【北海道オリジナル】木コンクリート橋を見てきた【戦時設計】

北海道で戦前に開発され、昭和40年代初頭まで国道の道路橋を含めて架橋事例のあった「木コンクリート複合桁橋」の現存事例を、渡道して複数実見した。 伝統的な木橋とは異質な、「コンクリート橋に近い性能を目指し」「北海道で独自に開発された」ユニークな橋。昭和末期までにほとんど消えたものと見られていたが…… 当方撮影の画像については、安スマホでのオート撮影でたいへんお見苦しいですが、長文ツイート共々ご容赦ください。 実地探索にあたり、うみちゃん? ✘˵╹◡╹˶✘?@umichan2009さん、@Brauniteさんほか、Twitter上でご案内、ご示唆をくださいました方々に深謝します。
21

(注)細い流れにかかるごく小さな橋であったため、橋の下の高さは2メートルにも満たず、平均的身長の当方が脚立など使わずに寸法を測れた。

甘木@欅道居士 @profenigma

該当の橋は木桁が1本老朽脱落、木桁に接していた部分のコンクリ打設状況が見えるようになっていた。 桁材と床板を兼ねたコンクリートを場所打ちする際、木桁上面は平滑なまま使わず、凹凸加工したうえで、金具の補強を伴ってコンクリート打設。木桁とコンクリートの結合強度を高めていた=文献どおり

2018-07-15 20:14:50
甘木@欅道居士 @profenigma

力学的に、橋の路面にかかる垂直荷重に伴う桁の変形は「木桁とコンクリート部位のずれとして発生し、やがて分離を招く」と見込まれるから、この凹凸を設ける措置は適切である。 コンクリートの骨材は、その形状、架橋時期と当時の輸送事情からして、川砂利を現地調達したと見るのが自然か pic.twitter.com/qvFupdsIh7

2018-07-15 20:21:52
拡大
拡大
拡大
甘木@欅道居士 @profenigma

うみちゃんさんがかなり以前に撮影された写真でもすでに桁1本が脱落しており、その修復がされなかった時点でこの橋は役目を終えていると言える。 そしてコンクリート割れで漏水している直下の桁は、腐朽し始めていた

2018-07-05 22:28:56
甘木@欅道居士 @profenigma

しかし、写真でもわかるように、漏水を受けていない最上流側の桁は、驚くべきことに乾燥して健全に見えた。 逆に言えば、この橋もメンテさえ適切なら長期間保てたと思われ、桁1本脱落も実際は廃用後の破損と見るのが妥当と思われる。 以上、素人の安直な実地踏査結果である

2018-07-05 22:33:23

このようにユニークで独創的な木コンクリート橋、@Einshaltさんが撮影された国道232号旧橋のように原型をよく残している事例もあるというのに、「北海道遺産」に選ばれるかも、という話は聞こえてこない。
士幌線のコンクリートアーチ橋群、旭川の旭橋は選ばれているんだけど……
あれらのようには目立たない地味な技術なので損をしているように思われる。

関連文献リンク・補足

甘木@欅道居士 @profenigma

改めて、木コンクリート橋に関する近年の検証・紹介文献を掲載する。 高橋敏五郎と木コンクリート橋(2010 畑山義人ほか)library.jsce.or.jp/jsce/open/0003… 木コンクリート橋(1992 西本藤彦) thesis.ceri.go.jp/db/documents/p…

2018-07-15 20:43:51
甘木@欅道居士 @profenigma

このタイプの橋を生み育てた親というべき「寒地土木研究所」で戦中戦後の混乱期直後にこれを検証した文献を紹介する。 木コンクリート橋の設計上に於ける2.3の考察(其の一)(1950 伊福部宗夫)thesis.ceri.go.jp/center/info/ge… 木コンクリート桁橋の調査報告(1950 北村幸治)thesis.ceri.go.jp/center/info/ge…

2018-07-15 20:49:45
甘木@欅道居士 @profenigma

(続き) 木コンクリート橋の設計と計算について(1951 伊福部宗夫) thesis.ceri.go.jp/center/info/ge… 木コンクリート橋の新規架設が途絶えた直後の時期の老朽化検証事例もあった。 木コンクリート橋の耐荷力(1972 大島久・吉田紘一)thesis.ceri.go.jp/db/documents/p…

2018-07-15 20:55:51
甘木@欅道居士 @profenigma

1972年の「木コンクリート橋の耐荷力」を読むと、桁・スラブ・路面舗装を兼ねる木コンクリート橋のコンクリート部分におけるクラック発生が、極めて重大な問題になるとわかる。複数ある木桁に、荷重を比較的均等に負担させたいところ、それができなくなるのである

2018-07-15 21:00:39
甘木@欅道居士 @profenigma

それでも「木造土橋」(在来工法の木橋の路面に土を盛った古いタイプの橋)よりはまし、という結果が出ていた。この論文の参考文献には、「既設橋の耐荷力に関する研究(木造土橋上部工)」という1968年の発表事例が入っており、「50年前の北海道はまだ配慮がいるほど土橋があったのか!」と愕然とした

2018-07-15 21:05:19
甘木@欅道居士 @profenigma

既設橋の耐荷力に関する研究(木造土橋上部工)(1969 大西昭雄・外崎忍・中村敏明)thesis.ceri.go.jp/db/documents/p… これを読むに、北海道内には国道橋でも1968年当時「木コンクリート橋ですらない在来木橋」がかなりあったことがわかり、「よく今の整備状態にまでこぎつけたな」と驚くしかない

2018-07-15 21:11:16
甘木@欅道居士 @profenigma

なお一般向けに木コンクリート橋を解説した書籍としては、北海道の建設コンサル会社・ドーコンから「ドーコン叢書」の2として出ている「エンジニアの新発見・再発見」に掲載された、畑山義人「失われた橋梁技術を求めて」がコンパクトにわかりやすい内容である

2018-07-05 22:48:23

(注)畑山氏は上述の土木学会発表者でもある。

松前町の荒谷橋はドーコン発表・畑山著作で紹介されている。畑山氏はこれに先立って2000年代に全道を巡りながら木コンクリート橋の現存例を熱心に探索し、複数の事例を紹介しておられるが、うみちゃん? ✘˵╹◡╹˶✘?@umichan2009さんの発見された湧別の無名橋はその中に入っていない。

1スパン10メートル以下の短い橋で採用された技術だけに、国道・道道における1970年代以降の掛け替え淘汰も早く進んだ一方、市町村道や廃道にひっそりと残っている事例は、全道に少なからずある、と推測される。
趣味者の方々が関心を持たれることを期待したい。


(追記)木コンクリート橋、島根県にもあった

2019年になって、なんと遠く離れた島根県に木コンクリート橋の残存例が確認された。
(pdf)https://peshimane.net/wp/wp-content/uploads/2019/05/2018-17_島根県B級遺産候補)「木・コンクリート合成桁橋」(中間報告)(松浦-寛司).pdf

甘木@欅道居士 @profenigma

togetter.com/li/1271685 去年このまとめを作って、戦中戦後によそでは作られていなかったものと思っていたが、検索でタウシュベツ橋梁よけ(コンクリート橋でググるといつも出てくるのだ)に「木コンクリート合成桁」でググったら、島根県でえらい発見が

2019-11-18 20:50:03
甘木@欅道居士 @profenigma

google.com/url?sa=t&sourc… 宍道湖畔・一畑の旧県道橋として1950年頃架橋らしい「木コンクリート複合桁橋」が残っていたという、昨年発見、今年pdf化の記述。 これは大変だ

2019-11-18 20:54:29
甘木@欅道居士 @profenigma

読んでみれば、島根県の土木技師の創案だということで、橋台接合部の設計に特徴が見られるが、いかなる流れから出現した橋かは皆目不明。 県の技師による技術でも、長野県の中島武技師によるコンクリートローゼ橋のようなシンボル性を持ちにくい地味な構造物で、今後の解明が待たれる

2019-11-18 21:02:58
甘木@欅道居士 @profenigma

北海道の木コンクリート合成桁橋も、高橋敏五郎という傑出した技術者と彼を支えた技師らの存在、そして彼らの研究組織が寒地土木研究所として存続し、文献を参照できる環境を作っていたからこそ、かなりの足跡が追えるわけで、普通はそうそう調べられるものではない。 それだけに島根の件は興味深い

2019-11-18 21:09:09