洞窟の壁と同化した神様ショタがお嫁さんとハッピーエンドになるやつ

おねショタ再放送。2016年1月の放送でしたね。当時はまだテレビもカラーはなく、皆が公民館に集まって白黒の画面に映る力道山の活躍を見ていたものです。
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帽子男 @alkali_acid

少年と女が暮らしておりました。

2016-01-23 12:56:33
帽子男 @alkali_acid

二人は大変に年の差はあるけれども夫婦でした。

2016-01-23 12:56:47
帽子男 @alkali_acid

少年は種族最後の生き残りで、半ば石の壁に埋もれて生きていました。声を放ちも、手足を動かせもしませんし、表情さえほとんど変えられませんが、近づくものを電気と熱とで読み取り、複雑な心を持つ相手なら意思を通じ合わせられるのでした。

2016-01-23 12:59:40
帽子男 @alkali_acid

少年は、天候を読む力がありました。長雨や日照、嵐や雪、極寒と酷暑を先読みし、教えられたのです。

2016-01-23 13:00:56
帽子男 @alkali_acid

そういう訳で、近在に住む村のものは、少年を半ば神、半ば魔と崇め忌んでいました。

2016-01-23 13:01:37
帽子男 @alkali_acid

女はまだ若く、美しかったのですが、早くに夫をなくし、子もおらず、家も貧しかったので、妻として少年のもとにやられました。おさなげな姿の夫の声なき言葉を聴いて、村に伝えるのが役目でした。

2016-01-23 13:02:58
帽子男 @alkali_acid

女の食べ物、着る物は、村々から届く供物によって賄われていました。悪くない暮らしではありました。盗賊や野獣が近づいても、少年が心を凝らせば、恐慌が沸き起こり、逃げ去っていきます。逆に美しい小鳥や胡蝶、毛並みの見事な狐や鹿などを招き寄せ、妻の目を喜ばせもします。

2016-01-23 13:05:19
帽子男 @alkali_acid

少年は種族に伝わる古い古い物語を際限もなく覚えていました。石壁の中に知識を蓄えていたのかもしれません。女は少年のそばにいるあいだ、退屈はしませんでした。

2016-01-23 13:06:17
帽子男 @alkali_acid

石壁を花輪で飾り、供物の布を縫い合わせて、艶やかな緞帳を吊り、まだ娘の頃、収穫の祭りで楽しんだ踊りを披露したりして、まずまず幸せに暮らしていたのです。

2016-01-23 13:07:47
帽子男 @alkali_acid

けれどもある日、少年は言いました。 「北の彼方から、終わらない冬がやってくる。冬は何年も、何十年も、何百年も続くだろう。追い立てられた民は狼のように襲ってくる。お前達は土地を去って南へくだらなくてはならない」

2016-01-23 13:09:14
帽子男 @alkali_acid

女は何かの間違いではないかと問い直しました。昨冬も暖かく、この春はうららかで、夏は焼けるほど暑く、秋は実り豊かだったのだからと けれども少年は答えを変えませんでした。

2016-01-23 13:10:53
帽子男 @alkali_acid

妻は村々へ石の夫の言葉を伝えました。けれども、此の度は誰も信じようとしません。畑、家、羊、牛、馬、失うものが多すぎたからです。しかし冬は厳しさを増し、北から狼を連れた恐るべき人々がやってきました。毛皮をまとい、鋼より鋭い石の槍と弓矢で武装した異郷の民。

2016-01-23 13:13:16
帽子男 @alkali_acid

戦いが起こりました。村々の長は角笛を鳴らしてあつまり、民会を開いて守りを固めました。王が選ばれ、武器倉が開かれ、炎を吐く杖に油がさされ、見張り蝙蝠眠りから覚まされて空に飛び立ちました。しかし、狼の民は数を増し、必死で、凶暴でした。

2016-01-23 13:14:53
帽子男 @alkali_acid

少年と女が暮らす丘にはひっきりなしに使いが来るようになりました。天候は戦にとってとても大切でした。早馬がゆきかい、蝙蝠が手紙を運びました。ただ、石の中の子供が話す空のもようは、常に守る側にとって不利でした。雹と雪と霰、吹雪。すべて狼の民を助けるものばかりでした。

2016-01-23 13:16:39
帽子男 @alkali_acid

やがて、凶兆を告げ、破滅を示す少年の言葉を、村々は憎むようになりました。あの魔物こそが、終わりのない冬をもたらし、夷(えびす)をつれてきたのだと。古き神々の名において、石壁の中で生きる童児など殺すべしという声が日増しに高まってきました

2016-01-23 13:18:07
帽子男 @alkali_acid

女はやってくる使いから危険を知りました。少年は伴侶に告げます。 「南へ行きなさい。供物に混じる琥珀や瑪瑙は、この土地ではただ麗しさを愛でるだけだが、よそでは宝としてたっとばれる。質のよいものを選べば、きっと役に立つ」

2016-01-23 13:20:03
帽子男 @alkali_acid

妻は足を踏み鳴らして怒ります。 「そばを離れるはずがないでしょう。私がいなくなったら、誰があなたを守る」 「南には、私の同族が生きているという噂を聞いた。尋ねていって、助けを求めてきて欲しい」 「ほかのものにさせなさい。私はあなたの妻です」

2016-01-23 13:21:18
帽子男 @alkali_acid

少年は黙りこくりました。心を閉ざすと、本当の鉱物になったかのように静まり返ります。女は不安を抱えながら背を向けると、寒さを増す丘で、村々に送る天候の知らせを木簡に記していきます。夫から教わったつたない字で。

2016-01-23 13:23:13
帽子男 @alkali_acid

ある晩。夫は、石壁のそばに猫のように丸くなってうとうとしている妻に、強い強い眠けを起こさせました。伴侶が死のように深い睡みに陥ると、少年ははるか彼方から、村の使いのひとりを呼び寄せました。細身の若者で、賢く、勇ましく、片目を失ったため戦から外れましたが

2016-01-23 13:26:37
帽子男 @alkali_acid

もっと年を重ねれば王になるかもしれない器量でした。少年は早馬に乗ってやってきた若者に願いを告げました。若者は承知しました。実は、魔物の花嫁として丘に住む美しい女に、恋をしていたのです。しかし慎み深かったので、思いを打ち明けたことはありませんでした。

2016-01-23 13:28:38
帽子男 @alkali_acid

女が目を覚ますと、若者の腕に抱かれて、馬は駆け足で南へ下っていくところでした。 「私を帰してください」 頼みましたが、相手は首を横に振ります 「これが、石の魔物の望みなのです。私は従います」

2016-01-23 13:29:32
帽子男 @alkali_acid

女は抗いましたが、若者の力は強く、意も強く、二人は遠く遠くいくつもの土地を通り過ぎて、迫る寒さから遠ざかることになりました。

2016-01-23 13:30:28
帽子男 @alkali_acid

しばらくして、丘は燃え上がりました。少年の住む石壁には油が撒かれ、枯れ枝が積み上げられ、轟々と業火に包まれて、供物も質素な神殿も灰と塵に帰しました

2016-01-23 13:31:41
帽子男 @alkali_acid

やがて狼の民が勝利し、村々に住む人は南に逃げるか、敵に加わって略し奪う側になりました。毛皮をまとった将軍は、黒こげになった丘に来ると、おぞましい魔物が蘇らぬよう、朽ちた石壁を槌で打ち砕き、破片を離れたところにばら撒きました。

2016-01-23 13:33:35