ドラゴン・インストラクション #4

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ドラゴン・インストラクション】#4

2018-09-21 21:35:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「ゾーイ=サン。気持ちを静めろ。苦しむことはない」口をついて出た言葉は彼女の後悔と自省の気持ちをなお強めただけだった。この娘の境遇に感情移入し過ぎている。ゾーイから身を離そうとするが、ゾーイの方からザルニーツァを拒絶し、突き飛ばした。「離れろ!」 )

2018-09-21 21:36:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ゾーイの怒りが苦悶に変わった。彼女は熱いものから身を離すように、首飾りを外した。今やまともに触れられぬほどに赤熱するその首飾りは、八方向、ランダムな方向に刃が飛び出したスリケンだった。)

2018-09-21 21:38:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうした」ザルニーツァは奇妙なスリケンの首飾りを見た。もはやゾーイは持っていられず、床に落とした。スリケンは真っ赤に染まり、絨毯の焦げるにおいがした。「う、あああ」ゾーイは頭を抱え、膝をついた。「ダメだ……ダメだ」「……!」ザルニーツァは、目を疑った。部屋を見渡す。 1

2018-09-21 21:40:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン……ゴーン。奇妙な音が聞こえた。この場所で聞こえる筈のない音だ。ザルニーツァの視野にノイズが走り、見えないものが見えた。それは何処とも知れぬ荒野であり、黒いトリイの光景だ。「グ……!」ザルニーツァは頭を押さえ、よろめいた。幻視は消えた。何らかのジツの攻撃か!? 2

2018-09-21 21:43:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ただならぬアトモスフィアだ。ここに居てはならない。ザルニーツァは本能的にそう感じ、ゾーイの手を掴んだ。「来い」ゾーイに抵抗する力はない。ザルニーツァはゾーイの手を引き、床のスリケンはそのままに、部屋を飛び出した。等間隔にカドマツが飾られた冷たい通路を、足早に進む。 3

2018-09-21 21:45:59
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正体不明のジツの使い手が、ゾーイを奪還に来ている。ザルニーツァは警戒する。最もありうるのは、ゾーイと共に暮らしていたグレイハーミット。あの男のジツの底はいまだ知れない。生きているとなれば、こうした遠隔攻撃を仕掛けてくる可能性も十分ある。だが娘に等しいゾーイを巻き込むだろうか。4

2018-09-21 21:50:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クソッ……!」ザルニーツァは頭を振った。ボスの……シンウインターのもとにゾーイを連れてゆき、判断を仰ぐべきだろう。このエッジカムの宮殿において、最も安全な場所は当然、彼のもとだ。この廊下も嫌な空気だった。情景が描き直されたような不快感がまとわりついている。 5

2018-09-21 21:54:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま、どのように宮殿内を進んだだろうか。「「「グルグル……グルグルグル」」」喉を鳴らすような笑い声があちこちから聞こえた。ザルニーツァは立ち止まり、身構えた。その笑いはワイズマンにはなじみ深いものだ。柱の影が染みめいて広がり、隆起して、うずくまるローブ姿のニンジャになった。6

2018-09-21 21:56:55
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「ドーモ。ザルニーツァ=サン。カシマールです」彼は床にへばりつき、ドゲザに近い姿勢でアイサツした。「ドーモ。カシマール=サン。ザルニーツァです」ザルニーツァもアイサツを返す。彼女は胸を撫で下ろした。半ば狂ったような言動をとるニンジャだが、ボスへの忠誠は確かだ。……本当に? 7

2018-09-21 22:01:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウフフフ……ク、ウクッ、ウクッ、ウクッ」カシマールは再び笑い出し、その笑いは嗚咽にかわった。「ウウ……ザルニーツァ=サン。あ、暖かさが、お分かりになられる?」「……なにを?」ザルニーツァはつとめて平静に振る舞う。彼女は厳密にはゾーイを連れ歩いていい立場ではない。 8

2018-09-21 22:03:47
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「身体……完全性……高まっておりますぞ。スシ……とても……ウフッ」カシマールはザルニーツァを指さした。「健やかで……何よりです……これで戦えまする……」「サイグナス=サンのイクサは?」「近…こんなに近い。嗚呼」カシマールはにじり寄った。掴んだ手を通して、ゾーイの緊張が伝わる。 9

2018-09-21 22:07:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見えた筈。あれが」闇の中から彼は確信めいて言った。「貴方にも見えた筈。感じた筈。でなければ、そのようにエテルは乱れませぬ」「何を」「さあ!」カシマールは伸びあがった!ザルニーツァよりも身長が高い!「渡すのだ!その娘を!こちらへ!」「アイエエエエ!」ゾーイが悲鳴を上げる! 10

2018-09-21 22:10:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を考えている!貴様!」ザルニーツァはゾーイを庇い、後退した。「この娘はボスのものだ!乱心したか!」「イ!ケ!ナ!イ!」カシマールのローブの中から影が噴出する!ザルニーツァは瞬時に状況判断し、カシマールにワン・インチ・パンチを叩き込んだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」 11

2018-09-21 22:13:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ローブは壁に叩きつけられ、べしゃりと潰れた。影が闇に逃れた。別の柱の陰から再びカシマールがにじり現れた。「理解が、た、足りませぬ。それは貴方の罪ではない……あ、暖かさを……もっと。そうすれば。絶対に。絶対に!」「イヤーッ!」「グワーッ!」カラテ!「アイエエエ!」ゾーイの悲鳴!12

2018-09-21 22:15:46
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「来い!」ザルニーツァは再びゾーイの手を取り、走り出す。後ろで無数の影が沸騰する。厄介だ。カシマールの「墓暴きの虫」たち。正気と狂気の境にあるニンジャであったが、その強力極まるジツゆえに重用されてきた。それが……よりによって今この時に乱心など!彼女は歯噛みし、氷の間を目指す! 13

2018-09-21 22:18:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて彼女の行く先、ボンボリライトに照らされる大きなシルエット!ザルニーツァは安堵した。説明責任、ケジメ、警告……様々な心配をしてしかるべき時であったが、まず彼女は安堵した。孤児院に現れた時と同じ、あの絶対的な姿……「ボス」「どうした」逆光で、シンウインターの表情は見えぬ。 14

2018-09-21 22:21:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエ!」ゾーイが悲鳴を上げる!シンウインターは一歩踏み出す。「ゾーイか。お前が連れて来たのか、ザルニーツァ?何故連れてきた。これは部屋にしまっておいた筈だぞ」「離せ!」ゾーイは半狂乱でザルニーツァから逃れようとする。離さぬ!「カシマールがこの娘に危害を!」「何?」 15

2018-09-21 22:23:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

明かりの角度が変わり、眉間に皺を寄せるシンウインターの表情が見えた。「奴が?」「乱心……あるいはなんらかの叛意をもって、この娘を……」「……」シンウインターはしばし考えた。「それは、ありえん」確信があった。「ですが……」「奴はサツガイの祝福を受けている」「サツガイ……?」 16

2018-09-21 22:27:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ、わざわざ説明する必要もなかった事だ。お前には、知る必要がそもそもない」不穏なアトモスフィアがあった。「ナァグ……ナァグ……グルグル」ザルニーツァの背後の影が膨れ上がった。「ドーモ。シンウインター=サン」「ドーモ。カシマール=サン」「ザルニーツァ=サンが、ご乱心を」 17

2018-09-21 22:32:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カシマールはくぐもった声で伝えた。「この娘を部屋から逃がし、何処ぞへと」「……!」ザルニーツァはカシマールを睨んだ。殺意が膨れ上がる。それから彼女はシンウインターを見た。ゾーイは極度の緊張状態にあり、歯を食いしばって震えている。シンウインターは、頷いた。「そのようだな」 18

2018-09-21 22:35:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「暖かさに……慄いたのでございましょう」「ま、仕方のない事だ。何も知らぬならば、警戒するのも当然だ。ザルニーツァ。お前が何故ゾーイのもとを訪れていたか、その点は疑問だが、それもいい。お前を許そう」シンウインターはザルニーツァの肩に手を置いた。「このガキはサツガイに与えるのだ」 19

2018-09-21 22:41:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザルニーツァの喉はからからに乾いていた。「与えるとは。サツガイとは」「……祝福……」カシマールが呟いた。「然り。祝福者であり、上位の存在だ。ポエットめいた絵空事に聞こえるだろう?いちいち説明するのも面倒だと考えるのも、道理だろう」シンウインターはつまらぬジョークめいて苦笑した。20

2018-09-21 22:44:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあ聞け。愛しいザルニーツァよ。……カシマールはかつてサツガイの来訪を受け、力を得た。そして多少個性的になったものだ。当然、俺はサツガイの再訪を望んだ。俺の……そう……祝福者ならば、俺のニンジャソウルの力を引き出せるだろうからな」脳裏に浮かぶのは、氷の間の巨大化石。 21

2018-09-21 22:51:17