塔の少女と終末の騎士のお話

SFおとぎ話的な即興小説まとめ。
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灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「ふざけるな、お前が愛しているのは――自分の手で導かねばならない、愚かで救いようのない人間だけだ!」「……?」 そいつは、聖女と呼ばれていた少女は、きょとんとした表情で小首をかしげた。 さらり、と銀の長髪が揺れる。 「この千年間、あなたたちがそうではなかったことなんてあります?」

2018-09-17 01:36:47
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

高い高い、天へと伸びた塔の頂点――長さ三〇万キロ、惑星内核を刺し貫き、超高温の鉱物が流れるマントル層に至るまで支配し尽くした文明の驕りの具現。 ついぞ、神の怒りに触れることなく世界を睥睨するバベルの塔。 その管理者たる少女は、悪意も嘲笑もない、慈愛の表情で微笑む。

2018-09-17 01:40:28
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「わたしはあなた方を愛しています。第七紀人類――ええ、六度の核戦争、気候変動、飢餓を経てなお文明を再建する地上のあなたたち」 深く澄んだアイスブルーの瞳、乳白色の肌。ほっそりとした肢体を覆うドレスは金属繊維で編まれたエーテル超伝導回路――あらゆる攻撃から少女を守る盾。 さながら天使の姿

2018-09-17 01:44:41
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「わたしはあなたたちの監視者であり、その営為の庇護者たらんとして作られたモノです。客観的事実として、あなたがたの先祖が、わたしを人より賢い善導者として定義したのです」地上への干渉を最低限に止めている以上、六度の自滅は人類自身を原因とする事象です、と言い添えて。

2018-09-17 01:48:06
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「第三紀のときは、塔の上から人を見下ろすだけか、手を差し伸べろと言われたものです――手を貸した第三紀文明は、わたしの警告を聞き入れることなく二三〇年で自壊しました」わかりますか、と笑う少女。 「こうして傍観に徹していれば、あなたのような反逆者がやってくる」

2018-09-17 01:52:54
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「とどのつまり、人間、いいえ――あなたは人間以外の知性が許せないのです。世界のすべてを掌中に収めるものが、人類という種族でなければ満たされない。一体、あなたはどれほど強欲なのでしょう」「――俺とお前は、今が初対面だ」「いいえ、これで七度目です……終末の騎士〈カルキ〉よ」

2018-09-17 01:57:37
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

そう、少女が呼びかけた男は――純白。身にまとう鎧も、剣も、白い絵の具で塗りつぶされたように真っ白だった。 それは未だ、前装式小銃から先の兵器体系に至っていない地上人にはあり得ぬ兵装。 音速で空を駆け抜け、砲弾をはじき返し、プラズマの刃を振るうこの世ならぬ騎士。 …高度文明の産物だ。

2018-09-17 02:02:32
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「あなたはいつも、この観測の終点に現れる。地上の文明が限界を迎え、ほころび始めたそのとき私の前に現れる――何故です。何故、此度もわたしの前に現れたのです」そのつぶやきには、不吉な予感に哀切を覚える少女の感情がにじんでいた。 けれど、騎士には関係ない。 「知れたことを」

2018-09-17 02:05:52
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

騎士に記憶はない。 彼は六度、天使に敗れ、そのたびに五体を打ち砕かれている。あらだ。 過去に現れたという彼と、現在の彼に連続性はない。 騎士を作り上げたものは、滅んだというかこの高度文明の遺産か、あるいは―― 「俺は、お前を殺しに来た」 ――怨念そのものか。

2018-09-17 02:08:55
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「滅ぶのはいい。殺し合うのもいい。仕方がない、それが運命であったと受け入れよう。だが――」騎士は剣を構えた。少女の身を包むドレスが、ざわざわと音を立て、クジャクの羽のような形状に変異していく。 「――すべてを見下すお前に、愚かと侮蔑されながら死を迎える屈辱など、受ける謂われがない」

2018-09-17 02:11:37
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「それだけ、ですか」「そうだ」 あっけにとられたように、銀の少女は言葉を失う。 それは、愚かしいほど古めかしい、もはや忘れ去られた物語だった。 人の尊厳、人の誇り。 そんな風に呼ばれたもの。 この千年間で、少女の心から消えて、冷たい諦念と侮蔑に置き換わった物語。

2018-09-17 02:13:57
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

「――理屈ではないのですね」 「そうだ…俺が、納得できないのだ」 何度生まれ直そうと――あるいは何度、同じ姿の別人が生産されようと、決して変わらぬ答えがそこにあった。 少女は深くうなずいて、花のような笑顔を浮かべる。 「わたしは人間を愛しています――その刃、お受けできません」 「抜かせ」

2018-09-17 02:16:55
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

光が、交わって。 これは第七紀文明の終わり、そして第八紀文明のはじまりにて――誰にも看取られることなく、地表より三〇万キロの彼方で息絶えた騎士の物語。 何の意味もなく、忘れ去られた誇りを説いた、愚か者の末路である。 ……それはたしかに、少女の愛する人間の姿であった。 -了-

2018-09-17 02:20:21
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

勢いで書いたSFおとぎ話でした

2018-09-17 02:20:37
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

騎士マン、絶対に美少女管理者にクレームつけて殺そうとしてくるクソコテなんだけどなんかこうふわっと良い話風にまとめた

2018-09-17 02:22:52
灰鉄蝸(かいてっか) @Kaigoat

やだよね、仕事の節目になると刃物を抜いて襲いかかってくるモンスタークレーマー

2018-09-17 02:23:19

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