週刊 生存ファンタジー3T 第三週

生存ファンタジーとは、生存を題材にしたファンタジー3T小説です。大体毎日更新し、一週間を一区切りにしてまとめます。あと二つのまとめで終わります。 ※本作は一次創作です。 ※無断転掲載を固くお断りします。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

飾りつきの兜 1 いくさ場で目立つのは賢くない。誰しもそれは知っている。例外が二つ。手柄を主張したい者か、強制されている者だ。私は後者にあたる。竜をかたどってきらびやかに輝き、ご丁寧にも房飾りまでついた兜などかぶりたくない。だが爵位は保ちたい。 #生存ファンタジー3T

2018-09-10 21:17:37
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 血みどろになって戦うのは連れてきた兵士達ではあるものの、面と向かって挑戦されたら受けねばならない。唯一の救いは、馬上から観察する限り味方が有利だ。敵の側から引き上げを示すラッパが鳴り、味方は歓声を上げた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-10 21:20:26
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 調子を合わせるまでもなく、心から私も喜んだ。その時、倒れていた敵の隊長が起き上がって私に挑戦した。味方は輪を作って我々を囲んだ。意を決した私は、馬を飛ばして挑戦者を小脇に抱え、輪から抜け出した。これが本当の鞍替えだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-10 21:20:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

当たりの順番 1 仲間と一緒に野外で食べるご飯はおいしい。当番を決めて交代で作る。今日はあたしの番。トカゲのソテーにコウモリのフライ。付け合わせにとっておきの干しブドウ。みんな喜んで食べてくれた。冒険者をやっていると、食べ物に偏見がなくなるのがいいよね。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 01:46:49
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 突然、リーダーの戦士がけいれんを起こした。僧侶がお祈りしようとして、身体を折って口から泡を吐き始めた。無事なのはあたしと魔法使いだけ。食あたりでない証拠に、残ったあたし達はなんともない。魔法使いは解毒剤をリュックから出そうとしたのが決め手。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 01:47:11
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 あたしはベルトのナイフを引き抜いて魔法使いに投げつけた。喉を貫かれて魔法使いは倒れた。ごめんね、二人とも。正直者には軽い中毒を起こすブドウなの。あいつ、魔法であたし達を騙して報酬を横取りしていたんだよ。あたしはそのブドウ食べても大丈夫だから。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 01:48:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

出口のない部屋 1 気がつくと、俺は壁と床と天井に囲まれた空間にいた。ドアはなく窓もない。所持品もなくなっていた。衣服と靴だけが辛うじて元通りだった。 気を失う直前まで、俺は仲間と共に地下迷宮を歩いていた。特別な罠や仕掛けに触った覚えはない。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 21:31:26
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 もっとも、俺はただの戦士で、そうした類に詳しくはない。ともかく唯一の救いは、ここには白骨や遺留品がないことだ。生きて出られたか誰かが掃除したか。 いや、ふと気づいた。誰かが出入りしたなら痕が残る。 意識を集中すると、かすかに甘い花の香りがする。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 21:33:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 床からかすかに産毛のようなものがあった。つまんで引っ張ると、壁が震えだし、部屋の裏表が逆になった。突然元の地下迷宮に戻り、仲間の悲鳴が壁から聞こえる。そして、くすくす笑う木の精霊が目の前に現れた。いたずらを止めて欲しいならお菓子をくれだとさ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-12 21:33:46
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

古城の姫君 1 遍歴を重ねる冒険僧侶は毎日が修行だ。道端を歩いていて、なにかがこつんと頭にぶつかった。金貨の形をした福音やもしれぬ。しかし、落ちてきたのは丸めた紙だった。 もうすぐ殺される、助けて下さい。そう書いてある。紙の行方をたどって顔を空に向けた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-13 23:46:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 古びた城にある尖塔の窓から、一人の令嬢がたたずんでいる。早速首を突っ込まねば。玄関で人を呼ぶと、一人の老人が現れた。城主の男性だそうだ。没落した貴族で召し使いは全くいない。令嬢は実の娘という。手紙の話をすると、空想癖が強くて困るとぼやいた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-13 23:48:37
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 せめて祝福を授けたいと申し出ると丁重に断られた。お嬢様は窓越しに喜んで受けられたと告げると機嫌を悪くしたので、私は確信して聖水を城主にかけた。祈祷を行うと、城主は悪魔に姿を変え、塵になって消えた。令嬢と城主の一人二役で旅人を騙して食っていたのだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-13 23:48:53
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

死体の反撃 1 負けいくさで死体のふりをする。倒れた仲間達の遺体が間近に転がっている。緊張感を保つべき時に、つい思い出がよみがえる。剣技の達人。槍の名手。弓の英傑。必ず仇を討つ。えりすぐりのあいつらが死んで、凡庸な俺が生きているのは皮肉な話だ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-14 23:50:33
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 しかし、敵の上げる勝どきの雄叫びが俺の感傷を吹き飛ばした。敵の王子は臆病者だ。勝って初めて兵士達の元にかけつける。お、馬車の地響き。噂をすれば陰だ。ばれないように目を向けた。案の定、豪華な馬車が現れ、着飾った若者が地面に降りた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-14 23:51:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 俺は手元に転がったままの剣にさりげなく手を伸ばした。若者が従者と共に俺の正面にきた。今だ! 不意をついてたちあがった俺のかかとを、誰かが引っ張った。転んで間抜けな姿を晒した俺を、死体のふりをしていた敵の王子が見下ろした。 #生存ファンタジー3T

2018-09-14 23:51:40
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

破滅のサファイア 1 破産して首を吊った元大富豪は、手の中に大粒のサファイアを握りしめていた。楕円形にカットされ、中心には小さなハート型の空洞がある。空洞はサファイアの値打ちを損なうどころか高めていた。債権者達はサファイアを競売にかけ、さる貴族が落札した。 #生存ファンタジー3T

2018-09-15 23:28:20
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 その貴族は、落札から数年後、謀反の疑いをかけられ全財産を没収の上打ち首になった。サファイアは国王に忠実な魔法使いに褒美として与えられた。数百年前の伝説だ。いや、事実だ。 何故なら、まさに今、サファイアは俺が持っている。魔法使いは生きていた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-15 23:28:39
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 その塔で、主を倒して奪った。 今、俺の頭に絶え間ない鼓動と共に元の持ち主達の声が囁きかける。次の番人は俺だと。サファイアは富と名声を与えるが、いつかは破滅をもたらす。馬鹿だなお前ら。俺はこれから、サファイアを自分の仇に渡すところだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-15 23:28:53
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

釣り人の下顎 1 湖には腐乱した人間の下顎が浮いていた。ピクニックの家族連れが発見した。顎に残った銀歯には、入歯職人のサインが彫ってあり、歯型を照らし合わせて犠牲者が特定できた。釣りに行ったまま行方不明の若者だ。下顎は、動物の歯で噛みちぎられていた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-16 00:04:59
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 湖には狂暴な魚はいないので、熊か狼の仕業だと推定された。早速猟師や冒険者達が集められ、山狩りをしたものの、目ぼしい成果はなかった。事態に違和感を覚えた私は、街のサーカス団を尋ねた。目当ては虎男だ。 虎男は、虎の皮をかぶって本物のふりをする。 #生存ファンタジー3T

2018-09-16 00:05:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 訪ねると、彼のテントからは異様な臭気がした。団員は虎皮のせいだと思い込んでいたが、虎男は犠牲者の下顎以外の部分を煮込んでいた。銀歯は獣憑きに猛毒だから、と虎男は衛兵達に説明しながら連行された。これで満月の晚もバレずにやれる。 #生存ファンタジー3T

2018-09-16 00:05:25