さて、台風一過。 関西方面の被害が大きかった地域は一日も早い復旧をお祈りします。 映画どころではない方もいらっしゃるかもしれませんが、昨日今日の挽回も願って再び『#寝ても覚めても』のことを。 本日はスタッフのことと、もう一人夭折した同時代の稀有な映画作家のことを。 @netesame_movie
2018-09-05 23:28:39前回の東北ロケの話でも何度か名前を出したように『寝ても覚めても』の撮影は佐々木靖之さんによるものです。濱口さんとは芸大からの盟友「はまちゃん、やっちゃん」と呼び合う(若干中学生ノリ)仲。とはいえ、『ハッピーアワー』は参加していないので濱口さんとは東北三部作以来のタッグ。
2018-09-05 23:30:19僕個人は2015年の『ディアーディアー』2016年の『ディストラクション・ベイビーズ』2017年の『PARKS』と立て続けに注目作を手掛けて来たカメラマンとして是非とも仕事をしたかった相手。濱口さんとはある意味助監督以上に作品の深いところまで話し合っており、現場では文字通り柱となって頂きました。
2018-09-05 23:32:41今回はロケ場所を探す制作部さんの合流が若干遅れたため、前回も少し書いたように、東北と大阪のプレロケハンや、位置関係が重要な撮影場所である亮平とクッシーが勤める会社、その非常階段、そこから見えるカフェ・ウニミラクルなどは主に佐々木さんと僕と監督自身で足で探しました。
2018-09-05 23:34:06また、エンドクレジットを見て気づいた方もいるかとは思いますが、今回は照明部という部署がいません。限られた予算内で撮影日数だけは出来るだけ確保したいという濱口さんの要望から、事前に佐々木さんが英断して照明を自らも含む撮影部三人のみで担当することにしたそうです。
2018-09-05 23:36:05とはいえ、最初聞いた時はいくら低予算映画といえども無茶なことを、通常の撮影機材だってあるし、移動撮影のドリーなどもある、そもそもライティングのクオリティは大丈夫なのか余計に非効率にならないかと心配するとキリがありませんでしたが、佐々木さんは飄々とこの体制は経験あるのでの一点張り。
2018-09-05 23:37:32結果はご覧のとおり。一部、応援は頼んでいますが(『きみの鳥はうたえる』の照明秋山さん)、とてもじゃないが撮影照明を三人でやり切ったとは見えない仕上がりになっています。もちろん細かな点を言えば色々ありますし、佐々木さんもその体制を良しとしたわけではありませんが。要は何を優先するか。
2018-09-05 23:39:08ちなみに殆どの移動撮影は助監督チームがオペレートを担いました。 で、佐々木さん、フレームを決めるのが早い。事前に濱口さんとだいぶカット割りの打ち合わせをしていたようですがとにかく迷わない。俳優に対しても位置の修正などは全くしません(これは濱口さんからの要望だったらしいです)。
2018-09-05 23:41:10もちろん、早ければ良いという訳でもありませんが、コロコロ変わる天気と元々がタイトなスケジュールの中、前述のように照明も担当しつつ、出来るだけ監督の演出時間を長くとるという意思が端々に感じられて演出部にとっては有り難い限り。また現場での立ち居振る舞い、居方も何かいいんですよね。
2018-09-05 23:43:24一度ロケハンの際に珍しく濱口さんから具体的にこのようなカットが撮りたいのだが可能か、というリクエストが出た際に何の気なしに「あー、◯◯カットですね」とある著名監督の名前を出したら佐々木さんと二人で随分と動揺して苦笑していました。どうやら図星でカット割りの際に参照していたらしい。
2018-09-05 23:44:42余談ですが、雑誌ユリイカの蓮實重彦さんとの対談で、濱口さんが佐々木さんとの仕事を仕切りに" 対決 " めいた物言いをしているのが印象に残りました。最大の理解者で盟友と勝手に思っていましたが、長い付き合いであるからこその馴れ合いを避けた再会にお互い期するものがあったのでしょうか。
2018-09-05 23:45:37さて、少し話は飛びますが、今回はあるシーンでもう一人カメラマンの方にヘルプに来て貰いました。渡邉寿岳さんです。そして、最初に触れた夭折した映画作家というのは堀禎一さんです。渡邉さんは去年の7月のアタマに公開され堀さんの遺作になった『夏の娘たち〜ひめごと』の撮影を手掛けています。
2018-09-05 23:46:22実は『寝ても覚めても』の準備が佳境を迎えていた7月、都内の映画好きの間では秘かに遅すぎる堀禎一熱が巻き起こり、濱口さんも自分もその例に漏れず、濱口さんは公開直後に堀監督とトークまでやっていました。二人とも『夏の娘たち』の興奮をロケハンの車内で交わした記憶は鮮明です。
2018-09-05 23:47:19忘れもしない7月19日、準備の忙しさで折角の旧作を含めた特集上映に足を運べないと嘆いていた矢先の突然の訃報(亡くなったのは7/18)。まだ40代、東中野での自身の特集上映の舞台挨拶の最中の出来事でした。移動の車中で濱口さんに知らせた時の文字通りの絶句は今でも言葉では表せません。
2018-09-05 23:51:21もしかしたら、近い世代で最も才能に溢れていた映画作家であり、やっとこれから撮る機会観る機会が増えてくるであろうタイミングでの早すぎる報せ。惜しいなどという表現では足らなすぎる程、遺された作品が素晴らしいものばかりでした。余りのことに数日放心状態だったのを覚えています。
2018-09-05 23:52:51その後で濱口さんと堀監督のことを話してはいませんが『寝ても覚めても』が無事公開になり高い評価を受けている今、堀さんの事をどう感じているのかは改めて訊いてみたい気がします。ちなみに『寝ても覚めても』の震災のシーン近くでは『夏の娘たち』の主演である西山真来さんが出演してくれています。
2018-09-05 23:54:13渡邉さんにヘルプに来てもらったのはクライマックスの川辺のシーンでのくだりでした。僕自身は直接堀監督とは面識もなく、特に感傷的になる余裕もなかった現場でしたが、それでも目の前の真夏の水面がほんのひと月前に観た『夏の娘たち』を想い起こさせなかったかと問われれば。
2018-09-05 23:56:06一本の映画が、それまでの何千何万の映画に連なり続くものであるならば、『寝ても覚めても』もまた、前にお名前に触れたたむらまさきさん、そして堀禎一監督、二周りの夏につづけて逝ってしまった先人たちの背中を追っていく作品と思えてしまうのは余りにも個人的な慨嘆でしょうか。
2018-09-05 23:57:36来たる9/22〜9/28、渋谷のシネマヴェーラで堀禎一特集のアンコールがあります。この機会に皆さん是非。 cinemavera.com/preview.php
2018-09-05 23:57:51