「癌終末期の抗菌薬適正使用」第3回東京感染症サミットの講演内容(30分)まとめ

第3回東京感染症サミットで私が講演した内容のまとめです。文献はすべてpubmed登録番号で記載していますので、番号をそのままpubmed検索欄に入力して検索してください。
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第3回東京感染症サミット講演「癌終末期の抗菌薬適正使用」(30分)の内容をツイートします

2018-09-17 16:01:47
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様々な疾患で終末期は存在するが、抗菌薬使用を語る上で全ての疾患の終末期を同様にすることはできない。Lunneyらは死へのプロセスとして、突然死、癌、臓器不全、老衰の4パターンにおいて、亡くなる1年前から1ヶ月ごとのADLを計測したtrajectory curveを提示している(PMID:12746362)

2018-09-17 16:01:59
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このtrajectory curveを見ると、突然死はADLが保たれた状態で突然亡くなる。臓器不全は急性増悪と寛解を繰り返しつつも減衰し、最後は急性増悪で亡くなる。老衰は一貫した減衰となる。一方、癌患者は比較的ADLは維持され続けるものの、最後の3ヶ月は急速に落ちる。このため、予後予測も難しくなる pic.twitter.com/ObXUyy1YNP

2018-09-17 16:02:55
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このように、各疾患によって死へのプロセス、終末期は様々であり、抗菌薬使用の考え方を同様にはできないため、今回は癌患者の終末期に限った抗菌薬適正使用を述べる。

2018-09-17 16:03:47
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終末期の患者の4割が患者にとって有益性のない薬物治療を受けていることが報告されている。その薬物治療には抗菌薬も挙げられている(PMID:27353273)。終末期患者の抗菌薬使用率は報告により4-85%と様々であるが、多くの報告で5割以上の患者が抗菌薬治療を受けている(PMID:24151960)

2018-09-17 16:04:30
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もっとも、終末期患者に抗菌薬を投与すること自体は不適切ではない。そこにはさまざまな終末期癌患者のゴール設定が存在し、それによって使用可否が変わるからである。だが、効果がないのに漫然と投与している、感染症かどうかのアセスメントもせずに投与している不適切例も少なくはない。

2018-09-17 16:05:21
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また、進行癌患者では多数の薬剤が用いられており、ポリファーマシーの問題があり、薬物相互作用にも注意しなければならない(PMID:24780183)。脱水、腎機能低下などを合併しやすい終末期は抗菌薬の副作用(腎障害、肝障害、中枢神経障害、薬剤熱、下痢など)にも注意が必要となる。

2018-09-17 16:06:01
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癌終末期の抗菌薬治療において患者の余命は極めて重要なファクターである。癌診療医といえども余命は正確には推定できない。本邦からの報告では、癌診療医が余命を正確に(推定余命/実際の余命=0.67〜1.33)推定できた癌患者は3人に1人であり、36%は長めに、28%は短めに推定していた(PMID:24764697)

2018-09-17 16:06:25
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癌終末期の医師による余命予測の研究のシステマティックレビューでも、ほとんどの研究で、医師は患者余命を実際より長めに予測することが示されている。(PMID:12881260)癌を専門とする医師でも余命推定はなかなか難しい。 pic.twitter.com/IRTB323ifb

2018-09-17 16:07:07
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では予後予測ツールはあるのか?国際的に使用されているものが2つある。 ・Palliative Performance Score(PPS)(PMID:18949683)を組み込んだPalliative Prognostic Index(PPI)(PMID:10335930) ・Palliative Prognostic (PaP)score(PMID:15570085)

2018-09-17 16:08:06
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癌終末期患者に抗菌薬を投与する目的は何か?臨床現場では「何かあったら困る」という主治医側の心理的理由で抗菌薬投与がなされてしまっていることも少なくない。これは主治医が理論的ではなく感情的に恐怖を感じている。AST(抗菌薬適正使用チーム)介入に入る時もここを理解しておく必要がある。

2018-09-17 16:08:46
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癌終末期患者の特徴として、骨髄抑制やステロイド、オピオイド、低栄養状態、簡単に抜けない医療デバイスは感染症を難治化させる要因である。

2018-09-17 16:09:27
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また、固形癌患者の免疫低下は癌そのものによる解剖学的異常の関与が大きい。終末期では除去できない腫瘍により物理的に閉塞領域が発生し、そこに感染症が加わると、感染巣コントロールができず抗菌薬で治療しきれない難治状態と化す。このような患者に普段と同じように抗菌薬を投与して効くだろうか?

2018-09-17 16:10:48
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癌患者は日和見感染を起こしやすく耐性菌が多い、とは言われるが、疫学的には尿路・呼吸器系の感染が多く、起因菌は腸内細菌、特に大腸菌が最多、など、必ずしも耐性菌が多くを占めるわけではなく、終末期癌患者において耐性菌が抗菌薬治療を難しくさせているわけではない。

2018-09-17 16:11:21
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Pros「癌終末期で抗菌薬を投与すべき」の根拠 1週間程度ではあるが、生存期間を延長させたという観察研究はどれも非常に少ないN数ながら複数あり(PMID:12324808、24215250など)、PSや意思疎通なども改善したとも報告されており、特に尿路感染症での奏功率は7-9割と高い(PMID:24151960)

2018-09-17 16:11:54
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Cons「癌終末期で抗菌薬を投与すべきではない」の根拠 終末期の発熱に対する抗菌薬投与では症状改善は2割さかなかった(PMID:25150130)。感染症診断例でも抗菌薬使用後に症状が改善したのは15%に過ぎず、改善しなかった患者の6割以上で死亡日まで抗菌薬投与が続けられていた(PMID:16441680)

2018-09-17 16:12:22
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また、比較的N数が多い観察研究では、抗菌薬使用を積極的に希望した患者と消極的な希望(使わないor症状緩和のみ)をした患者とで生存期間に差はなく、尿路感染症以外の感染巣では抗菌薬奏功率は5割以下であった。(PMID:12727041)

2018-09-17 16:12:44
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これらPro/Conの内容をまとめると、癌終末期の感染症に対する抗菌薬治療は ・生存期間を短期間ながら延長ささる可能性はある ・尿路感染症であれば奏功しやすいが、それ以外の感染巣では奏功しにくい ・発熱だけで投与すべきではない ・症状緩和が得られないなら中止すべき

2018-09-17 16:13:22
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癌終末期の感染症対応を考える際の3つ目の大事なポイントは、ゴール設定である。抗癌剤、輸血、オピオイド、心肺蘇生有無等については主治医は詳しく説明を行うことがほとんどだろう。では、今後起こりうる感染症とその治療方針、ゴール設定について患者や家族、医療チームとdiscussionしているか?

2018-09-17 16:14:16
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癌に限った話ではないが、終末期でDNARが決定した患者の具体的ゴール設定がなされていないケースは多い。患者ごとの具体的なゴール設定がなければ何を目的に抗菌薬投与をするのかも明確になされず、抗菌薬が漫然と投与されてしまうことになる。

2018-09-17 16:14:49
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癌終末期で緩和ケアユニットに入院した患者へのアンケートではほとんどの患者が「すべての癌終末期患者の感染症に抗菌薬使用は有用」と誤解しており、このためか半数近くの患者は死が差し迫った状況でも抗菌薬治療を希望していた(PMID:24939209)。これも説明やゴール設定がないと起こりうる

2018-09-17 16:15:14
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別のアンケート研究では抗菌薬治療の開始はしばしば医師単独で決定していた(PMID:21274577)。患者や家族、かかわるスタッフ、抗菌薬適正使用チームや緩和ケアチームとのdiscussionなしに抗菌薬が投与されてしまっている現実がある。

2018-09-17 16:16:05
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比較的大規模な研究で、癌終末期の抗菌薬治療においてしばしば引用されるのがWhiteらの研究である(PMID:12727041)。緩和ケアプログラムがしっかりと組まれ、患者も抗菌薬治療についても説明を受けているケースでの研究でありぜひご一読していただきたい(オープンアクセス)

2018-09-17 16:16:36
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この研究では、患者の希望により「感染症で抗菌薬を必ず使用」「抗菌薬を一切使用しない」「症状改善が得られる場合のみ使用」の3群に分けて比較している。8割の患者が抗菌薬使用に消極的であり、生存期間には差がみられなかった。 pic.twitter.com/WzrnVgI5yt

2018-09-17 16:17:17
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癌終末期の抗菌薬を考える上でまずゴール設定をしっかり決めることが大前提である。その上で、患者が生存期間延長を希望する場合でも、ただそのまま投与するのではなく、現状況で抗菌薬投与が生存期間における有益性があるかどうか検討して投与可否を決めるべきである。 pic.twitter.com/SZzF0JWECd

2018-09-17 16:18:06
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