AIで農業生産は増大するか?
- ShinShinohara
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AIを使って、農業を革新的に生まれ変わらせる!といった勇ましい言説が最近、目立つようになってきた。ぜひ、革新して頂きたいのだが、ひとつ、懸念がある。AIに学ばせるのに必要なビッグデータを、どうやって採集するのですか?という問題だ。
2018-09-07 14:12:44AIの力で植物の生育を最大化するには、植物が何の養分をどれくらい吸収したのか、リアルタイムで知ることが必要だ。植物は、3種類の養分を特に大量に吸収(窒素(硝酸)、リン(リン酸)、カリ)する。この3成分が、生育ステージごとにどれだけ吸収しているのかが分かれば、自動化も容易になる。
2018-09-07 14:16:48たった3つだ。3つの成分(硝酸、リン酸、カリウム)をリアルタイムにモニターできたら、肥料のムダをなくし、作物の生育にあわせて施肥することにより、生産を最大化することができる。AIに学習させて、農業を完全自動化することも夢ではなくなる。だが、たった3つの成分をモニターする技術がない。
2018-09-07 14:20:38そんなことが信じられるだろうか?人体の免疫システムとか、わずかな物質の挙動さえ細かく調べることができる、科学の発達した現代に、それこそ錬金術師が活躍した時代にすでに発見されていたような成分(硝酸、リン酸、カリウム)が、リアルタイムにモニターできないなんて!でも、できないのだ。
2018-09-07 14:23:07植物が利用する養分は、他の生き物が「もうこれ以上エネルギーを搾り取ることができません」というところまで利用し尽くした、吸いガラみたいなものだ。硝酸もリン酸も、もはや微生物でさえ、そこからエネルギーを得ることはできない、「無機イオン」という状態になっている。
2018-09-07 14:26:16無機イオンは、区別が難しい。イオンのサイズと、帯びた電気の強さ(プラス、またはマイナスの価数)でしか区別できない。識別能力の高い植物でさえ、カドミウムを鉄と間違えて吸収したりする。イオンのサイズと、価数が似ているので区別しづらいのだ。
2018-09-07 14:28:59人間のような動物が食べる有機物は、種類を区別することが容易だ。なにしろ分子の大きさが大きい。区別しやすい特徴が一杯ある。例えるなら、レゴのブロックを大量に組み合わせて作った城は、子どもによって個性的になり、同じものにならないように。しかし黄色いレゴ1個は、他のレゴと区別できない。
2018-09-07 14:34:07無機イオンを識別することは、同じ形とサイズの黄色と赤色のレゴを、目をつむって区別しろ、と言っているのに等しい。イオンを識別するのは容易ではないのだ。安くて頑丈、農業現場でもリアルタイムでモニターできるセンサーと言えば、pHメータとECメータくらい。
2018-09-07 14:51:29pHメータは、プラスイオンの養分(カリウム、カルシウム、マグネシウム等の陽イオン)とマイナスイオン(硝酸、リン酸等の陰イオン)のどっちの方が多いかくらいしか分からない。ECメータは、陽イオンと陰イオンのざっくりした合計量しか分からない。
2018-09-07 14:54:05もちろん、各種イオンを区別し、量を調べる方法はある。酵素電極、発色試薬を加えて色の変化を見る方法、液クロ、ICP等。しかし、サンプルに前処理を施す必要があり、工程数が多いので、自動化が難しく、無理に自動化すればべらぼうにコストがかかる。
2018-09-07 14:57:04今日も学会で、無機イオンをリアルタイムに識別し、量(濃度)をモニターできるセンサーはあるか、と聞いて回ってみたが、農業現場で使えそうな頑丈で安価なものがひとつもない。リン酸、カリウムに至っては、センサーそのものがない。
2018-09-07 14:59:17というわけで、AI(人工知能)に提供できるデータは、ビッグデータどころかリミテッドデータ(限られたデータ)ということになる。AIの威力を発揮するためには、膨大な情報を提供できるセンサーのバラエティが必要なのだが、無機イオンを相手にするしかない農業では、それが困難なのだ。
2018-09-07 15:06:10もし、硝酸やリン酸、カリウムといった各種イオンを識別し、量を計ることができて、地面や水にぶっ刺したまま1年間ほっといても大丈夫な、安価なセンサーが開発されたら、農業に間違いなく革新が起きる。もっともっと新しい技術の開発が可能になる。だが、その技術がないのだ。
2018-09-07 15:08:37「まさか硝酸やリン酸みたいな単純なイオンが、リアルタイムに計測できないなんて」と思う人が、科学的研究のトレーニングを受けている人でさえ、とても多い。農業研究者なら常識だが、化学を専門とする人でさえ、無機化学にあまり詳しくない方は、ご存じなかったりすることがある。
2018-09-07 15:11:26農業研究は、無機イオンという、余りにシンプル過ぎるものを対象とするために、かえって攻めあぐねてしまう分野なのだ。農業研究、特に土壌学が抱える基礎的な問題を理解しないと、AIを活用しようとしても宝の持ち腐れとなりかねない。
2018-09-07 15:15:30病原菌や害虫のように、ある程度大きくて個性が際立ち、識別しやすいものは、画像解析も可能だからAIに学習させるビッグデータの集積も可能だ。こういう攻めやすい部分でAIを活用するのは、大いに役立つ可能性がある。しかし、「肥料」という、農業の基盤を支えるものを調べる、簡便でよい方法はない。
2018-09-07 15:18:30植物工場のブームが去って、今度はAI。もちろん、植物工場は有益な結果もたくさん残したが、当初期待された、農業をそっくり置き換えるような力はないことがハッキリした。投資が大きかった割には、成果は残念ながら小さい。今回のブームも、力瘤の入れどころを誤らないようにしていただきたい。
2018-09-07 15:24:43