ユニコーンの少年と夜の翼ニュクスの物語

帽子男 @alkali_acid

森に住む一角（ユニコーン）の少年。その額から生ええた角は万病を癒すという。あるとき、夜の翼（ニュクス）の女が舞い降りてくる。毒の刃のついた鞭で脅し、角を渡せという。だが癒しの力はいかなる傷も死の呪いも無効にする。力ずくで角を奪えはしない。

帽子男 @alkali_acid

ニュクスは青ざめた顔で立ち尽くす。ユニコーンはたずねる。なぜ角を欲するのですが不死の翼よ。あなたには無用の品でしょうと。すると夜の翼は答える。私の愛する、常命の人が、荒野で死に掛かっているのだ。ケンタウロスの毒矢を受けて

帽子男 @alkali_acid

少年は額の角を折り取って、差し出す。さあ受け取りなさい。あなたの美しい顔が涙にぬれるのを見たくないから

帽子男 @alkali_acid

女は感謝し、羽ばたいて飛び立つ

帽子男 @alkali_acid

森には静寂が訪れる

帽子男 @alkali_acid

時を経て、森に再び客がやって来る。人間の英雄。手には棍棒。ほつれた髪には黒い羽飾り

帽子男 @alkali_acid

お前がユニコーンか。私の女王がお前の角を望んでいる。万病に効くとか。少年は羽飾りを見つめて尋ねる。それはどうやって。英雄は答える。俺の十の功業のひとつだ。恐ろしい夜の魔物。怪鳥ニュクスを生け捕り、その翼をむしりとった。もはや夜の闇はわが女王の意のままとなった。

帽子男 @alkali_acid

あの方が望むときだけ、ニュクスの翼で作った扇を振って、夜を呼び込めるのだ。少年は目を細めてさらに尋ねる。ニュクスは、あなたを愛していたのでは。英雄はせせら笑う。魔物の愛などなんになろう。私は女王の戦士。地上で最も偉大な国の統べ手に仕えているのだから

帽子男 @alkali_acid

少年はまっすぐに英雄に向き直る。額の小さなこぶが次第に割れて鋭い角が伸びる。だがそれはニュクスの翼と同じ黒い色をしている。では受け取るがよい英雄よ。ユニコーンの角を

帽子男 @alkali_acid

少年が跳ね上がると、宙で四つの蹄を持つ獣となり、まっすぐに男の分厚い胸板を刺し貫いた。

帽子男 @alkali_acid

ユニコーンの角に救われた英雄は、ユニコーンの角によって死んだ。一角獣は黒羽飾りを咥えて千里をかけた。波頭を超え、山谷を飛び抜け、大いなる人間の都にたどりつくと、影から影へ溶け込むようにして移り、少年の姿に戻ると、石造りの神殿にして宮殿の中へ入り込んでいった

帽子男 @alkali_acid

英雄の十の功業をたたえる間に、人獅子の毛皮や蛇龍の首が所狭しとならび、片隅の黄金の檻に暗い闇が蟠っていた。嘆きの黒い涙がしたたる暗がりとなって格子のあいだから流れ、磨きぬいた御影石の床をとこしえに黒く染めている

帽子男 @alkali_acid

ユニコーンは呼びかける。ニュクスよ。ニュクスよ。どうか泣くのをやめて。あなたの美しい顔が涙に濡れるのは見たくない。一角獣の一撃が檻を砕き、翼をもがれた乙女を解き放つ。 「私はもう飛べない。おろかさの罪を永遠にここで償うほうがましでしょう」 「あなたの心の傷を癒せはしない」

帽子男 @alkali_acid

「だが体に受けた傷なら、どんなものでも癒してみせよう」 一角獣は乙女を背負い、女王のもとへと進む。黒い二枚の翼をつらねた扇を手に、微笑む人間の君主のもとへ。

帽子男 @alkali_acid

「それではそなたが我が戦士をあやめたのか。十一番目の怪物よ」 「そうだ」 「だが、英雄はあの男だけではないぞ。この国にはわらわのために命を賭す戦士はあまたいるのじゃ。そして怪物よそなたは一匹。手負いの鳥を連れているに過ぎぬ」 「そうかな」

帽子男 @alkali_acid

「我等は不死なるもの。それゆえ、切り取られた体は大いなる力を保つ。蛇女（ゴルゴン）の首は胴を離れてもにらむものを石と化し、竜の牙は地に落ちれば戦士となる」

帽子男 @alkali_acid

ユニコーンの角が黒く輝くと、神殿は揺れる。マンティコアが、ラドンが、キュクロプスが、かりそめの死から蘇り、十の功業の間からあふれ出る。人間の戦士達は女王を守ろうと立ち向かうが、ああ、誰がこれほどの数の怪物に抗いえようか。かの英雄ですら一度に相手にすることはできなかったろう

帽子男 @alkali_acid

少年は、女王の扇をもぎとると、傷ついた女の背にそっとあてる。翼は再び本来の持ち主のもとに戻り、夜は空へと解き放たれる

帽子男 @alkali_acid

怪物たちはそれぞれの住処へ去っていく。破壊と死をまきちらして

帽子男 @alkali_acid

少年は一角獣の姿となり、静かに告げる「二度と、いかなる英雄も我等に挑むな。夜の翼をむしるな。龍の首を刈るな。巨人の心臓を持ち去るな。一角獣の角を求めるな。その時は破滅がやってくるだろう」

帽子男 @alkali_acid

以来、人間が怪物と交わることはなくなった

帽子男 @alkali_acid

だが、感性の鋭い吟遊詩人や巫女は、深い森や山々の懐で時折、大いなるものどもの姿をかいま見る。木々のあいだに遊ぶ角ある少年と、そのもとに舞い降りる黒い翼の女を

uraura @omote_uraura

帽子男さんの寝る前の即興小説のユニコーンとニュクスが実に感動的だったので、寝る前に一枚ラブラブ絵を描いてみました。いやー、ほんと面白かった。 pic.twitter.com/xh7cBn7VZl

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帽子男 @alkali_acid

ユニコーンはキザなガキだが、たぶん指とかしゃぶられるとぶるるって震えてどうしていいか分からなくなって、ニュクスは人間に惚れて酷い目にあっていまさら都合よく怪物とねんごろになるとかみっともないにもほどがあるけど、口にするのは耐えられないけどもう闇雲に気持ちだけ自由にしちゃって