週刊 生存ファンタジー3T 第五週(最終週)

生存ファンタジー3Tとは、生存を題材にした3ツイートファンタジー小説です。一話読み切りですのでお気軽にどうぞ。 ※本作は一次創作です。 ※無断転掲載を固くお断りします。
0
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

二つの箱 1 空になった箱で、部屋は埋め尽くされていた。俺の番は終わり、残る二つの内の一つを奴が手にした。これで決まる。この馬鹿げた博打がようやく終わる。たまたま同時にこの部屋に入った。そして同時に下半身が消えてなくなり、空中にひとりでに文字が浮かんだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-24 23:55:01
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 部屋に数百個ある箱のどれか一つを開ければ呪いが解ける。ただし、一生そのままに固定される箱も一つだけある。残りの大半はただの外れ。俺達はかわりばんこに一つずつ開けることにした。どっちが先に呪いを解こうが一生上半身だけになろうが恨みっこなし。 #生存ファンタジー3T

2018-09-24 23:56:02
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 こんな成行は想像もしてなかった。奴は一回深呼吸して、蓋を開けた。なにも起こらない。俺が勝者だ! その直後、奴はナイフを俺に投げつけた。片目を潰された。痛みで怯んだ隙に、奴は最後の一つを開けた。なにも起こらない。俺は安心して、隠し持っていた一つを開けた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-24 23:56:24
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

道具の思い出 1 長い間使っていたナイフが、遂に折れてしまった。もっとも、武器として愛用したんじゃない。木を削ったり小さな獲物をさばいたりするのに重宝していた。最期のきっかけは、昔の貴族が住んでいた廃墟にあった古い樽の蓋だった。ワインくらいは期待したのに。 #生存ファンタジー3T

2018-09-25 21:51:48
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 すかさず相棒が自分のを渡してくれた。感謝して受け取ると、柄尻にイニシャルがはめてあった。ナイフを作った職人のものだ。数週間前まで一緒だった、古い相棒も戦死するまで同じ品を持っていた。私達は様々な意味で深く結びついていた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-25 21:52:21
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 最後の日、私は彼の子供を妊娠したと告げるつもりだった。未発のまま怪物に襲われ、彼は私をかばって死んだ。どうした、と新しい相棒が不審そうに聞いた。答える前に地面がかすかに揺れ、私達は戦いを予感した。私の気持ち……生き延びて聞かせたい、聞いて欲しい。 #生存ファンタジー3T

2018-09-25 21:52:32
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

傷の縫い跡 1 雨が降る日は、右肘がうずく。ムカデがへばりついたような傷跡は、一人で冒険していた時にトロールの斧で刻まれた。どうにか倒したものの、薬草だけでは見た目まで元通りにならなかった。敢えてそのままにしてある。金を払うのも面倒だし。 #生存ファンタジー3T

2018-09-26 22:54:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 宿屋の屋根の下、濡れずに済むのだけがありがたい。とはいうものの、気がつくと右肘をさすってはあの日を思い出す。まだ駆け出しだった。無我夢中で倒したトロールにうろ覚えの知識で油をかけ、火をつけた。斧は戦利品にした。だから、俺の仇名はトロールアックスだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-26 22:58:35
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 もっとも、トロールも前の持ち主からそれを奪っていたに違いない。だからお嬢さん、あんたがくるのは分かっていた。評判も知っている。今度は奪われないようにしろよ。あんたならトロールアックス亭はいつでも歓迎だ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-26 22:58:44
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

洞窟の樽風呂 1 冒険を重ねると、少しくらいのことでは驚かなくなる。にもかかわらず、鍾乳洞の奥で目にした代物には思わず声が出た。大人が二人は入る大きな樽が、頑丈で石の台座に据えてある。樽には蓋がなく、水が満杯寸前まで入れてあった。近づくと、勝手に沸きたった。 #生存ファンタジー3T

2018-09-27 22:01:11
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 用心しながら確かめると、熱湯ではなく程よい温度だった。つまり、お風呂だ。あたしはひどく迷った。危険かもしれない。でも、汗を流してくつろぐ誘惑は耐え難い。幸か不幸か仲間はいない。腹を決め、鎧も服も脱いで、リュックも降ろして入浴を始めた。いい湯だな。 #生存ファンタジー3T

2018-09-27 22:01:33
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 鼻歌でも歌いたくなる。誰が作ったか知らないが感謝しよう。堪能したあと、上がって元通りの格好になった時、一人のエルフが突然現れた。え? お風呂に入った人間と結婚する呪いがかかってた? もう数百年も待っていた? あのねー! #生存ファンタジー3T

2018-09-27 22:01:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

城壁のラッパ手 1 城が包囲されて半年。いくさにかかわれない民衆も抱えこんでいるから食糧の減りが早い。討って出るには味方が少ないし、援軍の当てもない。つまり、俺達は飢え死にか降参かしか道がない。味方の大半は、軍規も守らなくなり城壁にもたれて座り込んでいる。 #生存ファンタジー3T

2018-09-28 20:32:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 だが、少なくとも二人はたってまっすぐ敵を見据えている。一人は俺だ。もう一人は、髪の長い軍楽隊の女の子だ。敵襲を受けたりこちらから攻撃したりする時にはラッパを吹く。それ以外は見張りをする。最初は味方を励ます演奏も軍楽隊ぐるみでしていたが。 #生存ファンタジー3T

2018-09-28 20:36:45
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 ある日遂に、それがきた。彼女がラッパを口に当て、思い切り吹いた。地平線に砂埃が沸き、敵の攻撃が始まった。右往左往する味方をよそに、俺はハーモニカを懐から出して一緒に演奏した。やっと、やっと彼女と二人で音楽ができる。軍楽隊崩れの俺の夢が叶った。 #生存ファンタジー3T

2018-09-28 20:37:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

母屋の屋根裏 1 物心ついた時から、私生児という出自は私について回った。離れのあばら屋で母と一緒に薄いスープとパンくずを口にする生活。にもかかわらず、母は私に一通りの教育を施した。小さい頃は、時々母が一晩中いないことがあった。それは二つの楽しみがあった。 #生存ファンタジー3T

2018-09-29 22:49:55
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 一つは、翌日には決まってご馳走が食べられた。もう一つは、羽目を外し過ぎない限り夜中でも自由に出歩けた。離れのそばにある森は絶好の遊び場で、私は暗い場所が怖くなかった。だが、ある日、母は近所の川で水死体になって発見された。 #生存ファンタジー3T

2018-09-29 22:50:15
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 それからすぐ、私は母屋の屋根裏部屋に連れていかれた。天井越しの会話から、遺産を狙う嫡出子達を黙らせるだしに私が利用されているのを知った。馬鹿め。母を殺させたのは私なのに。森の魔女とは、遺産と引き換えに一人ずつ私の血を滅ぼす約束を交わした。 #生存ファンタジー3T

2018-09-29 22:50:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

地表の祝福 1 この時を何千年待ったことか。私は地獄から蘇った。あらゆる魔法を自在に使いこなす私だが、更なる研究の為に敢えて直接地獄に踏み込んだ。いや、復活そのものはいつでもできたのだ。どうせなら、可能な限り過去に遡り、人類の歴史を作り変えたかった。 #生存ファンタジー3T

2018-09-30 00:05:11
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 行ってから初めて知ったのは、地獄はそう簡単に抜け出せないという事実だ。幸いにも責め苦は免れていた反面、鬼共は意外にも規則にやかましかった。つまり、希望通りに復活する為にわざわざ鬼を手伝った。ある意味では新鮮な体験ではある。退屈しないし。 #生存ファンタジー3T

2018-09-30 00:05:31
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 ともかく、鬼どもに名残りを惜しまれつつ、私は地表に手をかけ、水から上がるように地面にたった。その途端、天使が降臨し、一人の女性を連れてきた。え? これから直接人類を増やしていけ? 他にも何組かカップルがいる? そういう問題じゃないだろ! #生存ファンタジー3T

2018-09-30 00:05:43