【北海道オリジナル】木コンクリート橋を見てきた【戦時設計】
- profenigma
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(承前)鋼材やコンクリートでも、毎年の酷寒や立地次第では海からの塩害で、長期的耐久性への危惧が大きい(故に特殊鋼材や耐塩性コンクリートなど進歩した技術投入を要する)北海道では、1950年代の一次段階での国道整備に際し、短スパン橋への木コンクリ合成桁採用も合理的選択だったのだろう
2016-09-25 12:00:46(承前)木コンクリート橋について検索しても、架橋されていた時代の論文は多くかかってこないが、伊福部宗夫による昭和24年の力学的な考察のほか、昭和25年に寒地土木研究所の北村幸治による「木コンクリート桁橋の調査報告」(土木研究所報告7号)で戦時中架設の4橋について検証がされている
2016-09-25 12:41:33(承前)北村の調査結果を見るに、木コンクリ桁橋にも単桁と継桁があり、継桁は結合部分のボルト本数不足・施工後緩み(ボルト腐食含む)で状態が悪くなっていたようである(架橋後6~9年程度)。ボルト(もちろん良質な鋼材が必要)にも不足していた戦時中の施工状況がうかがわれる
2016-09-25 12:55:48(承前)ただし北村は伊福部の提案なども踏まえて、今後の木コンクリ橋架橋の場合は基本的にボルト本数増とし、定期的なボルト締め直し等の整備で補えると判断している。また、調査した橋の木材の含水率がほとんど気乾状態であったことを確認している(桁がコンクリートで保護されているため)
2016-09-25 13:03:34(承前)結果としては、この北村の提案に近い形の整備が実行されたのであろう。自動車普及を背景に車道の建設を急速進行させねばならなかった1950-60年代の北海道では、短スパンで済む小規模河川には、鋼桁を手配するよりは、木コンクリ橋の場所打ちをする方が低コストであったのだろうと思う
2016-09-25 13:25:50(承前)もちろんそこには、架橋用桁として良材を確保できた北海道の立地条件があり、後年、道路交通の更なる増大(に伴う要求強度の増大)、桁材に適する材木をコスト枠内で得られなくなったこと、鋼材供給が格段に改善したことなどが、木コンクリ桁の役割を終えさせたのであろうと思われる
2016-09-25 13:33:20なお「木コンクリート橋」は、昭和10~20年代に道内に限らず実例が多く見られたコンクリートアーチ橋(例・旧士幌線タウシュベツ川橋梁や、未開通の根北線越川橋梁)や、その中でも鉄筋の代用に竹を用いた竹筋コンクリート橋とは異質のものである。
木コンクリート橋を検索すると、なぜかタウシュベツ川橋梁がよく引っかかるのだが、無関係。あれは単に若干の鉄筋を用いたコンクリートアーチ橋である。
木コンクリート橋を見てきた(丸太桁バージョン 松前町・荒谷橋)
代用資材による戦時設計でも、本当に複合材料なのか見当がつかない竹筋コンクリートアーチと違い、木コンクリート橋は規模が小さく、かつ木材部分が露出しているのを見る事ができる。
では見てみよう、と2017年夏にレンタカーで渡島・檜山地方を巡った途上、(株)ドーコンの技術陣が学会で紹介していた、松前町の荒谷橋を訪問した。
(当日と後日のツイートが混じっている)
一時間前に松前に着いたが、城とか見る前に、えらいものに遭遇してきた。 復興天守などよりよほど独創的なコンクリート利用法の現物… pic.twitter.com/LYGIsUdlnL
2017-07-28 14:04:04この橋は今では自動車通行止めになっているし、ワンスパンあたり9本ずつ渡された丸太の梁のうち、両サイドの1本ずつは、木製橋脚ともども風雨で腐朽しているが、驚くべきことに床板下の7本は全く健全に見えた。丸太渡してその上にコンクリ20センチ厚で場所打ちし、車道橋にしたのである pic.twitter.com/ryLzbfMzhY
2017-07-28 17:25:27何よりこの荒谷橋、すぐ南は228号現道の新橋が平行してすぐ海であるのに、内側桁が無事なのである。ということは、両サイド桁の木と橋脚の腐朽対策がされていれば、構造物としてはまだ持ちこたえるかもしれないのだ(さすがにそこらが限界にきているし、過加重もあったれうからもうやばいが)
2017-07-28 17:38:09荒谷橋を下流側と桁の底面から。5m単桁2連の荒谷橋の構造的特徴は、木コンクリート桁橋でも後期の「製材した角材でなく、最小限の加工のみ施した丸太を桁に使った」タイプであることで、橋台回りとも、丸太をフルに活用している。側面は風雨にさらされて腐朽気味だが、国道の役目は46年前に引退済 pic.twitter.com/u9d6Oqxlyu
2017-08-06 17:46:37この橋の構造材としてのコンクリートは、橋桁上のコンクリート側面のうち水抜き穴が見える位置より下部分、だいたい15cmほどの厚さで機能している。つまり、桁部分については欄干回りの一部を除いた全体が強度部材になっているという恐ろしく合理的な作りである
2017-08-06 17:52:23荒谷橋の場合、本来はコンクリートもしくは鋼管の橋脚が望ましかったところだが(高規格な橋脚・橋台を整備しておくことで、将来の永久橋架け替え時にもそれら基礎構造を転用できる)、そうせずに掘立の根元をコンクリートで固めただけのような木製橋脚にした理由を推察してみる
2017-08-06 17:54:29まずここには10mの橋長が要る。橋脚なし1スパン10mとするには、木コンクリート橋は単桁では無理で、継桁となる(継桁は1スパン12m程度まで対応可能という)。だが1949-50年の伊福部、北村文献を読めば、木桁に反りを付けるなどの当初対策を施しても、長い継桁は劣化面で不利と読める
2017-08-06 17:56:36永久橋化する場合、鋼桁なら橋脚なし1スパン10mは容易であろう。両岸橋台はコンクリートでしっかりと作られており、むしろ「将来の永久橋化に際して橋脚を撤去しやすいよう」根元をコンクリートで固めただけの木製橋脚にしたように思われる。鋼材による橋脚補強がいつ行われたのかは定かでない
2017-08-06 17:57:24ともあれ「木コンクリート桁橋」の実物を見ることができたことに、深い満足を覚えた……その夜は酒を過ごしてしまったわけだが。 下流側の現道橋の向こうはすぐ海、という厳しい環境で、丸太を主構造とする橋が、よくもまあ数十年、今日まで姿を残しているものだ、と改めて感慨にふけったのであった pic.twitter.com/1O3vAb4Z58
2017-08-06 18:15:27先行した好事家から情報をいただいた
うみちゃん? ✘˵╹◡╹˶✘?@umichan2009さんが上記のツイートを2015年冬に発しておられたのを、2017年秋に発見。
まぎれもない、製材された角材を用いたタイプの木コンクリート橋である。
さっそくお声をかけ、図々しくも場所を教えていただいたが、そこは道内でもオホーツク海岸の湧別町であった。
夏は草だらけになって探索難渋が必至、むしろ冬場向けの探索ポイントだが、クルマ移動必須だから、北海道の冬道慣れしていない本州人にはハードルが高い。
それでも思い切って2018年7月に訪問した。
木コンクリート橋を見てきた(製材バージョン 湧別町の無名橋)
これが湧別の木コンクリート橋・夏版である。このとおり橋の上まで草木が茂り、一見何だかわからないが、橋の下に管を通してあるので、うみちゃんさんが冬に撮られた写真と同一の橋とわかる。 橋の下まで写すため露光オーバーになっているが、雨降りでグシャグシャになりつつの撮影であった pic.twitter.com/MFVGHMYYbE
2018-07-05 22:09:56この状態なので、橋の上からの検証は、夏は確かに不能である。 しかし、木コンクリート橋の真価は橋の裏側にある。そこが見られればおおかた目的は果たせる。 危惧していた河川増水の影響は、支流の枯れ川に管で排水、すぐ下流側に別途下水を流しているので、ズボンの汚れを我慢すれば大丈夫だった
2018-07-05 22:14:17持参コンベックスで計測した、この無名橋のサイズは、おおむね次の通りであった。 桁長・約5.0m 幅員・約3.6m 主桁・6本(うち下流側から4本目が脱落) 木桁幅・155mm 桁間隔・450mm 床板を兼ねた桁のコンクリート厚・約200mm 単桁5m設定、2間幅の幅員、コンクリートの厚みとも、ほぼ標準と言える数値 pic.twitter.com/i6Kbpm4SDt
2018-07-05 22:26:13