スコット・L・モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』読書メモ集

スコット・L・モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』(白水社、大久保友博訳、2016)の読書メモをまとめました。Scott L. Montgomery, Science in Translation : Movements of Knowledge through Cultures and Time, The University of Chicago, 2000.
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荒木優太 @arishima_takeo

今日、現存最古の写本と見なされるものは、この二千年という時を経て、ギリシア語・ラテン語で数冊ずつ、アラビア語に数冊散在するばかりだが、アリストテレス自筆になるものは皆無である。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』

2018-08-31 15:39:34
荒木優太 @arishima_takeo

究極の司書の役を果たしてきたのは、学者ではなく翻訳者なのである。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』

2018-08-31 15:41:07
荒木優太 @arishima_takeo

古典時代・中世の大翻訳家たち、さらに体系化した者たちというのは、手稿文化のなかで生きてモノを書いてきたのである。このことが意味するのは、学知が手書きの言葉にしかないのなら、必ずしも定着・安定した〈科学〉があるわけではないということだ。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』

2018-08-31 15:52:19
荒木優太 @arishima_takeo

「当れるあらゆる証拠から判断して、エウドクソスやヒッパルコスの著作を理解するのに必要な高度な数理知識が、プリニウスのような便覧作家の手に余るものであったことは明らかである」(モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』)。なにげに悪口で笑った。

2018-08-31 21:39:23
荒木優太 @arishima_takeo

イスラムの時代までに、ここに関わってくる知の形式にはすでに実に由緒ある歴史があるのであって、目をつむって歴史を消したりしない限り、単純に〈ギリシア〉とも〈ヘレニズム〉とも言えなくなっていたのだ。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』120p

2018-09-01 17:39:23
荒木優太 @arishima_takeo

「『千夜一夜』といったかなり有名な作品でさえも、元はそれよりはるかに古いペルシアの書物『千の話』が彫琢・翻案されたもので、その作品もまたインド起源の話を数多く含んでいる」(モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』156p)。へぇー。

2018-09-02 14:51:25
荒木優太 @arishima_takeo

「テクストを移動可能にすることは、知識・権威・名声のもととなったその大きな貢献を一滴もこぼすことなく、その者たちをそのまま移し入れるということであり」(モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』225p)。原典入手できんだから逐語訳しろ問題。

2018-09-02 18:20:29
荒木優太 @arishima_takeo

アウラを「風格」と訳すのは盲点だったがなかなか良いかもしれない。

2018-09-02 19:13:00
荒木優太 @arishima_takeo

「日本近世科学史とは、まったくではないにせよ、おおよそのところ翻訳の歴史でもある」(モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』311p)。フム。

2018-09-04 10:55:03
荒木優太 @arishima_takeo

元々〈オランダ語の学習〉という意味の〈蘭学〉という用語について、西洋のこと(とりわけ学問知識)を学ぶなら何でもこう言い習わされることになった点に留意しておくのは、おそらく大事なことである。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』311p

2018-09-04 11:01:50
荒木優太 @arishima_takeo

ここ面白い。英語が覇権を握った学術論文の世界にあって、中国科学者による剽窃が多く見れるそうだが、その背後には、中国語の文章法と英語が強いる法との不調和が起きているのではないか。別言すれば、中国の〈科学〉がある。 pic.twitter.com/Tq2gyD9Fco

2018-09-04 13:48:29
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荒木優太 @arishima_takeo

注釈の執筆も、慎重に見なければならないが、変位の一形態にまず数えられよう。なぜなら、注釈というのは豊かなものを生む食客であったことも少なくなく、その主人に(少なくともしばらくは)さらなる名声と貫禄を授けて、よい気分にさせるものであるからだ。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』

2018-09-04 14:13:31
荒木優太 @arishima_takeo

「久しく〈定本〉という用語が、ある作品を〈一時的に定めたもの〉という意味であり続けているというのは、テクスト史の皮肉というものである」(モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』409p)。あれだろ? 小林多喜二全集のことだろ??

2018-09-04 14:15:04
荒木優太 @arishima_takeo

翻訳とは、書かれた言葉が歴史を獲得していくプロセスである。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』412p

2018-09-04 14:15:43
荒木優太 @arishima_takeo

異質なテクストをなじみのあるものに変えることが翻訳の目標であるとする思い込み(自論)は、あまりにも偏狭で、どうあっても実際の記録に上手くは(少なくとも一様には)当てはまらない。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』422p

2018-09-04 14:19:07
荒木優太 @arishima_takeo

逐字訳はそれ自体が変容を前提とするものだ。その理由は簡単で、よく知られてもいる。すなわち翻訳者が〈原典〉への忠実を追い求めるほど、二言語間のどこかに存在する混交言語を作り出すことを余儀なくされるのである。byモンゴメリ『翻訳のダイナミズム』423p

2018-09-04 14:21:34
荒木優太 @arishima_takeo

モンゴメリの『翻訳のダイナミズム』は、全米人文科学基金・独立研究者向け助成金プログラムというのに支援されて刊行したようだ。独立研究者にもカネ出るのか…アメリカ is スゴイ。

2018-09-04 14:31:28
荒木優太 @arishima_takeo

モンゴメリ『翻訳のダイナミズム』読了。面白かった。序盤、天文学の話が割と長くつづくので、オイオイとか思ったけど、それ以外の科学もちゃんとフォローされていた。科学=事実=本質とそれを写す翻訳=表現という理解を覆し、むしろ翻訳こそが学知を増幅させていた事例を紹介していく。

2018-09-04 14:44:15
荒木優太 @arishima_takeo

モンゴメリさんは日本に住んでいたこともあって(というわけでもないだろうが)、日本近代の科学語の成立にもかなりのページを割いている。志筑忠雄という人が、重力とか弾力とかの~力系、あと「真空」「分子」といった英語やラテン語以上に日常的に分かりやすい訳語を発明したそうだ。

2018-09-04 14:49:54
荒木優太 @arishima_takeo

そして、同じ人が、「具体性という自らの好みを捨て、その代わりに誌の領域へと踏み込んだ」結果、求心/遠心という中国語っぽい訳語を発明したのだった…!

2018-09-04 14:51:48