかなぁ、割と海鮮寄りかもね」

2018-08-29 21:11:43
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最も、雑多という事はそれだけメニューが豊富であるという事、こういうだらだらとした食事にはちょうど良いのだった。 と、それはさておき最上は語る。 「いやさぁ、予選でも足柄さんがグイグイ引っ張ってくれるから本当やりやすかったよね…エースってすごいよやっぱ」

2018-08-29 21:13:39
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最上はジョッキをおかわりしつつ、激しい予選を思い出す。最上と足柄のWヴィーストは、7勝0敗という素晴らしいスコアで予選を突破していた。 それに対し、摩耶は悔しそうに返す 「でもお前もすごいから勝てたんだぜ、それ。こっちは霧島さんの足引っ張っちまって…クソッ、悔しいなぁ…」

2018-08-29 21:15:12
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華々しい結果の最上に対し、摩耶と霧島のパラオ警備隊は、3勝4敗という成績で予選敗退を喫した。予選突破どころか負け越しというのは、摩耶にとってはやり切れない結果である。 霧島はかつての反攻作戦で活躍したエース級の艦娘、その人と組んでこの成績なのだから、彼女には一層悔しさが募った。

2018-08-29 21:17:19
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最も、摩耶が全ての敗因かと言われればそうではなかった。視力が極端に低下していた霧島は、全盛期のような実力を発揮出来ていなかったのだ。長い事前線を離れていた霧島は既に、時代に取り残されてしまっていたのである。 その事を摩耶は気付いていない、或いは、認めたくないのだ。

2018-08-29 21:18:54
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やり切れなさを滲ませ、千切りのキャベツを頬張る摩耶。そこへ最上が訊ねる 「明日には帰っちゃうんだっけ?」 「ああ…警備隊を長く空ける訳にもいかねえからよ、戻れない理由でもない限りは、さっさと戻らなくっちゃあな。」 巡洋艦杯でもこうだったなと、摩耶は自嘲気味に笑う。

2018-08-29 21:20:45
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「警備隊の仕事って大変だね…」 「ハハハッ、お前みたく反攻作戦にガンガン参加してた艦娘に比べれば全然楽な仕事だよ、相手が人間なら一応言葉は通じるしな。」 少し疲れの見える笑みと共に彼女は語り、梅酒を一口飲む。そしてまた、摩耶は口を開く。 「…まあ、時々考える事はあるんだ」

2018-08-29 21:22:49
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彼女はそう言ったところで、空のグラスとジョッキを店員に手渡し、続ける。 「有名な艦娘の資料とか、テレビでやってる特番とか見てさ…自分と何が違えんだろうなーって。巡洋艦杯でお前に負けて、パラオでそのお前の優勝を聞いた時とか、特にそういう事を思ったよ。」

2018-08-29 21:24:22
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彼女は今回の大会でも似たような状況にあった、また負けたし、帰らなければならない。しかし、彼女は笑って言った。 「…でもよ、パラオで暮らしてる人たちが笑ってたり、仕事してるところに手振ってくれたりするとさ…なんつーか、心はモヤモヤしてても、不思議と嬉しいんだよな…」

2018-08-29 21:26:17
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地元の子供と握手したらメチャクチャ喜ばれてさぁと、摩耶は嬉しそうに語る。 「もしもどこかで選択を変えてれば、アタシはもっとチヤホヤされたり、金持ってたり、もしかしたら、色々違ったと思う…。でもパラオでのあの気持ちは、今のアタシにしか手に入れられなかったんだよな、多分…」

2018-08-29 21:28:15
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彼女はしみじみとそこまで語ると、誤魔化すようにクスリと笑った。 「悪い、なんか変な空気になっちまった」 「アハハ、別に良いよ。こういう話って気軽に出来ないだろうし。」 「メールとかでやるのも違うしな。本当、また直接会えて良かったぜ。」 二人は顔を見合わせて愉快に笑う。

2018-08-29 21:30:15
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「霧島さんも自分の仕事をキチッとこなしてるんだ。ヘンにクヨクヨせず、アタシも気合い入れてかねえとな。」 「そういやあんまり聞かなかったけど、霧島さんってどんな人なの?」 「ああ、霧島さんはすごいんだぜ…」 華やかさに欠ける、少しくたびれた女子会は続く… 〜〜

2018-08-29 21:32:01
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〜〜 また場所は変わり、ホテルの談話室。横須賀鎮守府親衛隊の利根姉妹が、扶桑の前に跪いて頭を下げていた。 「もう、二人とも顔を上げて下さい、おめでとうも言い辛いわ。」 深々と頭を下げている二人に、扶桑は宥めるように言った。すると、利根姉妹はゆっくり顔を上げる。

2018-08-29 21:34:20
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顔を上げた二人に、扶桑は微笑みかけた。 「二人とも予選突破おめでとうございます、流石ね。」 穏やかに祝福の言葉を送る扶桑、そこへ利根は厳然と答える。 「ハッ、ありがたきお言葉にございます。しかしこれは当然の結果…我等親衛隊、延いては横須賀鎮守府の威光、落とす訳には参りませぬ。」

2018-08-29 21:35:47
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利根の身姿は小柄であり幼い、しかし、その姿は堂々と大きく感じられた。そこに扶桑は、優しい笑みと共に言った。 「ふふっ、そんな風に言わないで、もっと素直に喜んでください。どんな立場にあろうとも、喜ぶべき事は喜ぶものですよ。」

2018-08-29 21:38:11
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2メートル以上の長身だが、威圧感無く柔らかに扶桑は語る。すると、利根は訝しむ様に目を細め、少し考えてから口を開いた。 「……ありがとうございます、扶桑様。しかし、小生の戦いは常々妹の筑摩に支えられてのもの…お褒めの言葉や名誉は、我が妹にお掛けください。」 「ね、姉さん…」

2018-08-29 21:40:57